Sleeping×Yellow×Vampire02
「いやいや気にすることないですよ! 吸血鬼になったばかりのころによくあることですからね! 力の加減が分からないのですよ! 特に特にホノカは野良ですから余計に分からないのでしょう! こればかりは慣れるしかないので訓練するしかないですよ!」
サンダーさんは恥ずかしくて下を向いて歩くアタシの隣につき、いろいろとフォローの言葉をかけてくれた。それでも車庫に用意してあったすごく格好良い黒のスポーツカーに着くと、
「ささ、開けてあげますよ! 乗る前に壊されるのは嫌ですからね!」
と言ってドアを開けてくれた。全然フォローする気がないことがはっきり分かり、アタシはむっとした顔で車に乗り込んだ。
身体が深く沈む。地面もだいぶ近いような気がする。スポーツカーというものに初めて乗るのでなんだか落ち着かない。一般家庭で育ったアタシがこんな格好良い車に乗ることになるとは思わなかった。
細心の注意を払ってシートベルトをすると、左の運転席に乗ったサンダーさんが車のエンジンをつけた。
「ホノカー」
後ろから声がして振り返る。後ろにレオとフェリックスさんが乗っているのが見えた。アタシの後ろにレオ、その隣にフェリックスさんだ。フェリックスさんが大きいので狭そうだ。
「何?」
「どっか掴んどいた方が良いよ。吹っ飛ばされるから」
「え?」
瞬間、ぐん、と身体がシートに押さえつけられるような感覚がした。まるであの日、アイゼンバーグに抱えられて走っていたときのような感覚だった。驚いて目を瞬かせていると、目の前の景色が飛ぶように過ぎていくことに気づいてしまった。
「えええ!? 速すぎません!?!?」
アタシは怖くなってシートの下を掴んだ。途端、バキッと何かが壊れた音がしたけれどそんなことを気にしていられる状況ではなかった。
「ちょ、やめ……もっとゆっくり!! 危ない危ない!!」
視界が高速で過ぎ去っていく。かろうじて家だったり木だったりすることは分かるが、ジェットコースターに乗っているような視界だった。
「まだまだ序の口ですよ! 警察に捕まったりしないので安心してくださいね!」
「そういうことじゃないです!!」
警察に捕まらなければ良いということじゃない! なんてこった! こんな車にずっと乗っていなきゃいけないなんて!
「ぎゃー!!!」
アタシは叫んだ。もう見ていられないと思って目は早々に閉じたのだが、曲がっているのか時々身体が遠心力で振り回される。シートベルトがガンッと止まり、身体を支えてくれようとするが、そんなものはお構いなしに右に左に前にも後ろにもぶんぶん振り回される。
「死ぬ!! 死んじゃう!」
こんなの命がいくつあっても足りないじゃないか!
「ホノカ面白ーい」
「頭を打たないよう気をつけるように」
後ろからクスクス笑うレオの声や、心配しているようなフェリックスさんの声が聞こえてきたが構っていられなかった。
「ひー!!」
それからアタシはずっと叫び続け、赤の王がいるという場所に着いたときには心身ともに疲弊して一言も話せない状態になっていた。




