Red×King×Vampire01
茨の中にバラの咲いたような装飾が施された鉄の門の前にいる。どうやらここが赤の王という吸血鬼のいる場所のようだった。周りには他に建物はなく、高い木々の立つ暗い森の中だった。切り開かれた森の中を走っていたら突然門が現れるようにしてアタシたちは目的地に着いたのである。
サンダーさんが門の前に車を止め、全員車を降りたのが十分くらい前。フェリックスさんが門の脇にあった小窓から門番をしていたらしい女の吸血鬼に話しかけ、中に話を通してもらっているところである。
アタシは待つ間、森を見回していた。だいぶ目が良くなったらしく、月明かりでも十分に把握することが出来る。それからずいぶん遠くも見えるようになっていた。
見渡してみても動物の姿はない。虫やトカゲなどの小さな生き物もいないような気さえする。それほどにまで、生き物の気配のない森だった。民家の中に建っていたフェリックスさんのお屋敷とはずいぶん違う。
「お待たせいたしました」
門番の女の吸血鬼が帰ってきた。アタシはフェリックスさんの後ろに立っていたレオの隣に並んだ。ちなみにサンダーさんはフェリックスさんの左隣に立っている。
「王は黄の王フェリックス様とお会いになると申しております。それから、共の者は女性だけにするようにと」
小さな窓のようなところから顔だけを見せて女の吸血鬼は言った。
レオとアタシは顔を見合わせた。フェリックスさんとアタシしか入ってはいけないということのようだ。レオはアタシの顔を見て眉を寄せている。
「そのようにしよう。屋敷の中に入れてもらえるだろうか」
「かしこまりました」
フェリックスさんが答えるとゴゴゴゴゴというものすごく重たそうな音がして鉄の門が開いた。断面を見てぎょっとする。この門、二十センチくらいの厚みがある。それを開いたのは先程会話をした女の吸血鬼だ。背はアタシくらいで、とても可愛らしい顔をしていて、
髪は黒いセミロングで目が赤い。服装はスカートの長いメイド服だ。細腕なのに簡単に門を開けてしまった。吸血鬼ってすごい。
「二人は車の中で待つように。一時間もしないうちに帰ってくるつもりだから待っていてくれ」
フェリックスさんは穏やかな顔でそう言い残し、「行こう」とアタシを促した。
アタシはごくりと唾を飲み込み、フェリックスさんの後ろにぴったりくっついて門をくぐった。アタシが振り返る間もなく、背中で門が閉められた音がした。
途端、得体の知れない場所に閉じ込められたような気がして怖くなってきた。広い石畳を踏んで屋敷に向かっているが、周りを見ることが出来ない。目を上げることも出来なくて、アタシはフェリックスさんの質の良い革靴を眺めながら黙々と歩いた。
フェリックスさんが止まったのでアタシも止まった。どうやらお屋敷に着いたらしい。見ていないが、あんなに立派な門だったのだから立派なお屋敷に決まっている。
ガチャリと扉の開いた音がした。
「いらっしゃいませ、黄の王フェリックス様。王は食堂にてお待ちしております」
新しい女の人の声だった。声を聞いただけで相当綺麗な人だということが分かる。妖艶という言葉がしっくりくる色っぽい声だったからだ。
「こちらへどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
フェリックスさんが動き始めた。アタシも置いて行かれないようにすぐに足を踏み出す。
扉の脇で先程のメイドさんが頭を下げていた。アタシが目の前を通り過ぎようとすると急にメイドさんは顔を上げ、赤い目で睨みつけてきた。アタシは咄嗟に目を反らし、また下を向いてフェリックスさんの足を見ながらお屋敷に入った。
たぶん玄関ホールだと思われるところにはワインのような色で重厚な絨毯がひかれていた。足音を絨毯が隠している。
順調に赤の王に近づいている。緊張で喉が渇く。
レオやサンダーさんの言う通りなら、アタシは赤の王に会えば赤の吸血鬼かどうかが分かるらしい。吸血鬼はそういうものだそうだ。しかし、分からなかったらどうするのだろう。アタシはどうやら他の吸血鬼とはちょっと違うみたいだからそういうこともあるかもしれない。それは困る。なんとか分かったとして、赤の吸血鬼だったとしても困りそうだが……。
そんなことを考えながらいくらか真っ直ぐ絨毯を踏みしめていくと、フェリックスさんが止まった。食堂に着いたのだと推測する。
「こちらです」
扉が開く音がした。フェリックスさんの大きな背中で中を見ることは出来ない。そもそも顔を上げることも出来ない。
「フェリックス。久しぶりだね」
男の人の声が聞こえた。たぶん、この声が赤の王。低くて少し癖のある声だなとアタシは思った。なんだかちょっと背筋がチクチクする。
「あぁブランボリー。我が友よ」
フェリックスさんが部屋に入った。アタシもその後ろにぴったりくっついて部屋に入る。
部屋には白い布のかけられた大きくて長い机があった。少しだけ見上げてみると天井に銀のシャンデリアが吊るしてあるのが見えた。赤い蝋燭が立ててあって、橙色の優しい光が部屋全体を照らしている。少し前のアタシなら暗くて仕方なかっただろうが、今のアタシには十分すぎるほどの灯りだった。
「また会えて嬉しい」
フェリックスさんが両腕を広げ、誰かとハグをした。その、誰かの赤い瞳がフェリックスさんの後ろにいたアタシを見ていることに気がついてしまった。
瞬間、背筋に何か冷たいものが駆けていった。アタシはすぐに下を向いた。
とても怖ろしい目だった。腹の底から言い表せない恐怖が湧いてくる。
この人が赤の王……。とりあえず、アタシの身体は爆発しているわけでも色が変わっているわけでもなさそうだった。
「そちらは?」
男の人がアタシに呼びかけている。フェリックスさんが振り返り、二人してアタシを見ているらしい視線を感じた。しかしアタシは口の中が渇いていて声を出すことが出来ず、ドキドキ心臓の音を大きくしながら下を向くばかりであった。
「失礼。緊張しているようでね。彼女のことはあまり気にしないでくれ」
フェリックスさんが言うと男の人は無言で答えた。それから男の人はアタシたちに座るよう促し、自らも椅子に座った。アタシはフェリックスさんに椅子を引いてもらい、礼を言ってから椅子に座った。
「アンナ。アレを」
「かしこまりました」
男の人が言うと、とてつもない美女が机の向こうを通り過ぎていった。腰のところまでスリットの入った真っ赤なドレスを着た、黒髪の絶世の美女だった。胸元も大きく開いていて、豊満な胸が零れそうだった。ホントにもう、絵の中から出てきたのではないかと思うほど綺麗な女の人。男じゃなくても見とれてしまう。唇も目も赤かったから、たぶん吸血鬼だ。




