Blood×Rose×Vampire04
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高い鼻梁に雪のように白くて長いまつ毛。肌はつるつるでキメ細かく、形の良い唇に柔らかい白髪。
アイゼンバーグはいつ見ても綺麗だ。こうして眠っていると本物の彫刻みたい。
人間が晩御飯を食べ始めるころにレオが帰ってしまい、一人になったアタシはアイゼンバーグの寝ている寝室に来ている。眠っている彼の隣に寝ころんで、綺麗な寝顔を見つめているところだ。アイゼンバーグがいるのに一人で何かをしているのが寂しくて、二人が帰るといつもこうして何をするでもなく彼の隣にいる。
動かない彼を見るたび不安になるけれど、今は彼を信じて目覚めるのを待つしかない。
それにしても、ホントに綺麗な人だなぁ。
試しに頬を突いてみる。弾力があってすべすべで気持ちが良い。それから頭を撫でて髪を梳いた。指の間を滑る柔らかい髪の感触は随分心地良い。手触りも良いなんて完璧すぎる。
この人がアタシの恋人。最愛の人、アイゼンバーグ。こんなに綺麗で腕っぷしも強くて格好良い人がアタシの恋人なんて信じられない。性格は少々ばかりかだいぶ難ありだけど、正直で堂々としているところは好きだ。そして彼もアタシを好いてくれている。
この人はアタシの愛に応えてくれるし、アタシに愛をくれるんだ。
ちょっと恥ずかしくなってきて、シーツに顔を埋めて足をばたつかせた。
コンコンコン
悶えていると扉をノックする音が聞こえてきた。これはこの客室の扉をノックした音で間違いないだろう。性能が良すぎる吸血鬼の耳はたいていの音を拾ってしまうため、隣の客室のノック音も拾ってしまう。耳に入ってくる音全てを処理していたら大変だから、音の聞こえ方から距離を把握したりして、雑音と大事な音を分けなくちゃいけない。最初は雑音がうるさくて仕方なかったけれど、今ではもう音を区別して必要な音だけに注目できるようになった。
ベッドから降りてサイドチェストに置いておいた眼帯を右目につけた。最初は黒い方の左目を隠していたけれど、アイゼンバーグが眠っている今だけは青の吸血鬼として通すより黒の吸血鬼として通した方が良いというハイネグリフのアドバイスで変えた。もうデインには知られているけれど。
出迎える準備を整え、寝室を出る。
ノック音が聞こえたきりで何の音もしない。
たぶんレオかハイネグリフだと思うんだけど違ったらどうしよう、と考えながら青と黒のバラが絡まった扉を押し開けた。
「あれ、サンダーさん」
扉の前に立っていたのはサンダーさんだった。いつもと同じ獅子のような髪型に派手な柄のシャツを着ている。けれど雰囲気がいつもと違っていた。会えばにこっと笑って耳が痛くなるくらいの大声で話すのに、唇を引き結んだ無表情でアタシを見下ろしたまま動かないでいる。
居心地が悪くなってきた。どうしてサンダーさんは口も開かず刺すような金の垂目でアタシを見つめているのだろうか。騒いでほしい訳ではないが、普段騒がしい人には騒いでもらっていないと調子が狂う。
「あ、あの、サンダーさん? どうかしましたか?」
堪らなくなって問いかけてみる。
すると突然サンダーさんは何も言わずにアタシの右手首を掴んだ。
驚いて咄嗟に手を引いて逃れようとしたが、指が強く締まっていて相当力を込めないと抜けなさそうだった。
なんで、どうしてこんなにも強く掴むの?
困惑して見上げると、サンダーさんは言った。
「ホノカ。どうか、どうか、お願いです。私についてきてください」
言葉はアタシにお願いをしているのに、声色は全くそうではない。お願いというより強迫のようだ。そして何よりいつもニコニコしている顔に表情がないのが恐ろしくて仕方なかった。
「ど、どうしたんですか? サンダーさんいつもと違いますよ。ちょっと怖いです」
「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。今の私には全く時間がなく、全く余裕もありません。マスター、ハイ、レオが絶体絶命の窮地に陥っているのです。どうか、どうか、助けてくださいホノカ。我々に力を貸してください」
「みんなが絶体絶命!?」
アタシは身を乗り出した。
さっきまでアタシはレオと一緒にここにいた。レオが出て行って一時間も経っていないのに、レオを含めたみんなが絶体絶命のピンチに陥っているとはどういうことだ!?
「説明したいところですが、今は全然全く時間がなく、一分一秒を争います。後で詳しく説明するので、とにもかくにも私についてきてください」
腕を引っ張られた。
いつもの演出じみた抑揚のある話し方でもなければ、冗談の一つも混じっていない。よほどのことがあったのだと分かる。アタシが協力するか否かの選択権を与えていないところもそうだ。サンダーさんはアタシが断ったとしても強引につれていくだろう。まぁ、みんながピンチなのにアタシが断る理由などなく、むしろこちらからつれていってくれとお願いしたいくらいだが。
「分かりました。すぐに出ます。でもアイゼンバーグに書置きを残す時間をくれませんか?」
サンダーさんが「えぇえぇ、いいですよ」と承諾してくれたので、アタシは急いでバラを退けて部屋に戻り、備え付けのメモ帳とペンを取った。
【黄の吸血鬼のみんなのところへ行きます。少しの間君のそばを離れますが、心配しないでください。 ホノカ】
紙に書いている間もサンダーさんはアタシの傍を離れなかった。しかもペンを置いた途端にまた右手首を引っ張り、半分引き摺るようにしてアタシを部屋から出した。
あまりにも強引な連れ出し方に驚愕する。
サンダーさんのこの態度は何だ。
無言でアタシの手を引っ張る金の十字架のブレスレットをした左手を見つめる。それから金髪に覆われた背中を見つめた。サンダーさんは少しもこちらを振り向かず、大股で歩いていく。
だいぶ焦っているのが伝わってくる。一度はアタシを追い出して厄介払いしようとしたサンダーさんがわざわざ来るくらい大変なことが起こった、というのはすぐに推測できたが、それでも異常だ。もしかしたら今アタシが考えている以上にまずいことが起こったのかもしれなかった。




