月夜のライブ!! ――僕らは、♪旅の途中――
【イオ ――大道芸一座・ベルメル―― 拠点内 】
オレは目の前が、真っ暗になりそうになった。
だって、オレ……、歌を唄うなんて、いったい何年ぶりなんだよ!
てか、校歌を歌うぐらいしか、なかった気がするし……、
それに、練習が3日しかないって、どういうことだよ……!?
「楽器はなんでもあるから、好きに使ってもいい」って、勝手に話を進められてるし……。
でも、アルトはまんざらでもないし……、かろうじてミキトが、楽器をいろいろ教えてくれたから、なんとか、呑み込めてはいるけど……。
「こんなオレで、大丈夫なのか……?」
って、言ったのは言ったけど……。
「練習をいっぱいすれば、きっと上手くいくよ。
一緒に頑張ろうね」
――その、アルトの言葉が救いだと信じて、なんとかやる気には、なってます……。 ――
アルトは発声練習を、基礎から教えてくれて、少しずつアルトの音についていけれるようになってきた。
「オマエ、どうしてそんなにキレイな歌声、出せるんだ?」
ふと、気になったので、アルトに疑問を投げかけてみた。
「う~ん……、そうだねぇ……。
僕は昔、教会で聖歌隊のメンバーに選ばれたことあって、子供や集落の人達向けの催しで、よく歌ってたなぁ……。
練習するうちに、いつの間にか、高い音域から低い音域でも出せるようになってたし、みんなが歌で元気になってくれるのも、嬉しかったなぁ……。
でも、練習は厳しかったし、ヒーラーを目指してたから、まさかあんな大舞台で、歌を披露するなんて、思ってもいなかったし……。
――――でもね、イオ。
聖歌隊の経験は無駄ではなかったよ……。
こうやって、君に教えることも、なんだか楽しいし!」
たしかに、最初から上から目線にせず、きちんと教えてくれるアルトは、とても優しい……。
だから、半分嫌々だったけど、『こうなったら、最後までやってやる……!』
という気持ちになれたんだよ……。
【アルト ――初日・イオと歌のレッスン―― 】
僕とイオは思いもよらない、大舞台の抜てきをされた。
僕は歌の経験があった半面、イオは勢いよく、ぶっ倒れそうになった。
驚愕のあまり、彼から漏れた言葉は……、
「こんなオレで、大丈夫なのか……?」
という、下手したら、泡を吹きそうな表情だった。
言いだしっぺのアッサムは、ほぼ適当に――、
「まぁ、練習次第で、なとかなるでしょ!」
と、みんながほぼ、ずっこける|(てか、ミキトとドゥルゲは、もうズッコケていた)という、丸投げ感だった……。
「楽器はなんでもあるから、好きに使ってもいい」と、アッサムは言ってたものの、教会では、クラシックな楽器(ピアノやヴァイオリンなど)しか扱わず、大方見慣れないものばかり……。
その楽器をいちばん知っていたのは、ミキト……、ただ1人だけで――、
ロミも楽器は扱うことはなく、知らなかったようだ……。
「これは、ギターだね。
すごいなぁ、この世界にもロックなギターがあるなんて!
ああっ、これも見たことあるし、あれも、これも……――――!」
ミキトは、やや興奮気味ではあったけど、だいたいの楽器の特徴を教えてくれた。
――もしかしたら、ミキトの世界は、もっともっと発達しているんだろうな…… ――
そんなふうに、感じた僕は、改めてうなだれているイオを勇気づけて、楽しくさせようと、こう言った。
「イオ、大丈夫だよ。
いっぱい練習すれば、きっと上手くいくよ。
一緒に頑張ろうね、もし歌が上手くいかないなら、僕が教えるよ」
すると、彼はあれほど嫌がっていたのが、やっと納得したようで……。
「もう、こうなったら、たとえヤケでも、最後までやってやる……!
歌は……、まぁ、保証しないけど……」
最後はツンデレ気味で、自信なさげだったけど、なんとかやる気になって、よかった……。
まずは、イオが発声練習をしてみると、『本当に歌っているのか!?』と思ってしまうほど、音楽そのものを知らないような、歌い方であった。
なので、僕がピアノ・アコーディオンを、少しずつ鳴らしていき、徐々にイオの音を修正していく……。
――ピアノがあれば、もっと正確な音を教えられたけど……、ここには無いから、まぁいいか――
さすが、『2人で1つの身体』であって、物覚えはすごく良く、妹さんの方が、すべて吸収してくれる。
肝心の兄は、どうやら難しい話は、苦手のようで――、
例えば、僕がある音を、『♪ポ~ン』と、弾いてみる……。
すると、イオはそれらしい音を『ア~』と、発声すると……。
「〈違う、正しくは『ド』の音でしょ!
イオのは、『レ』の音になってる~っ!!〉」
「あれ、そうだっけ……?
オレはたしか、それっぽいような音出したハズだけど……?」
「〈だから、ち~が~うのっ!
イオは元の音より、1段階上がってるの!〉」
と、|(こちらから見ると)身体は1つなのに、2人分の会話を見ているようだった……。
しかも、妹さんの方が正確すぎて、言い合いになることも、しばしばだし……。
「まぁまぁ、落ち着いて。
イオは、レダになるべく合わせれるよう、がんばって。
レダも、そんなゴリゴリに当て嵌めようとしなくて、いいからさ……」
とまぁ、僕が時々なだめに入っては、教えに戻り……、という繰り返しで、イオは少しずつだけど――――、
なんとか、ちゃんと歌えるようにまでは、なった。
あとは、最終課題でもある、曲作り……!
本番まで、残り2日しかないのに、大丈夫かな……?
【アルト ――2日目の難題―― 】
イオが音に慣れたところで、今度は楽器に慣れさせてみようと、試みる。
とりあえず、楽器の説明は昨日、ミキトがしてくれたので、そこは割愛。
問題は、『自分たちが、どのような曲を披露するか』、ということである。
クラシックでは、この街の文化と釣り合わず、飽きられてしまうだろう……。
かといいながら、この街の音楽に合わせようなんて、到底思わない――、
かえってこちらが、疲れてしまうからである。
僕の頭では、あまりにもジャンルが乏しいので、結局ミキトに相談することになった。
すると、彼はこんなジャンルを提案してきた。
「クラシックやラテン系の音楽が、合わないと思うなら……、
あっ、『ロック』とか、どうかな?」
「「えっ、ロック……!?」」
僕とイオは聞いたことのない、ジャンルだ……。
だが、イオはあまり分かってないのか、すっとんきょうな質問をする。
「それって、『鍵』のこと?」
ミキトは、冷静にツッコミ、わかりやすいように、説明する。
「――――いやいや……、その『ロック』じゃなくて、
音楽のジャンルの1つだよ。
ほら、このギター……、クラシックで使うようなギターとは、ちょっと形が違うし、こうやって鳴らすと……」
ミキトはカッコイイ形の、ギターを手に持ち、弦を勢いよく鳴らした……!
♪ギュイ~~~~~~~ンッ!!
「「うわぁぁぁっ!?」」
すごい、ギターとはいえども、身体中に響きわたる重低音、普通のギターの音とは、真逆だ。
「こんなふうに、音がまったく違ってくるんだよ!」
ミキトが最後に、その言葉でまとめた。
「すっげー!!
こんなギター、初めて見たよ!」
「僕も、クラシックで使われるギターは、よく見るけど、
ここまで響きのある、ギターは初めて……!」
イオも、僕も感動して、いつの間にか子供のように、ミキトの元へ詰め寄っていた。
「いやぁ~、ボクもこのギター、やってる人を見てただけで――――、
本物を触るのは初めてなんだけど……」
少々、困り気味で答える、ミキト……。
でも、『君に相談して、正解だった』、そう思っていると、ミキトがさらにひと言、付け足した。
「でも、どのような曲にしようかは、まだ決まってないかもしれないけど、
ロック1つで、曲調がかなり変わってくる。
ホントにゴリゴリのロックにしちゃうと、みんながうるさく感じてしまうかもしれないから、ボクとしては、『程よく』の、方がいいな~って――――」
最後は、両手を合わせながら、若干、要望っぽい言い方を、ゆる~く入れてきた。
そう考えると、この重低音は程よくにしないと、『迷惑な音』にしか、聞こえかねない。
「あとは、どのようなリズムにするかで、変わってくるね~」
さりげなく、ミキトは自分の知っている範囲だが、教えてくれる。
その後に――、
「そうそう、アルトは知ってるかもだけど、リズム取るのって、だいたい打楽器だよね?
『ロック』なら、ドラムだよ~」
と、またゆる~く教えてくれた。
――そういえば、ドラムって、あったかも……? ――
まぁ、できる人は、あとで探すとして……。
なんだかんだで僕とイオは、あてもなく漠然とジャンジャン弾き鳴らしつつ、歌っていた。
その間に、ミキトから、ゆる~く教えてもらいながら……。
――もう何時間も経っただろうか……。
ただなんとなくで弾いていたギターや、あとになって、イオが担当することになった、ギターより低い音が出る、『ベース』も、慣れてしまった……。
だけど、何も収穫がなかった訳ではなく、自分たちが披露する曲のテーマが思い浮かんだ。
それは、『旅の途中』。
僕だけでなく、みんなが共通しているのが、『かつての人生が、波瀾万丈だった』ことと、『これから新しく、スタートしたばかり』、ということだった。
それをふまえて、歌詞がどんどん、まとまっていく……。
あとは、曲調なんだが、さっき漠然と弾いていたメロディが、次第にテンポも、疾走感だったり、すこしゆっくりになったりと、波打つようになり、ドラムができる人も寄ってきて、早速お願いすると、快諾してくれたので、これはラッキーだった。
僕たち、2人にとっては、斬新で、未知の領域だけど、いつしかひとつの曲となっていった……。
――――拙くて、ぎこちない曲かもしれないけど、みんな聴いてくれると、嬉しいなぁ…… ――――
【ミキト ――ドキドキの当日―― 】
あれから2~3日、2人の横で練習を見てきたけど、
当日を迎えても、不安の感情が、どうしても出てくる……。
『緊張してないか』とか、『ちゃんと間違えずに出来るか』どうか――。
まるで、2人の親になったような気分だ。
そういえば昨日、アッサムが2人とそのバンドに参加する人らに、衣装作ってて、試着もしてたっけ。
イオはとんがり帽子を脱いで、赤や白、青の布で作った、色とりどりのターバンで、レダの髪辺りに金と赤の宝飾、身体は星を散りばめたデザインで、パッと見、砂漠の国の人かと思えるような衣装で、とっても斬新だった。
一方、アルトの方は――。
猫耳としては、多少変わらないが、フードから帽子に変わってて、銀髪のメッシュがはっきり見え、少し凛々しくなった。
というのも、本人が『猫耳が無いと、落ち着かない』と、希望したため、フードに代わり、黒猫耳のニット帽になったらしい……。
でも、身体の部分はイオとは対照的で、もっとオシャレな衣装となってて、やや大きめの太陽のマークが特徴だった。
これも本人が、アッサムと相談して、作ったらしい……。
こんなところで、アルトのこだわりが発動するとは……、意外だった。
普段、ローブ姿しか見ないから、それらしい衣装を着たところを見た時は、すごくかっこよかった。
―――だから、今日こそはちゃんと無事に終わってほしい、何事もなく、綺麗に…… ―――
「なんか、見る側のあたしらでも、緊張しちゃうね?」
ロミが、歩きながら話しかける。
ボクとドゥルゲに、ロミの3人で、カーニバル当日の雰囲気を楽しんでいるのだが、いつもロミは舞台に出る側だったので、なかなか心ゆくまで楽しむことは、なかったそうだ。
「うん、まるで血が繋がってないのに、保護者になった気分だよ……」
ボクは若干、不安げな表情で答える。
「おぉ?
ミキトが『保護者気分』とは、珍しいな。
そんなに心配か?」
ドゥルゲはあたかも、まったく心配してないかのように、いつもの癖である、後頭部に手を組む。
「え?
ドゥルゲは心配じゃないのか?」
ボクは逆に訊き返すと、彼はこう言った。
「べ~つに?
てか、2人を信じなよ!?
唯一の仲間である俺らが、信じなくてどうすんだよ?」
やっぱり、ドゥルゲらしい答えだった。
彼はどこかサバサバしていて、でも頼れる兄貴分だったり……。
あ、でも、このメンバーでは、実質最年長か――、
『超』が何個もついても、おかしくないぐらい。
ボクの元の世界なら、生きてるのが不思議なくらいかな……?
――な~んてね!
それにしても、すごい賑わい……。
どの劇団も、自分の芸や演技を見て欲しいといわんばかりに、勧誘の人がボクらを通りかかるたびに、声をかけてくる。
「あ、そうそう!
これ、前からず~っと食べたかったんだ!
毎年遠目で見てるだけで、買えなかったの……」
ロミが指さしながら見ているのは……、あれ……っ、ケバブ!?
「それ、ケバブでしょ?
そういや、ボクも食べたことないな……」
ボクはそう言いながら、腕を組んでいると、ロミが少しビックリした顔をしていた。
「えっ、ミキトがなんで、『ケバブ』を知っているのに、食べたことないの!?
そもそも、なんでコレが、『ケバブ』って、知っているの!?」
と、やや身を乗り出しながら、質問攻めになった。
感情的になっているロミに対し、ボクが冷静に答えようとすると、ドゥルゲが代わりに答えてしまった。
「ミキトのもといた世界は、エイヴリーテよりも、ずっと文明が発達してて、それぞれ地域の文化が栄えている。
その異国の食べ物が、たまたま目の前にあったから、知ってたんだよ」
ボクが説明しようとしていた内容と、まったく違って、しかも分かりやすい……。
もしも、ドゥルゲがフォローせず、一生懸命自分で説明していたら、もっと混乱させてかもしれない……。
そう思うと、さっきのドゥルゲの説明が、ロミに対してカンペキで、彼女もすんなりと納得してくれた。
「へぇ~。
ミキトの世界って、そんなにいろんな文化があったのね……。
もし行けるなら、行ってみたいかも……!?
あの……、さっき、ムキになっちゃってごめんなさい」
「いや、いいよ。
こないだ会ったばかりだし、知らなくて普通だよ」
――そう、『無知』って、意外と怖い…… ――
人はみんな、その人が居た世界、地域が基準で喋ることが多々ある。
だがしかし、いざ違う世界をそれぞれ生きた者同士、それぞれの基準で喋ってみたら、どうなるだろうか……?
もし穏便に済むのであるなら、それぞれの文化を情報交換しあい、今まで知らなかった部分をお互い吸収しあうだろう……。
――だが逆に、それがうまくいかなったとしたら……?
『自分が正しい!』の一点張り同士、ガンコでケンカに発展し、最悪な場合――、結末はもう見えてしまうだろう……。
だからこそ、ここ最近、世間|(ボクのもといた世界)では『無知は罪』という、妙な言葉が、そこまで人知れず、蔓延したのかもしれない……。
まぁ、そんな論理は置いといて……。
それぞれの露店の明かりからこぼれる、見上げた夜空は、船から見る景色とまた違っていた。
さっきの『ケバブ』はというと、ボクとドゥルゲ、ロミの3人でそれぞれかじりながら、ぶらぶらと街を歩く。
彼らの本番はもう近い……。
ボクも緊張はしているが、それ以上にイオとアルトは、おそらく緊張しているだろう……。
その会場に近づくにつれ、胸の高鳴りが騒がしくなる。
「ミキト、こっち」
ロミが手招きしながら、本番の会場へ案内をする。
セットのつくりは、一言で言うなら『野外ライブ』のようなステージで、ボクがもといた世界では、テレビなどで見慣れたものだった。
会場の明かりは、木で作った焚き火台がちらほらあり、人が誤って寄り付かないようにしてある。
それでも会場自体はレンガの作り、遠くからでもある程度は見えるようになっていたから、安心だ……。
ちゃんとバックバンドの楽器も設置はされてはいるが、今のところそんなには使われてはいないようだ。
「今は違う劇団の公演で……、たしかこの次の公演だったはずよ」
ロミはボクとドゥルゲに聞こえるような小声で、そう言ってくれた。
たしかに今は、ロミが在籍している劇団の人とは違うようだし、ボクにとっては面識のない人たちだ。
「スゲー、クルクル回ってんな……?」
ドゥルゲが、ポツリと呟き――――、
「音楽が南国っていうか、少数民族の音楽みたい……」
ボクも呟いた……。
「まぁ、だいたい、こういう踊りが多くて……。
だからうちの団長は、『大道芸でやろう!』って、決めたらしいよ。
ちなみに、ストーリーがあるタイプは、別の会場なんだって」
「あ、じゃあ――、
ここは、大道芸とか、ダンスとかの会場なんだ……?」
ロミが説明した後に、ボクは確認するかのように、訊き返す。
「うん、あとは歌とかね」
「「「「「わあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!」」」」」
会場からあふれ出る、オーディエンスらの歓声が、今の公演の終わりを告げる……。
「終わったみたいだね」
彼女がボクらに、知らせる。
すると、今度はこの会場のMCだろうか?
――――男の人が出てきた。
「てか、この世界にも、『マイク』があるんだ……」
ボクが思わずつぶやくと、ロミがなんだか嬉しそうに、答える。
「うん!
この国だけ、微妙に機械が発達してて、だからいろんな楽器があるんだよ!」
そうか……。
言われてみれば、ボクのもといた世界とそんなに変わらないぐらい、楽器やアンプといった、音楽環境が充実しているけど、ロックができる最低限のもの、この世界の現状だともいえる……。
――――となれば、マイクがあっても、おかしくはないか……。
ボクが納得したところで、MCが次の公演を紹介する。
「――――え~、続きまして……。
大道芸一座、『ベルメル』代表の2人……、イオとアルトのお二方による、歌の披露でございます!
曲名は『旅の途中』、彼らが初めて曲を作り、この場で披露してくださいます。
皆様、温かい拍手をお願いします――!」
ボクやドゥルゲ、ロミも含め、オーディエンス全員が、舞台袖から出てくるイオとアルトたちを、拍手で送りだす……。
舞台左にアルト、右にイオ、それぞれギターとベースを抱え、後ろには『ベルメル』の劇団員らが、バックバンドとして、サポートに入っている。
アルトがスタンドマイクを持ち、オーディエンスに向かって、自己紹介をする。
「え~、皆さんこんばんは!
3日前に急きょ、『ベルメル』の代表として抜擢されました、アルトと――」
「イオで~す!!」
各々、自分の名前を言いながら、それぞれの手を挙げた。
彼らの緊張が、ボクらにも伝わるし、何よりも『3日前』のキーワードに対して、オーディエンス全員がざわざわし始める……。
「あの、ボクらは、生まれて初めて曲作りなど、いろんな体験させてくれたことには、『ベルメル』の皆さんや、僕と共に歩んだ仲間に感謝しようと、思います……!
聴いてください、『旅の途中』」
初めは、少しアウェーな雰囲気が漂っていたが、勇気を振り絞って、喋ってくれたことで、
ざわつきから拍手に変わっていった……。
バンドのメンバー達に合図を送り、アルトとイオは、それぞれの楽器を手にする……。
アルトは、大きく息を吸い、本番がスタートした――――!
こんな拙い 歌かもしれないけど
まだ まだ ぼくらは 旅の途中です……。
人生なんて 先が見えないんだ
どうして だろうな?
こんなにも 苦しくって
『届きそうにない』って わかっているんだけど
もがきながら 歩み続ける
涙零すのは もうやめた
明日が 見えないから
掴んだ この時代
1歩ずつ歩いて行くんだ
こんなぼくらが 云うもんじゃないけれど
人はそれぞれ 似たもの同士
だから手を取り合うのさ
言葉では難しいから
まだ まだ ぼくらは 模索中なんです……。
どんな時でも 思い通りに
ならない事も たくさんあるけれど
あきらめないで 挑戦すれば
きっと いつか 叶う時が来る
たとえ雨の日でも 止まない日が あるわけがないのさ
暗い夜でも 朝が来るから
その光を 目指して行けばいい
だから 前を向いてゆこう
ほら そこに 仲間がいるから
拙い 歌だけれども 聴いてくれて ありがとう
こんなぼくらが 云うもんじゃないけれど
人はそれぞれ 似たもの同士
だから手を取り合うのさ
言葉では難しいから
まだ まだ ぼくらは 出発したばかりです……。
途中途中、2人は楽しくなってきたのか、だんだん顔を見合わせたりして、ようやくセッションらしくなって、
アウェーだった会場の雰囲気を、どんどん巻き込んでいき、やがてボクがかつて見た、テレビの中のライブのような、盛り上がりようだった…!!
「「「「わあああああぁぁぁぁぁ~~~~~っっ!!!!」」」」」
「「「「ピュ~イ、ピュ~イ!!」」」」」
【イオ アルト すべてをやり遂げた後】
僕は、思いも寄らない奇跡が起こった……。 オレは、こうなるなんて、思ってもみなかった……。
【イオの見解】
そりゃあ、やるからには、盛り上がってほしいし、3日間という超短期間で、たくさん練習したから、いい結果に終わらせたかった。
歌の知らないオレを、アルトが一生懸命、教えてくれたから、本番は緊張したけど――――、
すっっごく楽しかった……!
こんなの……、人生では経験することなど、ありえないから……!
【アルトの見解】
僕はイオに、イチから歌を教えるのを考えつつ、曲をどのように作ろうか、すべてが大変だった。
――大変だったけど、ミキトがそっと後押ししてくれたから、なんとかなれた。
本番、成功すると願って挑んだら、この空気……。
一瞬、血の気が引いて、焦ったけど、『この空気、なんとかしなきゃ!』と思い、口を開いたら、
いつの間にか勝手に言葉が出ていた。
そして歌っていくうちに、緊張がほぐれ、テンションがハイになり、気づいたら大歓声のまま、終わっていた……。
思わず、涙が出そうになった……。
【ミキト 祭りのあと】
ベルメルの拠点にて……。
「「「カンパ~~~イっ!!」」」
みんな揃って、カーニバルの公演の成功を祝福し、打ち上げで盛り上がっていた。
それと、『イオとアルトたちは、カーニバルで特別な賞をもらったということ』で、あたかも自分が入賞したように、とても嬉しかった。
「みんな、よくやってくれたよ!
こんなに大盛況するとは思わなかったし……、
それに――――。
アタイの急なワガママに、付き合ってくれてありがとう……」
アッサムが徐々に湿っぽくなって、楽しい雰囲気のはずが……、だんだんしおれていく……。
別に泣いているわけではないけれども、会ってすぐ、しかも団員たちの面識が無い、ボクらを抜擢したのは、アッサム自身でも無謀だと承知していたのだろう……。
それでも、アルトは笑って、アッサムの目の前に近寄り、感謝の意を伝えた。
「副団長さん、そんな風にしないでください。
僕らは、とってもいい経験をしたんですよ?
こんなにめったにない機会を、あなたが与えてくれたんです……。
なので……、こちらこそ……、ありがとうございました!」
最後にアルトはお辞儀をして、また笑顔で笑って見せた……。
アッサムは、彼の思いもよらない行動で、意表を突かれたのか、若干戸惑っていた。
だがすぐに、クスッと微笑んだかと思うと、急に大笑いし始めた……!
「お~、そうかそうか!!
確かに、そんな経験なんて、興味などなかったら、
絶対にやらなかっただろうな!
アタイも、いい刺激になったし、いつまでもロミやイオに、アルトばっかに頼ってなんていられない……。
『いとしき子に旅をさせよ』だな……」
アッサムは急に……、らしくないことを(ボクにとって)、言い始める。
でも表情は、なんだか吹っ切れたように、清々しい顔でふるまっていた。
「ロミよ、アンタもミキトたちと共に、旅をして――、
もっと広い世界を、見て回った方がいいかもしれない……」
意外すぎる発言に、ロミは戸惑いを隠せない……。
「それって……、あたしは……――!?」
ロミは戸惑いで、両手を口に当てていた……。
――おそらく、『自分はクビになるのではないか』という、不安もよぎっていたのではないだろうか……?
だが、アッサムはロミの思惑を、すぐに消し去るように、頭を振る。
「い~んや。
アンタをクビにするなんて、そんなもったいないことはしないさ。
アンタは、この『ベルメル』の中では、貴重な逸材だからね」
その一言で、ロミはホッとする……。
そして、アッサムはさらに、こう続けた。
「だからこそ――、かな。
寧ろ、広い世界を見て、もっと『芸そのもの』に、磨きをかけてほしいと、
アタイは思う。
まぁ、アタイだって、この街を出たことはないし、いろんな地名を聞くが、『それ』がどんな感じで、文化があるかどうかすらも、知らない……。
かといって、この一座を飛び出すなんて、アタイはできないのさ」
こうやって、喋ってはいるが、顔は『真剣な表情』で――、
でもそこまで、空気としては、張りつめていない感じだ。
「ならば、ロミ自身が、『ほんの少し』でもいい、羽ばたいてほしいのさ。
何かあったら、『一座』に帰ってくればいいのだから……」
――要するに、ボクの見解としては、こうだ。
ロミや今日披露してくれた、イオやアルトたちは、『とても素晴らしい逸材』だと思っている――。
だからこそ、こんな『閉ざされた世界』で、ローテーションのように、同じ芸をするのではなく、
『新しい扉』を開き、違う文化も取り入れて、もっと『新しいカタチ』を、アッサムたちに見せてほしい……。
――もちろん、彼女が嫌じゃなければ……、という前提での話だけど……。
という感じかな。
アッサムの言葉に、ロミはかなり悩んだと思う。
本業を一時的に休業して、ボクの言葉でいえば、『武者修行』の旅に出ることになる。
それを決めるのは、ボクらではなく、ロミ本人なのだから……。
みんなの視線が集まる中、彼女が出した答えは……。
「副団長、暖かい言葉、ありがとうございます……。
その話、乗ってみたいと思います。
本当はあたし……、いつかはこんな日が来るんじゃないかと思ってました……」
「「「えっ!?」」」
ボクらだけでなく、アッサムら劇団員、全員が驚いていた……!!
ロミはさらに続けて、こう言った……。
「でも、あたしはこのベルメルが、いちばん好きなので、もちろん辞めるつもりはありません。
ただ……、『きっかけ』が、欲しかっただけなんです……。
リシャス様が、『いつか、越えなければいけない、試練を用意するから』って、
転生前に言っていたんです。
だから、『その時が来たんだな……』、って。
あたしは、『過去を清算するため』にも、ミキトたちと共に、ついてきます……!」
ロミの意思は固く、凛とした表情で、前を向いていた。
『もう、迷いなんてない』という感じで、そのあとに笑みもこぼしてみせた。
「さあ、もう打ち上げはお開きだ!
まだまだロミと喋りたりてないヤツは、今のうちに喋っておきな」
アッサムが両手を叩きながらそう言うと、今まで彼女に話すことができてなかった団員たちや、ひとときの別れを惜しむ人達が、こぞってロミのところに集まり、いろいろ質問攻めになっていた。
こうして、楽しくて、ドキドキした、いい経験が、終わりを告げようとしていた……。
【ミキト 芸術街 ――新たな出発―― 】
リヴァージュの朝は、とても晴れやかで、夏のリゾート地にいるような気分だ。
「アッサムさん、お世話になりました!」
ボクは、ベルメルの拠点前で、見送ってくれるアッサムや団員たちに、一礼をした。
「おうよ。
ロミ、存分に旅してこい。
――――でも、辛かったら……、いつでも戻ってきていいからさ。
アンタの帰る場所は、ここにあるんだから……」
言葉の途中で、アッサムの哀愁漂う表情は、まるで家族を心配するような感じになっていた……。
――他人とはいえ、『同じ釜の飯を食った仲』の一員……。
アッサム自身も、いろいろと考えたのだろう……。
それでもロミは笑って、アッサムにこう言った。
「ありがとう、副団長……。
辛いことあるかどうかは、わからないけど――、
それでも『乗り越えなきゃ』と思って、がんばってみるよ。
きっと、一皮むけた状態で、帰ってきてみせるよ……!」
すると、アッサムはロミに活入れるかのように、ロミの左肩を叩いた。
「――なら、がんばってきてくれ!
そうじゃなきゃ、うちの看板娘を送り出した意味がないからな!」
団員たちが、思わず失笑すると、ロミやボクらもつられて、笑ってしまった……。
「さあ、『お別れ会』もここまでだ。
――あぁ、そうだ、ミキト。
この近くに『討伐屋』があるから――、
旅の厳しさを彼女に、教えてやってくれ」
最後はボクに、『討伐屋』の場所まで、教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「いってきます……、副団長!」
ボクがお礼を言って、ロミは挨拶しながら手を振ると――、
それに答えるかのようにアッサムは、返事しながら手を振り――――、
団員たちもこぞって、手を振った……。
【ミキト 討伐屋内】
アッサムに教えられたように進むと、討伐屋に着いた。
ボクらやロミにとって|(ドゥルゲは経験者だが)、初めて利用することになる。
――簡単だが、討伐屋のシステムについて、ドゥルゲが教えてくれた。
壁には、この地域での『討伐依頼書』が多数、張られており、自分が討伐する対象を、受付にて申請し、引き受ける。
終わったら、再び討伐屋に行き、報告して報酬金を受け取る……。
――という、感じだ。
「こんなにたくさん……、あるんだ」
ボクですら、張り紙の量の多さに、ビックリだ……。
「みんな、これで生活してる人が多いし、逆にその魔物で困っている奴らも、いるのはいる。
だから、依頼が絶えないのさ」
と、ドゥルゲがそう解説してくれた。
「ねぇ……、これって――」
ロミが蚊の鳴くような声で、ポツリと呟く……。
ふと――、ロミの方に目をやると……、とある張り紙に取り憑かれるかのように、ゆっくりと歩み寄っていた……。
『それが何か』というのを、自分で認識したと思えば――――、
今度は何か思い出したかのように、目をカッと見開き、青ざめた顔で、腰を抜かしてしまった……!!
「大丈夫か――――!?」
ボクらは、急なロミの変化に気づき、慌てて駆け寄る……!
ロミは静かに首を縦に振り、半分涙声で、依頼書に指をさして、こう言った……。
「ねぇ……、この魔物の討伐に付き合って……!
あたし……、この大きな人狼……、知ってるの――――」
ドゥルゲは、彼女のただ事じゃない表情を見て、指をさしている方向に、早足で歩み寄った。
「『砂漠の遺跡・アーシュファの奥に潜む、突如現れた人狼。
遺跡調査隊が、発見。
このままでは、調査ができないので、討伐依頼致す』――。
う~ん、この魔物……、最近発見されたみたいだ」
ドゥルゲは、依頼書を手に取り、内容を淡々と読み上げたあと、下の方に目をやり、発行された日付から|(ボクからは、何を見ているのか、細かいところはわからないが)、推測した。
「――――やろう!!
きっとこれが……、ロミの立ちはだかる壁なのかもしれない……!!」
ボクは、右手の握った拳を胸にあて、彼女の試練に立ち向かう事を、決意した――――。




