アルトたちの試験3
【ミキト レイセル洞窟内】
休憩も終わり、イオが再び焚き火から灯火に戻したところで、洞窟探索も再開した。
入った当初は、シンプルなつくりだと思っていたが、奥へ行けば行くほど、徐々に複雑なつくりになってきた。
「こんなつくりだったっけ……?」
アルトがやや小首をかしげて、ぼんやりしそうになるぐらい、ボクらにとって、もはや未知の域となっていた。
「そうだ、『アイリスクォーツ』って、
なんか特徴とかないか?」
イオがこの空気をなんとかしようとして――――、
お目当ての鉱石のことについて、アルトに話しかけてきた。
「そ、そう言えば……、
僕は書物に書いてた情報なんですが――――。
一見、真っ白な見た目で水晶みたいなんだけど、その石が、あるとき亀裂が入ったりすると……、とても綺麗な虹色の輝きを放つんです。
その石は、人呼んで、『希望の石』ともいわれています――――」
要するに、こういうことだ。
アイリスクォーツは、水晶のような透明度がありながらも、そこからの亀裂から、七色の輝きを持つという、とてもめずらしい鉱石である。
様々な輝きから、その石を身につけ、願いを込めれば、その願いが叶うとかなんとか……。
いろいろな伝説もあるようだが、この世界ではどの石の中でも、ヒーリング効果が高く、教会ではとても貴重な鉱石ともされていた。
――院長は、端からアルトの回復力が弱いと知っていたから……、
『卒業試験』として、ボクたちと共に、採りに行かせたのだろう……。――
と、ボクはある程度、鉱石のことを要約しながら、推測する。
こ、この辺は、みんなにも話しているからね……!?
「だったら、なおさら――――、
採らないとね」
ドゥルゲはそう言いつつ、いつの間にか前に腕を組んでた。
「<てか、進まなくていいの?>
……って、妹が。
――そういや、そうだ」
イオとレダのしれっとした一言で、一同が「あ!」と、ハモって、
『グダグダしていた』ということに気がつき、「そうだそうだ」と、なぜか全員が同じように、そわそわ|(?)しながら、現実に戻る。
「とりあえず、光をともせば、
石がわかるんじゃんねーか?
光弾!」
――こうなりゃ、光で進む道を示せばいい!――
というような感じで、目の前の3つの分かれ道に、光の弾を放った。
……すると。
キラ~ン……!
「「「「ん!?」」」」
左の分かれ道の方から、僅かな輝きが漏れていく様子が見えた。
「もしかして、こっちに……?」
「迷ってるヒマなどない、行くぜ!!」
ドゥルゲが促すと、みんなで顔を見合わせ、静かにうなずいた。
イオのおかげで、グダグダしていた、分かれ道を突破することができた。
「いや~、
双子のあてずっぽうのおかげで、助かったー!」
頭の後ろに手を組み、晴れ晴れとした顔で言う、ドゥルゲ。
当然ながら、イオはツッコまない訳がない……。
「『あてずっぽう』は余計だろ!
ったく、こんなことしなかったら、どうなってたやら……。」
「たしかに……。」
ボクは、イオの意見に同意しつつ、苦笑いする。
「――――てか、
さっきからずっと気になっていたけど、
お前の猫耳、それって本物か?」
「ふぇっ!?」
いきなりドゥルゲの話が、ものすごくぶっ飛んだ方向に切り替わり、アルトのフードにある猫耳を、グネグネ触りはじめた……!!
「「――――――!!?」」
あまりにも突然すぎる行動に、
ボクとイオは(たぶん)あらぬ顔で、驚きと凍りつきを隠せない……!!
「や、ややややめてくださ~~~~い!!
くすぐったいですから~~~~っ!!」
これは……、じゃれているのか、なんなのか……。
よくわからないけど、とにかくアルトが顔を赤らめながら、逃げ回っている……。
――――約5分後――――
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……」
「なんだよ、
すぐ答えりゃいいのに――――」
「こんな状況で、どうやって答えろって、言うんだよ!!」
アルトが膝をつきながら、ドヤ顔で仁王立ちするドゥルゲに対して、ツッコんだ。
――わかる……、わかるよ……、アルト。
ボクも突然すぎて、どう対応すればいいやら、何やらで……。――
結局イオ共々、あ然すぎて、どうしようもなかった……。
――――と、まぁ……、
ボクが冷静にならなきゃ、何も続かないんだけど。
「もうやめなよ、ドゥルゲ。
これはたぶん、ボクの推測なんだけど――――、
この猫耳は、リシャスがアルトのために付けた、昔の名残だよ。
その……、なんて言ったらいいかな……?
簡単に言えば、『ルーティン』みたいな感じ?
これが無いと、落ち着かなくて、ちゃんと詠唱できないとか……。
――――ねぇ?」
ボクがあまりにも、勝手な推測が暴走してしまうと、怒られそうなので、慌てて本人に確認してみた。
「えっと……。
ミキトの言ってることは、だいたいあってるよ。
この猫耳は昔……、
猫だった時代のときの、耳だよ。
たしかに、この耳があるから、懐かしくて、
昔のように、落ち着いていられるし。
あっ、でも、人間の耳は、ちゃんとついてるよ、ほら……!」
そう言って、アルトはボクらの目の前で初めて、フードの中の姿を見せてくれた。
「「「……っ!?」」」
フードの中の素顔は、前髪のメッシュと、普通とは違う眼があるだけで、それ以外は、至って美少年|(青年?)である。
つまり、身体そのものは、人間とまったく変わらない上に、フードが昔の名残りをかもし出しつつ、アルトの精神を落ち着かせている
―――と、いうことだ。
「なぁ~んだ。
ったく、まぎらわしいなぁ」
「――――あなたに、言われたくありませんっっ!!」
のほほんと、また頭の後ろに手を組みながら、『まぎらわしい』発言したドゥルゲに対し、アルトはピシャリと返した。
「まぁまぁ、ドゥルゲ。
素朴な疑問が晴れたから、それでいいでしょ」
「ま……、まぁな」
――はぁ……。
大の大人をなだめるハメになるとは……、ホント疲れる……。――
心の中で そう思いながら、トボトボ歩いていると、
とてもまばゆい光と遭遇し、ふと顔を上げる。
「うん……、これは……?」
これまでの光とは、まったく違うようだが……。
「あああっ!!
これ、これだよ……、アイリスクォーツ!」
無数の、まるで虹のように輝く、その光の中から現れたのは、無垢な透明で、とてもきれいな鉱石だった。
それが、この洞窟に自生しているとは……、
『そんなのありえない』と言いたいぐらい、見事だった。
「これでやっと、帰れる……!」
アルトがその鉱石を、手に取ろうとすると――――、突如、洞窟を揺るがすような地響きが……!
……ダァン、……ダァン、……ダァン。
ひとつひとつ、大きな音がするたびに、まるで地震と勘違いするような揺れと、天井から洞窟の欠片が、ぼろぼろとこぼれていく……。
「アルト、う……、うしろ……っ!!」
とっさにボクが叫び、そわそわしていたイオとドゥルゲが、瞬時に状況を察し、攻撃態勢を執る。
「隠れてないで、出て来い!
調査!」
イオがどんな敵か調べようとすると、
どこからともなく、無数の光たちが現れ、敵の姿をあらわにした……!
「……え、ええっ……!?」
「まずい……、コイツはトロールだ。
みんな、心して、かかれ!
――――じゃないと……、コイツに潰されるぞ!」
先に調べておいたイオが、一瞬たじろぐも、
ドゥルゲの言葉で、気を引き締めた。
「僕もできるだけのことはします!
だから……、いっしょに帰ろう―――!」
「「「「おおおおおーーーーーー!!」」」」
アルトも、ボクも、みんなも、共に合格したくて、必死というか―――、
それ以前に、命の危険もあるから、なおさらだ……!
「まぁ、なんでも……は、よくねぇけど、弱点をつかないと!
火炎!」
まず先陣を切ったのは、イオ。
無数の炎で、トロールの体を灼きつかせる!
「――――!?」
少しはダメージを受けたようだが、
その後の反応は……、ただ身体に当たった部分を、ボリボリかいているだけ。
「あ゛~、くそっ!
そいつには効かねぇのか!?」
イオは、あんまり効いてない様子に、悔しがっているようだ。
「イオはそのまま魔法で、奴の弱点を調べろ。
俺が食い止める―――!」
今度はドゥルゲが両槍を振り回し、タイマン勝負を持ちかけた!
ならボクも、突っ立っている訳にはいかない……!
――――加勢する!――――
「うおおおおおーーーーーっ!!」
ボクは自分を奮い立たせるために、雄叫びを上げ、
剣を持ち、トロールに応戦する。
だが、2人で応戦しても、力の差は、圧倒的に大きく、対等にやってのけてしまい、ボクらを跳ね除け、ひるませてしまう……。
「チ……ッ。
ここまで、強いとはな」
「たとえ相手が2人であっても、対等にやってのけるなんて……。」
「――イオ、まだか、まだ弱点はつけないのか!?」
若干、イラ立ちを見せているドゥルゲは、イオにとばっちりをぶつける。
「さっきから、いろんな魔法やっているけど、
ほとんど大した効きようじゃねーんだよ!」
空気がどんどん張り詰めていく様子をお互い知りながらも、弱点があまりわからず、苦戦する一方。
「こんなとき……、どうすれば……?
――――あ!
ねぇねぇ、『君』ならわかるかな?」
後ろのほうで、ややそわそわしながら、自分の杖に向かって、何かブツブツつぶやいてる。
なんかさっき『君』って、言ってた様な……?
「グオオオオーーーーーーッ!!」
わっ、やば!?
今は奴に集中しなきゃ!
一瞬、危うくひるみそうになりながらも、トロールの片方の拳を、剣と盾で受け止める。
「……そうか、うん。
ありがとう、みんなに伝えるね。
おーい、みんな!
トロールの弱点は、あの大きな眼だよーーー!!」
「――――ん……、眼……!?
そうか、俺はなんで気づかなかったんだ!?」
アルトの叫びで、何かを思い出したドゥルゲは、
ボクにあることを伝える。
「いいか、ミキトはアイツが暴れないように、必死で抑えろ。
――――俺が、アイツの眼を潰す……!
……いいな!?」
「―――で、でもどうやって!?」
「なんでもいい……!
お前が『できる限りのこと』をするんだ!」
こうやって、2人で抑えている間に、
手短く用件を言ってくれた、ドゥルゲの顔は、
もうすでに覚悟ができていた。
――『あとは、お前次第で倒せる、信じているぞ』と……。――
その想いを受け止めたボクは、何も言わずに……、
ただただ首を、縦に振った。
すると、ドゥルゲは受け止めていたトロールの右手を蹴飛ばし、トロールを少しだけ、仰け反らせる。
再び僕を見つめ、『任せた』という訴えを、首を縦に振る合図で交わす。
ドゥルゲはジャンプを、そしてボクは、トロールに必死の抵抗を、力が続く限り、行った……!
「くたばれッ、バケモノーーーッ!!」
その叫びと共に、着地体勢に入ったドゥルゲの槍は
トロールの大きな眼にめがけて、直下する――――!
「オオオオオーーーーーッ!!!」
トロールの悲痛な断末魔と、今まで抵抗していた重みから解放され、ボクは後ろへ離れる。
そしてドゥルゲは、ぶっ刺していた両槍を、一気に引き抜き、再び顔を蹴飛ばした!
……タッ、……タッタッ、ドーーン!!
トロールはふらついた後、見事に仰向けで倒れた……。
そこから光る浄化の光は、ボクらの辺りを照らし、
空に舞い上がっていった…。
光が舞い上がる際、アルトはまた手を組み、『安らかに眠ってくださいね』と、つぶやいた……。
【ミキト レイセル洞窟前】
洞窟から出たときにはもう、いつの間にか日付が変わってて、朝を通り越していた。
「もう昼だったとはな。
かれこれ、ずいぶんといたもんだ」
ドゥルゲが背伸びしながらつぶやき、さらにこう言った。
「さぁ、帰ろう。
修道院のもとへ」
その言葉は、アルトに向けて言った言葉だった。
あのトロールでの一戦でも、アルトはボクらの傷もちゃんと癒しながら、
目的の鉱石である、アイリスクォーツも守り抜き、傷ひとつなく、無事に持ち帰ることができた。
あのとき、アルトが使役獣に弱点を訊かなければ、
ボクらは苦戦したまま、トロールに潰されていたかもしれない……。
そして、ドゥルゲの跳躍じゃなきゃ、弱点である眼には、まったく届かなかったかもしれない……。
そのあたりに関して、アルトとドゥルゲに感謝の意を伝えた。
「いえいえ、僕はできることをしただけだよ」
「なーに、改まって。
俺はお前を信じていただけさ。
ミキトだって、ちゃんとがんばったんだぞ?」
ま、2人らしい言葉が返ってきたけど。
帰り道の今は、久しぶりの談笑しながら、修道院のもとに、帰った。
【ミキト レイセル大修道院内 ――食堂――】
修道院に戻ると、案内された場所は、アルトが初めて逢った場所でもある、食堂。
そこへやってきたのは、いかにも偉そうなシスター2人。
「お疲れ様です、院長」
アルトが向かって左の人に、お辞儀をして言ったけど、こ、この人が、院長さん!?
そ、そういえば、最初にアルトを紹介してくれたときにいた、あのメガネの人だったのか………。
「コホンコホン」
ボクが妙なオロオロ感を見て、院長さんはまたあのときの咳払いをする。
「さて、アルトさん。
課題の品物を見せていただきます」
「はい」
アルトは院長さん達に、アイリスクォーツを差し出した。
ついに、運命のこの瞬間が、やってきた。
ボクもドゥルゲも、イオとレダも、アルトもみんな、ものすごくドキドキしつつ、『本物であってほしい』と、祈りながらも、確認する様子をまじまじと見つめる。
「……よろしい。
これは本物ですので、アルトさん達は『合格』といたします!」
「「「「やったぁ~~~~っ!!」」」」
ボクら四人とも、その言葉を聞いて、歓喜の抱き合いをする。
気づかなかったけれど、院長さんはそれを見て、なんだか微笑ましい表情を見せていたようだ。
「……アルトさん」
「あ、はい!」
「これで、ようやく卒業できますね」
「……長い間、お世話になりました」
「これからも、がんばってくださいね」
いい雰囲気になっている、院長さんとアルトの会話に、なんだか水をさすような感じになっちゃうけど、
どうしても気なったから、訊いてみた。
「あ、あのぉ……。
こんな時に水を差すようで、アレなんですが……、
その鉱石は、いったいどうなるんでしょうか…?」
ボクなりの、ものすごーく、かしこまった言い方で、質問してみた。
「あぁ……、これですね?
実は……、リシャス様が、
『アルトは何かで力を引き出さないと、うまくいかないの』
と、おっしゃられて、それで課題に『アイリスクォーツを取らせに行く』
ということにしたのです……」
――やっぱり、ボクの推測が合ってたんだ……! ――
初めて、推測が当たったことだけでも、なんだか嬉しくなるボク。
「アルトさん、杖を……」
「――はい」
院長に促され、杖を差し出すアルト。
すると……、
アルトの杖とアイリスクォーツが、いきなり共鳴するかのように、アイリスクォーツが輝きを放ちながら宙に浮き、アルトの杖の中に、吸い込まれてしまった……。
「これで、たとえみんなが、
負傷に陥ったとしても、アイリスクォーツのヒーリング力を借りて、治癒に励む事ができるでしょう。
……アルト、精いっぱい、精進なさい」
「はい、ありがとうございました……!」
アルトは感謝の意を、精いっぱい込めて一礼をし、ボクらと共に、この修道院を後にした……。
【ミキト レイセル修道院前】
『修道院を後にしたのはいいけど、さて次は、どこへ行ったらいいやら……』
そんなことをみんなに、聞こえないようにつぶやいていたつもりが、また堂々と声に出ていたようだ……。
「フッ……、バレバレだよ」
ドゥルゲに、鼻で笑われるし……。
「オマエのいつもの癖だよ」
イオまで、すごく笑われるし……。
でも、それはそれで、笑い合えるからいいかも……。
「あ、そういえば……。
僕、ずっと行ってみたかったところがあるんだ」
アルトが、急に雰囲気と話題を変えるかのように、話しかけてきた。
「どんなところなんだい?」
ボクが、改めて訊くと……、アルトは――。
「それはね……。
本で見たんだけど…、港がある街で、歌や踊りなどが盛んで、とっても賑やかな国なんだよ!」
「――それなら、リヴァージュだな。
でも、こっからどうやって行くつもりだ?」
どうやら、ドゥルゲが言うからには、いかにも遠そうだ。
「もうすぐ、リヴァージュ行きの定期船が来るはずだよ、ほら……!」
アルトが船に向かって、指さすのと同時に、
定期船がくる合図の鐘と共に、船がやってきた。
「なるほど、そういうことか」
久しぶりに、ドゥルゲの笑顔を見た気がする……。
ボクらはその船に乗り、まだ見ぬ街への船旅を楽しむことにした……。




