アルトたちの試験2
【ミキト 集落ルナバ ゲストハウス内】
朝になり、身支度をしていると……、
何やらイオとアルトがとても仲良さそうに、喋っていた。
一晩のうちに、『何があったの?』って、思いながら訊いてみても、しれっとはぐらかされるだけで、何にも教えてくれない。
「別に、大したことじゃねえよ」
「僕らはただただ、身の上話をしてただけですよ」
「「ねぇ~」」
二人は最後にあたかも内緒話をしてかのように、
言葉と仕草を思いっきり合わせている。
――えっと……、何なの……、この雰囲気……?
いつの間に……、こんなに……、てか――――、
変な関係、じゃないよね……?
自分ではどうしようもない、この雰囲気の中で戸惑っていたボクに、
ドゥルゲはボクの肩にそっと手を置き、こう呟いた。
「まぁ……、なんかいろいろと、共感したんだと思うよ」
「えっ……、でも―――」
「ただ『仲良し感』が、増えただけ。
それ以上でも、なんでもない」
ドゥルゲが、そんな風に説明してくれたおかげで、
なんだかホッとし、そして自分の頭の片隅で残っていた妙な先入観も、取れてしまった。
今じゃ、こんなに楽しそうに、談笑しているのが、うらやましく思える。
「まぁ、お前は――――、
あまり人と接する機会が少なかったせいで、ヘンな勘違いをしただけだ。
お前はお前で、悪くない」
「……ありがとう」
ボクはまた、ドゥルゲに励まされた。
「なあに、これからまた勉強すればいいさ」
入院生活がほとんどであった過去のせいで、
ちゃんと人との接し方を、忘れてしまっていたようだ。
それどころか、イオとアルトが急に仲良くなった様子を見て、『妙なひがみが生まれてしまった』という、最悪な人間に成り果てるどころだった。
「ごめん、いきなり仲良くなってるもんだから、
ヘンな勘違いしちゃった」
ボクは素直に謝る。
すると、2人は『なーんだ、そんな事でか?』といわんばかりに笑って――――、
「な〜んだ、
オレらがヘンな関係になったかと、思ったのか!?
――――ミキトらしい!」
「いきなり、そんな関係なんて、ありえないですよ、もう!」
と、あっさり返された。
――ボクはなんで、あんなふうに考えてしまったのだろう……?――
ボクは、ただただ自己嫌悪になってしまうという、地雷オチで終わってしまった。
【ミキト レイセル山の洞窟への道】
集落の人たちにエールを送られながら、ボクらはルナバを後にした。
目的の洞窟へ向かう道中、ドゥルゲが、ふとアルトに、こんな質問をした。
「なぁ、アルト。
『ヒーラーの試験』って、いつもこんな感じか?」
ドゥルゲが言いたい『こんな感じ』とは、
ボクらが向かっている、洞窟へ行き、『鉱石』といった、とあるアイテムを修道院に持ち帰ることのようだ。
だが、アルトは首を横に振った。
「ううん。
どうやらヒーラーの試験は、他の人に答えやヒントを教えられて、後の人が楽することがないように、
それぞれ個別に試練を与えられているような感じなのです。
これは友達から聞いた話ですが――、
ある人は、『とある老夫婦のお宅に滞在して、
いろんなお手伝いをして、合格だった……』 とか、
またある人は、『洞窟や山の中に潜んでいる魔物を、所定の数まで倒して、ズルしないようにちゃんと、討伐の証として、倒した魔物の一部をきっちり確認して、合格した……』 などなど。
それぞれ、合格の証はまったく違うようです……」
でも、そんなに考えがつくなんて……。
「しっかし、どうやったらそんな問題が、思いつくんだろな?」
そんなイオの意見に、ボクは同意する。
「さぁ……。
僕にもわからないし、知りたくもないです……」
アルトの意外な答えに、ボクは思わず苦笑いしてしまう。
なぜなら、『本当は知りたいけど、知ってしまったら、きっと後悔してしまう事実』は、どこにでもある話。
そこにアルトがもし、そんな事実を知ってしまったら、当然後悔してしまうし、これからヒーラーとしてやっていくという自信でさえ、無くしてしまうだろう。
『知らぬが仏』……、ボクの世界では、そんな言葉があったような……。
一見、暗い事実を敢えて知らない方が、幸せに暮らせるという事も、一部の正解なのかもしれない……。
「まぁ……、お前が知りたくないなら、それでいいと思う」
ボクが、いろいろと思考を巡らせているうちに、ドゥルゲが冷静な返事をしていた。
何故かボクって……、言葉返すの、遅いよな……。
ボクらがそんなふうに、いろいろと話を聞いているうちに、洞窟らしきものに着き、アルトが立ち止まる。
「ここです……。
ここが課題で言っていた、鉱石がある場所です。
集落の人はおろか、シスターまであまり寄り付くこともありません」
「――でもなんで、シスターさんは、鉱石のありかとか知っていたんだろう?」
ボクはふと疑問を訊く。
「まぁ……、僕もそうそう聞いたことが無いので、どうとは言えませんが――、
たしか……、聞いた話では、
教会内の祈りの間で院長を含め、一部のシスターが入れない日があって、、リシャス様からその人に合った、課題が課せられるとかどうとか……。
――とはいえ、そこまで教えてくれないので、はっきりとした事はわかりません」
そうか……。
ヒーラーを1人前にする際、敢えて公平な審査をするため、教えてくれる話はほとんどない。
そのため、1度試験を受けた人や通過した人から聞く情報をもとにするしか方法はないか……。
「うん、ありがとう。
リシャスなら、なんだって知っていても、可笑しくないもんね」
ボクはアルトにその事を普通に言っただけなのに、
なぜか口を開けてア然としている。
「!?
リシャス……、様を……、呼び捨て……!?」
あ、えーっと……、ここはどう説明したら……?
「心配すんな。
俺達は1度、リシャス様にあの事件で会って、解決したのを、昨日話しただろ?
あの時に、ミキトとリシャス様はいろいろと会話していて――、
『リシャスでいい』と言われたらしいから、そう呼んでいるのさ」
ボクがどうしたらいいか悩んでた時に、さりげなくドゥルゲがフォローをしてくれた。
「あ、ごめん」
ドゥルゲについ『ごめん』と言ったら、『別にいいぜ』と言ってから、こう補足した。
「俺達はただただ、敬意の示しで『リシャス様』と言っているだけで、
そこまでいちいち様付けされても、鬱陶しいと思ったから、『様付けしなくていい』と言ってくれただけさ。
それにむしろ――――、
アルトが俺達のことを『さん付け』したり、敬語で話したりしなくてもいい。
俺達はその方が、気が楽で済むし」
すると、アルトはいつしか、あんぐり開けていた口を閉じ、笑顔になっていた。
「ありがとう、ドゥルゲ。
それとミキト……、ごめんね。
教会内では、『敬語』とか『リシャス様』って、読んだりするのが当たり前だったから……」
「そうだったんだ……。」
確かに、外からほとんど出られない状態だと――、
そこで暮らしてきた環境が、アルトからすると、それが当たり前となる。
そうなると、外にいる人たちにもすべて、その世の中と同じように、『敬語』や気遣いなどで接するのが『普通』だ、と思ってしまう。
だがボクらのように、それをあまりしていなかった環境の中――、
そこに彼が入ってきて、アルトなりの接し方でしようすると……、
せっかく仲間にしたいのに、どうも他人行儀に思えてしまい、なんとなくぎこちなく感じてしまう……。
『どうせなら、共にする|(予定の)仲間だし、普通に喋ろう!』
そう思って、ドゥルゲがみんなの事を思って、言ってくれたのだろう……。
「さあ、こうしている時間がもったいねぇ!
アルト、案内よろしくな!」
ドゥルゲがいきなり、漂っている重い空気を変えようとして、ものすごく明るい口調で、言ってきた。
「うん!
前衛は任せるけど、それなりのサポートはするよ」
「よし、行こうぜ!」
さっきまで、話を聞いてるだけだった、イオも急にはりきりだす。
――そうだ、ボクらも試練を超えないと、せっかくフィリダ国王から紹介してもらったご厚意が、水の泡になってしまう。
――そんな事がないように、がんばらなくては……!!
【ミキト レイセル洞窟内】
「灯りはオレにまかせな。
松明!」
入った瞬間から薄暗く、奥行きすら、ほとんど見えていない状況の中、
イオが魔法で灯してくれた。
「でも不思議だね~?
炎が浮いているなんて」
アルトは浮いている炎を、物珍しそうに見つめる。
「本当は、
ロッドに灯そうかと思ったけど、
それだと、戦うときに不便だからさ。
<それをアタシが考えたのよ!>
って、妹が言ってるし」
魔法に関しては、頭が上がらないイオにとって、
レダのアピールは、ちょっと嫌そう……。
「それでも、ありがたいさ。
真っ暗な世界を、灯してくれるんだもの」
ボクは、イオを励ますように言った。
「そ……、そう言うなら、照らすよ」
イオはボクが励ました言葉に、何故かツンデレな反応になってしまう……。
そんなふうに、グダグダ言いつつ、前に進んでいく……。
洞窟内は、そこまで入り組んでいるのではなく、
道なりに行けば、最深部へ行けるという、シンプルなルートになっていた。
とはいえ……、さっきから、
仲間以外の変な気配が、しているような……?
「〈ねえ、なんか変な気配が、近づいてない?〉
って、妹が言っているけど、気のせいか?」
どうやらレダも、気づいてたようだ。
「ボクも、さっきから、『変な気配がするなぁ』
って、思ってたんだよ」
ボクも同意すると、仲間全員立ち止まり、辺りを見回す。
所々、鍾乳石から滴る水の音がするが、
それよりも遠くから、どんどん静けさをかき消す音が、近づいて来ている。
……ズシン、……ズシン、……ズシン……。
「これって、まさか……!?」
アルトが、やや震えだす……。
「魔物だ。
ここはどんな敵が、来るのか知ってるか、猫耳?」
ドゥルゲは至って冷静に、この状況からの打開策を練ろうとしている。
「――そんなの、
あまり行ったことがないから、わかりませ〜んっ!!」
「……だよな。
俺は奴がどんな敵か、見てくる。
――お前らは、そこにいてろ」
ボクらより先に、様子見ようとしつつ、大きな音立てないように、静かに構え、離れていくドゥルゲ……。
――それにしても、こんな戦術も、どうやって覚えたんだろう……? ――
そう思いつつ、ドゥルゲの行動を静かに見守っていると――、
「そこだ……っっ!!」
ドゥルゲの叫び声と共に、両槍で魔物を斬る音と、
魔物が悲鳴を上げている声が、1度にぶつかり合って、とてつもないこだまとなった……!!
「〈で、でっかい、トカゲだよ!!〉って、
妹が言うけど、それはリザードマンだって〜!!」
「落ち着けよ、双子!
視えるんだろ?
なら、ソイツにぶちかましてやれ!」
魔物たちのこだまに、突如怯えるイオとレダ。
そこに、ドゥルゲが活を入れる……!
「〈う、うん。
アイツは、寒さに弱い……!〉
なら、大吹雪!!」
2人で気持ちを落ち着かせ、弱点である氷の魔法を、リザードマンにお見舞いする……!
「――――!?」
凍らせるまでには至らなかったが、かなりのダメージを与えたようだ。
――それにしても、この程度で未だに倒れないとは……、
ここの魔物、相当強い……!
「ちぇっ、
なんって、しぶといんだよ!?」
イオが魔物に悪態をついている間に、
リザードマンは、持っている刃物で反撃しようとしていた……!
「……ッ!!
危なーい……ッ!!」
ボクが思わず叫んでいた時には、
いつの間にか、身体が勝手に、イオを庇う態勢をとっていた!
カーーーンッ!!
「ふぎゃぁっ!?」
盾で防いだ音の響きと同時に、
ボクとイオは、一緒に弾き飛ばされたようだ……。
――ていうか、イオが変な声を出すとは、思ってもいなかったけど……。
「痛っててて……。
大丈夫か、イオ……?」
ボクが起き上がりながら、あちこちさすっていると、イオが普段の声とは思えない声で、ボクに話しかける。
「てか……、ミキト……。
そこ……、どいてくれぇぇぇ……っ!!」
振り返るとボクは、どうやらイオの上に倒れていたようで、一瞬で我に返り、慌てて立ち上がった。
「ご、ごめん……!!
だ、大丈夫……!?」
イオはむっくりと起き上がり、おもむろに話す。
「まぁ……、なんとか。
ヘタに潰されるより、守られた方がありがたいよ」
イオからそんなふうに言われたのは、初めてだな……。
そこに、アルトがやって来る。
「大丈夫ですか?
今、手当てするからね!」
「――まったく、
まだ『敬語』抜けきれないのかよ?」
イオがアルトの敬語を嗜める。
「……ふふふ。
ゴメン、つい……、言っちゃった。
あ、そうそう、手当てするね。
光速回復・泉乃水!」
アルトが回復術を詠唱すると、あちこち擦りむいていた傷も、みるみるうちにふさがっていく……。
――これが、回復術というものなのか……?――
ボクの感覚としては、お伽話程度|(ゲームとかでも、そうだけど)のものでしか、知り得なかったのだが、この現実では、ボクがいた世界が《非現実》で、逆にボクからしたら、《非現実》なものが、ここでは当たり前であるという、パラドックス感が生まれて初めて、生じた。
自分の中では、今までこんなに経験しようともできないものだ。
さて、ボクの妙な論理は置いといて……。
「ありがとう、これでまた、戦えるよ!
よし、行くぞ――、イオ!」
「応ッ!!」
ボクとイオが再び、構えようとすると、
ドゥルゲがなんとか、凌いでくれている事に、目が入る。
「……ったく。
お前ら、復帰すんの、おっせーんだよ!
とっとと、手伝ってくれ!!」
ドゥルゲが一喝くれたことで、ボクらはまた立ち向かう――!!
「これでも食らえ……ッ!!」
イオが再び氷の魔法をかけると、今度は魔物の身体ごと、凍りついてしまった……!
その氷は、輝きを放ちつつも、魔物はまったく……、びくともしない……。
「――ヘッ、
やるじゃねーか、双子!」
「〈これでも、麻痺の魔法と氷の魔法を、掛け合わせたら、こうなっちゃったの!〉
……って、妹には感謝するぜ……」
イオ自身には、魔法の効率関係は、どうも苦手なようで、レダはイオより、とっても賢いので、相手の弱点やピンチの場合には、どう切り抜けるかということには長けているが、武器の力としては、イオの方が得意分野なので、交互に力合わせ、それぞれを補っているようだ。
「今だミキト!
ヤツが凍っている間に、氷と身体ごと――、思いっきり切ってしまえ!!」
「――うん」
あの巨大な、氷……。
ドゥルゲ並のジャンプは、できないかもしれないけど、アイツを叩き斬る形をイメージして飛べば……!
「ズェァァァァアーーーーッ!!」
思いっきり助走して、ヤツの1、2歩手前でジャンプしながら、力いっぱいに剣を振り下ろす――――!!
ガッッシャーーーーンッッ!!
氷がガラスのように割れる音と、
魔物ごと斬る手応えが、剣の重みと一緒に、降下していく。
そして魔物リザードマンは、断末魔を上げる間もなく、ボクの手で、真っ二つにされてしまった……。
ほんの一瞬の事なのに、気づいたらこんな大ジャンプ斬りが、出来ていたとは……。
その後に響く、魔物の倒れた地響きとその身体から、少しずつ光の粒が舞い上がっていく……。
「……なんだ、これは?」
初めて見る光景……。
魔物の身体から、こんな光が溢れてくるなんて……。
「これは、《浄化の光》です。
ここにいた魔物は、どうやら『元は人間だった』ようです」
アルトは丁寧に説明しながら、手を組み、祈りを込めていた。
「……安らかに眠って下さいね。」
――そう言えば、最初にドゥルゲと出会った時に、『この世界に住んでる人達は、日頃の行いが、あまり良くないと、魔物にされる』という話を思い出した。
つまり、この魔物も、リシャスに見かねられ、アベルの魔物化とされたのだろう……。
そこに、アルトがボクらの方に振り向き、こう補足した。
「邪神アベルによって、魔物化された者は、
誰かに倒されるまで、一生苦しみ続ける……。
それは、ここの人間に法で罰せらず、
例えその人が、家族がいたとしても……、
会うこともすら出来ず――――、
その自分が嫌で死にたいと思っていても、
誰かに倒されるまでずっと、生き続けなければいけない……。
『魔物化』というものは、リシャス様からの、究極の罰なのです。
この洞窟だけでなく、様々な国のどこかで、そんな魔物達を、解放しなければいけません。
それが、回復師の仕事の1つでもあるのです!」
最後の部分は、あまり空気を重くさせないように、笑顔で終わらせた。
「さぁ、遅くならないうちに、
奥へ進もう!」
「「「おー!」」」
――ボクらの試験は、まだ始まったばかりで、
まだお目当ての鉱石を取っていない。
ボクらのためにも、そしてアルトのためにも、
突破しなければ……!
あれから、中央部まで行けたけど、
そこまでの道のりは、息を着かせる間もない、戦闘続きだった。
大きなリザードマンの敵討ちなのか、その小さな軍団達が、どんどん襲ってきて、
それをドゥルゲは、『走りながら、どんどん斬っていけ!』って、言うし……。
そりゃ、無茶振り感には驚いたけど、
『やるしかない』って、思ったら、いつの間にかスイスイと斬っちゃっていた……。
振り向けば、軒並みに魂が浄化される光景を見て、
|(なんか……、キレイ……。)って、思ってしまった自分もいたのだった。
「ありがとう……。
みんなを救ってくれて……。
浄化された人達に代わって、お礼言うよ」
挙句の果てには、なぜかアルトから、みんなの代わりに|(?)、感謝される始末……。
なんだか……、ここ短時間で、急にカオスな状況になったような気がする……。
それはそれで、めまぐるしかったので、
今いる中央部が、ちょうど広い空間になっているという事で、
アルトが「ここで、休憩しよう!」と、誘ってくれた。
「んじゃ、灯りの炎を、
そっちに移すぜ」
さっきまで、洞窟の灯りをともしていた炎が、
今度は焚き火へと変化した。
焚き火を中心に、左から、
ドゥルゲ、ボク、イオにアルトと囲んでいく。
パチパチと燃え盛る炎と、その音が……、
みんなの心を、安らいでいく……。
「……僕が転生してから、約2年。
ずっと、試験すら受けられず、奉仕作業の日々でした――――」
安らぎだした心が、アルトの辛い思い出を、語り始める……。
「僕が、あれだけ重い罪を背負ったせいなのか、
最初は、回復できる程でもないような、小さな力しか、出せなかった――――」
【アルト ――回想――】
それなのに、シスターは明らかに大げさで、僕を褒めちぎった。
「なんて、すばらしい力なのでしょう!?」
「これはきっと、リシャス様から選ばれし者だわ!」
――――最初は本当に、鵜呑みにしちゃったけどね。
だが……、ここの生活が始まった途端、いきなりシスターの血相を変えて、
しつけ|(?)をしだしたのは、すごくびっくりしちゃった。
朝はまぁ、起きるのは早いわ、お祈りの時間に、掃除の時間――――、
それが終わってからやっと、朝ごはんが食べれるけど……、お腹いっぱいに、満足には食べられない。
――――猫のときは、眠くなるほど食べれたのに……。
それから、勉強や裁縫に、集落の方と一緒に、農作業やお店のお手伝い……、教会にいる孤児の子達の相手もしたっけなぁ……。
とにかく、いろんなことをした。
でも、いざ戦士や騎士たちのパーティからのお誘いとなると、今まで一緒だった友達が、1人、2人、3人……と、どんどん卒業していく……。
―――どんな試験だったかの情報と、僕に対する申し訳なさの感情を、置いていって……。――――
シスターに訊くと、いつもの決まり文句のように――――、
『アルトさん、あなたにはまだまだ力が足りません。
あなたに相応しい人達は、いつか現れるでしょう……』
と、まるでそれが、お約束だったかのように、言われてしまう。
――――いつかって、ホントにいつだよ……?――――
言われれば言われるほど、僕はミキトがいるときの状況とは裏腹に、心がどんどん、ひねくれていった。
落ち込みながら、部屋へ戻ろうとすると、
ふと目に付いたのが、お祈りの時間のときに使う、礼拝堂。
――――僕はどうして、みんなより力がこんなに足りないのだろう?
――――なんで、みんなは僕より先に、卒業していくのだろう?
そう疑問が浮かんだときにはもう、礼拝堂の祭壇の前でひざまずいていた。
祈りの手を組み、想いを浮かばせる。
すると……、光とともに、リシャス様が現れた。
「ごめんね。
ずっと辛かったでしょう……?」
僕の頭を撫でて、顔を合わせた瞬間――――、
見たことないような、笑顔を見せてくれた。
「アルト、あなたの疑問について、答えてあげる」
そう言うと、リシャス様は身体を宙に浮かせる……。
「まず1つ。
力が足りないのは、まだ本当の力に目覚めてないから。
教会に来るヒーラー志願の人たちには、
それなりの力を与えて、そこから自分にしかないものに、目覚めるかどうか、そのきっかけを見つけることなの。
そりゃ自分で何もしなければ、底辺のままだし――、
でもきっちり勉強しているのは、認めるわ。
だけど『それで満足』じゃ、だめなの。
私は、いつもきっかけの準備はしているけど、
あなたが気づかないんじゃねぇ……」
――――えっ、気づかない……?
「今まで、何かあったでしょ?
いろんなことが」
――――そういえば……。
僕は教会生活から、今までのことを思い出した……。
集落の人が、急に苦しみだして、助けようとしたけど、自分ではうまくいかなかったこと。
ある動物と仲良くなって、ずっと話しかけていたら、遠くで見ていた孤児の1人が、
「アルトにいちゃんが、まものとしゃべってる~!!」
って、泣き出しながら、逃げていったのを見たこと……、などなど。
気づけば、普通ならありえないことが、僕にいたって、多く起きていた。
「そうでしょ?
それは、私がきっかけを与えただけ。
でも、それであなたは目覚めなかった。
みんなはね、あなたよりずっと、長く努力しているの。
ただ単に、使えたわけじゃなく、それぞれのきっかけで、力を掴んだだけ。
だから、みんな晴れて、卒業できたのよ。
まぁ、あなたももうすぐ、目覚めるときが来るわ、
――――努力すればだけど。
だからあきらめないで、『目覚めたい』という想いがあれば、私が答えてあげる」
そうか……。
なら僕は、もっとがんばらなきゃ。
「待ってるよ、その日まで」
リシャス様はそう言い残して、消えてしまった……。
それからずっと、いろんな書物を読みあさり、知識をどんどん頭に詰め込んでいくうちに、
動物や幻獣を使役して、力を使う方法。
『光速回復』というのを見つけ、その術を何度を練習した。
あのとき、仲良くなった動物も、快く使役獣となって、僕のロッドの中に入ってくれた。
そのおかげで、力が人一倍に強くなり、やっとシスターの本当の評価を聞くことができたのだ。
「アルトさん、あの頃の評価は、失礼いたしました。 そうしないと、誰もが怖い印象を受けて、逃げ出しかねないかと、思われそうだったのです……。
実際、ここの規則や生活に耐えかねて……、辞退された方もおられましたけど。
それでもあなたは諦めずに、自分の力を目覚めさせ、自分なりのやり方を見つけ、それをものとした。
こんな力を持ったあなたには、パーティ紹介の候補に入れておきましょう。
ただし……、そうするためにも、試験があるということだけを、頭に入れといてくださいね?」
拍手しながら、そう言ってくれたのは、紛れもなく院長だった。
いつの間にか、僕の成長ぶりを見ていてくれていたのだろう……。
――――そうして……僕は、今……、ここにいる……。
アルトはここまで苦労していたなんて……。
「本当に、ここまでくるのに、大変だったんだね……」
ボクはアルトの苦労に共感する。
「まぁ、自分の欠点やどんな力かを気づけたのが、
僕にとって最大の、転機だったと思う。
みんなと出会えて、よかった」
「『よかった』じゃ、終わらせねえぜ?
猫耳」
ボクとアルトがしみじみしているところで、
ドゥルゲが『まだ現実は終わってない』というような言い方で、引き戻された。
「そうだな。
まだ試験の途中だってこと、忘れそうになってたぜ! もっともっとみんなと、旅がしてえよ!」
イオが励まそうと、思わず立ち上がっていた。
――あれから、ボクらのことを、いろいろと語り合い、お互いの事をいろいろと知った。
まだまだ試験は終わっていない。
この洞窟の奥で、きっと綺麗な鉱石が待っているだろうと、妙な期待を馳せていた、ボクらであった……。




