アルトたちの試験1
【ミキト レイセル山道】
――翌朝――
ボクらは、『ルナバ』のゲストハウスで支度をし、次の中間地点の『エイレ』まで向かうべく、レイセル大修道院前の教会道から少し逸れたところにある、レイセル山道に入ることに。
「ここからは、エイレの住人でも武器を持たないと、歩けないぐらい危険だと聞いてます。
油断せずに行きましょう!」
アルトは、みんなを励ますように、気合いを入れる。
「さぁて、ようやくひと暴れできるな」
ドゥルゲは……、両槍を取り出すのはいいけど、違う意味で気合いを入れてるみたい……。
「〈ここの魔物は、どんなヤツが出るかな〉って、妹が妙にワクワクしてるんだけど」
レ、レダまで……。
――みんな……、気合い入れるところ、どこで間違えたんだろうか……?
あ、そうだそうだ。
ボクも準備しなきゃ。
ちょっとしたツッコミを入れといて、思い出したかのように我に返ったボクは、急いで剣を引き抜く。
ボクらが軽くコントっぽい事(?)をかましたところで、エイレまでの登山道へ歩き出す。
やはり山道だけあって、あたり一帯は森の中。
――どうやって、こんなに鬱蒼とした割に、かなり整備されてるというか、綺麗になっているんだろう……?――
そんなふうに、疑問に思っていると、いきなり答えを返すかのように、アルトが説明してくれた。
「ここは、僕達ヒーラーや修道人も含め、集落の人達が月に一度、みんなで整備を行うんです。
木に詳しい方は、森の間引きを。
僕みたいなヒーラーや修道人は、武器を扱えないので、草とりをしつつ、怪我人の治療を。
武器や腕に自信ある人は、その間の魔物退治など……、それぞれ得意分野を活かして、この山道を綺麗にするんですよ」
「へえー、すごいね。
こんなに仲良くできるなんて……、
羨ましい」
「オレもそうだと言える。
こんな共同作業なんか、誰かサボってもおかしくないよな」
「それは、お前だったりして……?」
その言葉を放ったドゥルゲは、しれっと言いながら、イオに向かってニヤニヤしてる……。
「――ち、ちげーよ!!」
イオがムキになって、食ってかかるのを見てるボクは……、どうしたらいいのやら……?
「まぁまぁ、とにかく、行きましょう……」
とっさに出たボクの言葉が、コレという、なんか情けないというか、なんというか……。
ガサッ……、ガサガサッ!!
「グウォォォォッ!!」
「!!
ま、魔物ですっ!」
アルトが叫んだ瞬間に振り向いたボクは、目の前には魔物なんだけど、獣と言った方が正しいかな(?)、その割にはボクらの身長より、けっこうデカイ!
「こんな獣なんて、いるのかよ!?」
珍しく、ドゥルゲが驚く。
「え、えっと……、エイレではよく食料にされているらしいんですが――、
と、とにかく倒さないと!」
アルトは一生懸命、説明しようとしても、状況が状況なもので、ボクらに戦うよう、促す。
「何でもいいや、火炎!」
まずはイオが炎の魔法で、先陣を切り、それがきっかけになったおかげで、ドゥルゲがジャンプを仕掛けている間、ボクは魔物の懐にめがけて突撃した……!
「グォォッ!?」
魔物は炎でまずやや怯み出し、そこにジャンプ強襲を仕掛けた、ドゥルゲが着地する!
「ヘッ、くらいやがれ!!」
「グェェェ!!」
「トドメだ!」
魔物の悲鳴と同時に、ボクは急所に向けて、斬りつけた――!!
「オォォォ……。」
魔物はものすごい断末魔を唸らせながら、倒れたが、その唸り声がとてつもなく、ビックリしちゃった……。
「はぁー、スゲー収穫だぜ……」
ドゥルゲは額の汗を拭いながら、つぶやく。
アルトは思いっきり拍手しながら、大喜びしていた。
「すごいです!
僕の初戦闘とはいえ、こんな連携を立てながら倒すなんて、大感激です!」
まぁ、アルトは戦闘に出るのは、初めてだろうから、こんなことで感動するんだ。
「まぁ、俺達の連携できたのって、つい最近だけどな」
「そうだな。
あのとんだインチキ宗教のせいで、オレの友達が大変な事になるわ、それ以前に街の人がいろいろ失踪してたのも、あの事件だったし」
言われてみれば、ドゥルゲやイオの言う通り、リシャスあの事件の真相を解明しろ! なんて、言われなかったら、ここまで絆を少しでも、強くすることなど、できなかった。
――いや、そんな機会もありえなかった。
『連携』か……。 思えばいつしか、こんな戦い方が確立しているが、いざもっと強い敵が立ちはだかった時は、もっと連携のパターンを変えないといけないのかもしれない。
「ところで、皆さんが言う、あの事件とは……、何ですか?」
アルトがボクらに向かって、首をかしげて訊く。
「!!」
しまった、皆がわかっていると思って、つい省略化してしまった!
「えっと……、つまり……、こういう事件で――」
ボクはアルトに『フィリダ無差別失踪事件』のことについて、説明した。
魔法学校がある『フィリダ』という国があり、老若男女問わず、いきなりどこかに消えてしまう事件であること、それらをボクらがたまたま鉢合わせてしまい、リシャスから『事件の真相を探れ』と言われ(ざっくりだけど)、一緒に探ってみたら、フィリダ内では有名な教団が|(結局、オカルト系だったけど)真犯人だったこと、そこに囚われていた人たちを救出し、真犯人を捕まえた……などなど、ここまで来る経緯を、ある程度簡単に説明した。
とはいえ、ここまで説明するのに、けっこう頭使うし、『どうやったらアルトに伝わるかな……?』、なんて思いながら言葉をうまく選び、なんとか理解してくれた。
「そんなことがあったのですね。
僕は、選んでくれる人が現れない限り、この国を出ることはできないので……」
――ハッ……!?
や、やめて、俯かないで……!!
そんなふうに困った顔をされると、ボクも困るから……!
いつの間にか、自分勝手に慌てふためいているボクを落ち着かせたのは、ドゥルゲだった。
ボクが話している間に、さっき倒した魔物を運びやすいように、どこで調達したのだろうか、わからない紐で結んでいた。
そのブツを持ちながら、あわあわしていたボクに、頭をポンっと押さえた。
「別に焦ることはないだろ?
実際、レイセルのヒーラーは司祭と同んなじ扱い。
パーティから募集がかからない限り、司祭の仕事を全うし、この国から出ることはまず無いだろう。
『ヒーラーだからこそ、単独行動するのはもってのほか』、だから国が保護するのさ。
そうだろう、猫耳?」
ドゥルゲが冷静に説明すると、最後に言った「猫耳」にものすごく反応したアルトが、答える。
「ね、猫耳!?
あ、まぁ……、ハイ。
よく、ご存知で……。」
「まぁ、俺はこのパーティでは唯一、エイヴリーテ出身なのさ。
俺の故郷である、ドラゴン一族が住むエリアでは、いろいろと噂が飛び交うもんだ」
そういや、ドゥルゲは元はドラゴンだったよな。
故郷は話してくれた範囲内ではよくわからないけど、いつか行ってみたいなぁ……。
「そんな国……、いつか行ってみたいですね」
アルトは、どこにも行ったことないから、純粋な気持ちでドゥルゲに言った。
「まぁ……、行けたらな。
だが、そう簡単に、行けるような所じゃないけど」
言葉としては、感情に出さず、しれっと言ってはいるが、ドゥルゲの表情は、どこか暗い部分を圧し殺しているような表情だった。
あの時、話してくれたドゥルゲの転生話。
一族特有の掟を破ってまで、人間になり、故郷を旅立った。
それは、並々ならぬ覚悟でもあり、ちょっとやそっとの事では故郷へ戻ることは許されないと、釘を刺された彼は、『あらゆる苦労をしてきたんだろう…』と、ボクはあの話でなんとなく感じた。
――どこにでもあるような、とある英雄譚ではないんだと……――
それぞれのきっかけは違えど、ボクらはこうやって、生きるチャンスを与えてくれている。
まだ見えない使命を、探すために………。
「――ミキト」
「おーい、ミキト!」
「えっ………!?」
気がついた時には、ボクの肩をバシバシ叩きながら、ドゥルゲに呼ばれていた。
「お前、何ボーッとしてんだよ?」
「あ、ごめん」
アルトもボクを心配そうに見ながら、こう言った。
「ミキトさん、大丈夫ですか?
エイレは山の中なので、夕方までに着かないと、入れなくなりますよ?」
そういえば、中間地点である、エイレに向かっていたんだっけ?
「あ、ごめんごめん。
エイレって、そんなに厳重なんだ……」
ふと、物思いにふけっていた自分が、なんだか恥ずかしくなってきた……。
「はい、夜は魔物が今以上に増えて、とても危険になるので――、
エイレでは、集落外での出入りは禁止になっています」
――そう言われたら、向かうしかないか……。
とにかく、急にボーッとしだしたことについて、みんなに謝った。
「おうよ。
早くしねぇと、せっかくの獲物が、腐っちまう」
「食材代、節約ですもんね」
――という訳で、
日がくれないうちに、エイレまでの山道を、ひたすら歩いた。
山の中とはいえ、歩くだけでも、けっこうな時間が過ぎていく。
もうちょっと、馬とか乗れたら、また話は別だったと思うし、ここまで疲れる事なんてなかったはずだったかもしれない。
そんな事を、ドゥルゲに話したら……、
「――てか、ミキト。
お前、馬なんか乗れたっけ?
俺は別に大丈夫だけど……、
それより、例え馬が乗れたとしても、それなりの気づかいや、魔物と出くわした際、馬を死なせずにすることが、できるのか?」
――って、言われちゃって、そもそも乗ったことすらないボクは、ただの夢妄想で終わってしまい、逆にドゥルゲからも質問攻めにあってしまうオチになってしまった。
「ゴメンね。
急に言っちゃって」
「別にいいよ。
お前だって、憧れる気持ちも分からなくはない。
確か、お前は満足に生きることなく、一度終わってしまったんだろ?」
ボクは、ドゥルゲの問いに、静かに頷き、
「ほとんど病気と闘っていた。
それに、みんなが元気で幸せに暮らしているのが、なんだか羨ましかった……」
と、答えた…。
――もしかしたら、同情されるのでは……? ――
なんて、思ったけど、ドゥルゲらしい返事が返ってきた。
「過去は過去だ。
人それぞれ、小さな苦労を抱えながら、それなりの人生と闘うのさ。
たまたまお前は、ちょっと分が悪い運命に出くわしただけ。
でも、お前は今こうやって、チャンスをもらったじゃないか?」
「……うん、ありがとう」
そうやって話しながら、歩いていくと、いつの間にか門らしきものが見えていた。
「あ、やっと着きました!
ここがエイレですよ!」
アルトが嬉しそうに、ボクらに話しかけ、門番の2人に挨拶した。
「こんばんは。
レイセル修道院直属、アルトです。
試験のために、ここを寄らせてください」
「おう。
アルトもそろそろ卒業か。
なんだか寂しくなるな」
ひとりの門番が、アルトに対して、しみじみしながら言う。
――そういや、どちらの集落でも、アルトって、かなり有名人なんだね。
「いえいえ!
僕もやっとこれで、1人前ですよ。
――こんな日を……、どれほど待ち望んでいたか……。」
アルトの返事が……、なんとなくだが、少々重いような感じしたのは……、気のせいだろうか……?
なんだろう……、ボクの立場で言えば、昔、一緒に入院していた子供たちが、次々とボクを置いて、退院していくさまを見ているような感じと同じく、アルトは――――。
一緒に司祭として活動していた仲間たちが、どんどん先に選ばれ、ずっと取り残され……、
いつしか選ばれる日を、待っていたんだと思う。
「ぁ、アルト…」
自分自身の気持ちやアルトに言いたい事すら、まったく整理がつけていないくせに、呼びかけてしまった。
「うん……、何ですか……?」
「あ、いや…、選ばれるまで――――、
大変だったな……」
ボクが言葉として出てきたのは、これぐらいだった。
本当は、もっと自分の過去も交えつつ、話したかったのだが――、
なぜか、どうも……、言えなかった。
【ミキト・集落エイレ内】
集落の人たちは、ボクらを暖かく、迎え入れてくれた。
『集落ルナバ』とは、さほど外観は変わらず、いろんなお店もあれば――、
旅人用に、ゲストハウスも備えられていた。
アルトはあの後、選ばれず待ちつづけた日のことを話してくれた。
―――リシャスから授かった力、それをシスターたちに見せた当初は、
それはとてつもなく、評価してくれた。
「なんて、すばらしい!」だの、
「きっと、リシャス様から選ばれし者」だの……、
その言葉は……、本人であれ、聞いたボクであれ、なんだか大げさのような感じであった。
だが、いざ選ばれるときになった途端、
「あなたにはまだ、ふさわしいパーティが出てきておりません」
と、散々言われ続け、かつて友達だった子には、
「ごめんね。
アルトには、きっといい人が現れるはずだよ」
と、その言葉で耳が痛くなるぐらい、聞いてきたという。―――
「それでね、
こんな僕に、何がいけなかったんだろう?
って、思い続けて、
僕にしかできない術式をあみだそうと努力していったら……、
それこそ、本当の評価が出てきて、みんなから
『光速回復師』なんて、言われ始めて、
そこにミキトさんたちがやってきたという訳さ」
その話は、ボクにとって、しみじみとしていた。
やっぱり、どんなにいい能力があっても、
最終的にはシスターが適材適所で選ぶし、
選ばれなかったらそれはそれで、妙な焦りも感じてしまう。
あ、そういえば、ドゥルゲは出くわした魔物を、
集落の人に渡して、調理法を教えてもらってたっけ?
「よう、さっきの魔物――、
けっこう美味そうな肉だったらしいぜ?」
ドゥルゲが魔物の肉(しかも、ちゃんと焼けてる!)を、嬉しそうに抱えていた。
「このお肉は僕も食べたことがないので、
せっかくだから、今晩のおかずにしましょう」
【ミキト・エイレゲストハウス内】
みんなで、戦った魔物は、エイレの人たちからは、
とんでもないごちそうだったらしく、
その肉を少し、分けてから食べることになった。
「魔物の肉って、想像もつかないぐらい、
こんなにおいしいなんて!」
ボクも、この肉を食べるのは初めてだけど――、
舌鼓を打つほどのおいしさだった。
「<こらっ、お行儀が悪い!>
って、言われても、肉は久しぶりだし、美味いから許せよ!」
イオとレダが、身体1つなのに、妙な言い合いをしてるせいで――、
ボクだけじゃなくて、アルトたちにまで、笑いが止まらない。
「わ、笑うなって!
しょうがねぇだろ!」
イオがものすごく顔を真っ赤にして、ボクらに怒ってきた。
「だって、身体1つで言い合いしてんだぜ?
笑えてしょうがねぇぜ!」
今度はドゥルゲが大笑いしながら言ったが、
イオはもう、言い返すこともできず、ただただ顔を赤らめて、膨れてしまった。
ボクは、こんなおふざけも含めて、このパーティメンバーで良かったなと思えた。
【イオ エイレ集落内】
その夜、散々な食事も終えて、みんなが寝静まった頃、なんだか物音がしたもんで、目が覚めると、アルトが外へ行くところを見てしまった。
<後を追ってみよ?>
って、オレの耳元で、妹が言うもんだから、気になって、ついていってみた。
だが、歩けば歩くほど、どんどん山道に行き、気がつけば、エイレが俯瞰で見えるところにまで、着いていた。
「あら、イオさん、どうしたんですか?」
「えっ…。
――てか、オマエが『どうしたんだよ!?』って、言いたいよ!
あと、オレに『さん』付けは、いらねえからな」
「あ、ごめん。
いつものクセが、抜け切れなくて。
――ここはね、僕のお気に入りなんだ。
山間の中から、とっても綺麗な星が見えて……、
昔猫だったときの事を思い出せて、心がとっても……、落ち着くんだ」
「そういや、アルトは――、
『元は猫』って、言ってたよな?」
「うん。
もう、そんなに覚えてないけど、
飼い主さんから別れて、独りぼっちになる前までは、本当に……、『愛されていたんだな』って、思う」
「オレも、今や思い出したくねえけど、
魂だけ生きてくれている妹のために、なんとかしようとしたけど……――、
結局……、うまくいかなかったな。
そのときオレ達は13歳で、今はもう、あれから2年経ってるけどな」
「てことは、15なんだ。
僕は猫のときは、24で、
むりやり人間になったときは、10歳ぐらい……?
だったかな。
うん、今は猫の歳から転生してもらったけど……」
「え、年上!?
――見えねえ……」
「猫の歳では、2歳ちょいで死んじゃったから、
人間の歳で言えば、ちょうど24。
とはいっても……、シスターから見れば、
僕はまだまだ新人の域。
僕と同い年の友達から先に、卒業していっちゃうもんだから、どんどん『焦り』が出ちゃって……」
「教会って……、
けっこう大変だな……。」
「他の国の人から見たら、ヒーラーは憧れの職種だけど、ほとんど外の国に出ることは無いし、
規律もけっこう厳しい。
守られる人だからこそなんだけど、規律や生活とか苦痛に感じる人だって、居なくもない。
だから、ヒーラーや聖職者になるには――、
それなりの覚悟が必要となるんだよ……」
「……そうか。」
教会は見た目以上に、厳しいんだな。
オレは、天才は天才のままで終わってしまったけど、すべての魔法を覚えられたのは、妹のおかげで、
オレ自身の知力なんて、全然妹に及ぶことなんて無い……。
だから、オレなりの出来ること……――、
それは力による牽制術を学ぶ事にしたのだ。
「――あ、流れ星!!」
アルトが、いきなり叫んだと思いつつ、夜空を見上げたら……、本当に一瞬だけ、一筋の流れ星が見えた。
「明日、試験が終わって、
みんなと一緒に、旅をしたいなぁ……」
「――出来るだろ。
そうしねえと、オレ達が困る」
「ふふっ、そうだね。
僕も卒業しないと、いつまでたっても外の世界が見られない。
そんな人生……、嫌だよ」
オレ達2人で、ひょっとしたら他愛の無い、身の上話かもしれないけど――、
一緒に語り合って、より一層絆が強くなった感じがする。
あれからしばらく星空を見たあと、オレ達はゲストハウスに戻ると、何事もなかったように、お互い眠りについた。
みんなで、新たな旅をできるようにするために……。




