光速回復師(ルシュスペルヒーラー)・アルト
【ミキト・レイセル大修道院内】
『この方は、とても優秀なヒーラーさんですよ』と、シスターさんに言われたボクは、どうもインパクトがスゴすぎる彼を、どこから見ればいいのか?
はてまたは、どこから話せばいいのか?
というより、まずは自己紹介だな。
「は、初めまして。
ボクはミキト、ミキト・イグランシェ。
で、こっちは――」
「ドゥルゲだ。
ドゥルゲだけ覚えてくれれば、それでいい」
あっ、ははは……。
初っ端から、喧嘩腰だし……、『穏便にいこう』、という雰囲気が、完全にブチ壊しだよ……。
「よろしくおねがいします、ドゥルゲさんに、ミキトさん」
それでもアルトは、ちゃんと笑顔で返してくれた、偉いなぁ……。
「あ、オレはイオ。
ホントは双子なんだけど、身体が1つしかなくて、妹は――、
〈アタシはレダだよ。
訳あって、こんな状態だけど、よろしくね〉って、言ってくれたぜ」
「よろしくおねがいします、イオさんに、レダさん」
やっぱり、ここの人達は、こんなに素直なんだろうか……?
猫耳と、変わった瞳がちょっと気になるけど……。
「そういや、アルトは眼が見えにくいのかな?」
「あ、いえ……。
僕は、もともと猫であって、それで――、
無理言って、人間になったら……、眼が見えなくなってて……。
あ、でも、リシャス様から、『心眼』をくださったので、肉体の眼としては、機能を失っているけど、今はちゃんと見えますよ!」
かなり……、言いにくそうな、過去だったけど、『心眼』って……、なんだかカッコイイなぁ……!
――え……っ!? 待てよ……?
今……、『猫だった』って……、言ってたよね!?
だからか……、フードに猫耳付いてたのは。
「ゴホンゴホン」
メガネのシスターさんが、急に咳払いをしてきたので、ボクらは襟を正す。
「盛り上がっているところを、急に失礼ですが、アルトさん」
「はい」
なんとなく、空気が徐々に張り詰めていく……。
「さっきも……、申し上げた通り、ヒーラーさんが1人前になる際、ある試験をする事は知ってますよね?」
――え……? 試験……!?
「――ヒーラーって、試験があるんですか?」
あ……、また思わず声に出してしまった……!
とっさに、口を両手で塞ぐが、時すでに遅し……。
「――いいですよ。
この事は、修道院で暮らしている者にしか伝えませんので、知らないのも当然です」
――良かったぁ…。
さっき、案内してくれたシスターさんが、そう言ってくれたので、塞いでいた両手を下ろす。
「はい、私には、どのような課題をお示しですか?」
アルトはシスターさんに対して、かなりかしこまった言い方で訊く。
「アルトさん、あなたには――、
このレイセルの山奥にある、洞窟の鉱石を採ってきてもらいます。」
「――どんな鉱石ですか?」
「それは、アイリスクォーツです」
「!?」
――アイリスクォーツ……?
そういや、どっかの本で読んだような……、そうでないような……?
うーん、あまり思い出せない……。
だけど、それを聞いたアルトの顔が少し曇り、俯いている。
「そんなに……、採れないものなのか?」
アルトに気を使ったのか、イオが顔を窺って訊く。
「……と、採れないというか――、
あそこ……、魔物が多いんだよ……」
「「「………。」」」
黙り込むボクらを見て、しれっとメガネのズレを直す、シスター。
「……まぁ、アルトさん1人でとは言いません。
私達が見るのは、それに相応しいかどうかである、皆さんの連携力なのです……。
アルトさんだけでなく、『あなた達の試験でもある』、ということを忘れないでくださいね――?」
アルトに課せられた試験は――、
実はボクらの責任も試させられる試験でもあるという、重要な試験であったなんて……、
これからの事がすごく不安になってきた……。
【ミキト・集落ルナバ内・ゲストハウス】
かなり重苦しい空気を抱えたまま、案内のシスターに、集落のゲストハウスへ案内された。
「ここでは、自由に過ごしてください。
旅の疲れを取り、明日に備えてください」
――とは言われても、この空気……、どうすれば……?
「と、とりあえず……、
食料を取りに行きましょう」
「……でも、こんな夜じゃ……、
お店なんて……、やってないんじゃぁ……?」
ボクは、気を使ってしゃべり始めたアルトに、ちょっと水を差すような形で、言ってしまった。
でも、アルトは首を横に振り、笑顔でこう答えた。
「ううん。
実はね、ゲストハウスに泊まる人達のために、夜までお店をやっている所があるんだよ!」
そういや、ここのゲストハウス(というより、見た目はログハウス的な)……、長期間暮らせるように、台所やベッドなどが充実している。
そういう時のために、お店もちゃんとやっているんだ……。
「じゃあ、オレ達一緒に行こうぜ!」
「ぜひ、行きましょう!」
【ミキト・集落ルナバ内】
集落周辺は、山に囲まれているせいか、灯りがさほどない。
さっき立ち寄った大修道院が、一際明るいように、感じる。
それでもわずかだけど、家の灯りもちらほら見えて、イオが魔法で灯りを点さなくても、大丈夫なようだ……。
アルトはすごく慣れた足取りで、夜間でも営業しているお店を、スイスイ案内していく。
そして、ふと立ち止まり、ボクらにどんなお店かを説明していく。
「ここが八百屋さんだよ」
そう言って、アルトはドアをノックしながら、「ごめんくださーい!」と挨拶をした。
すると、ドアを開けつつ、店の主人が出てきた。
「おお、アルトじゃないか!
どうしたんだ?」
「あ、実は……。
旅の方と一緒に行くことになって、食料を貰いに来ました」
アルトは淡々と説明しているけど、顔見知りなのかな…?
「おお、そうかそうか。
とうとう、アルトも旅立つのか……。
んじゃ、うちのとびきりの野菜をあげないとな!」
八百屋さんの主人は、とっても嬉しそうに、大きめの野菜を色とりどり、持ってきてくれた。
「あ、じゃあ……、お代を――」
「いいんだよ、そんなの!
いつもお世話になっていることだし、それにアルトの『旅立ち祝い』だからさ!
こんなの、お布施ってことで……!」
「そこまで言うのなら、ありがたく頂いていきます」
アルトと主人は感謝の意を込めて、お互いに手を組んで、祈りをしながら、お辞儀をした。
続いて、お肉屋さんに、魚屋さんを巡っていったけど、同じような感じに、無料で食材をくれた……。
本当なら、こんなことって、有り得ないぐらいラッキーなんだけど……!
「でもなんで、これ程……、いっぱい貰えたんだろう?
しかも、タダで」
「僕たちは、ヒーラーであったら、時々……、教会のお仕事の他に、お店のお手伝いをするんです。
あとお店の方や、ここに住んでる方は、お祈りや、体調悪くなったりすると、ヒーラーさんを頼るし、売り物にならない物は、教会で寄付する事になっているんです。
そうやって、持ちつ持たれつ、仲良く暮らし、今日みたいに、旅立つ人や、旅の人がやってきたら、こうやって暖かく接してくれるんですよ」
最後に「それに、ここに住むなら、自給自足が基本だし」と付け足し、ゲストハウスへ帰る途中、歩きながら説明してくれた。
――田舎の暮らしって、こんなふうに……、暖かい気持ちになれるのかな…?
それに、どの世の中でも――、
優しくて、協力し合う、平和な世の中になったら……、どんなに幸せなんだろう……。 ――
そう思っているうちに、気づいたらゲストハウスに戻っていた……。
【ミキト・ゲストハウス内】
さっき頂いた、食料を調理する事になったのは、アルトとドゥルゲ。
「ドゥルゲとアルト……って、料理出来たんだ…」
「俺は、けっこう旅して回ってるから、そりゃ野宿の時は、料理もするようになるさ!」
「僕は……、さっきも言いましたが、お店のお手伝いするうちに、料理も教わって……、
あ、それに……、ほとんどのヒーラーさんは、どんな状況でも過ごせるように、料理を教わるんですよ」
へえー、それぞれいろんな事情もあるんだね……。
「あ、何かお手伝い出来たら、やるよ。
ボクは、もともと身体が弱かったから、そんなに包丁握った事がないけど……」
「じゃあ……、ミキトさんは――、
野菜やお皿を洗ってくれませんか?」
「――それならできるよ」
「お願いします!」
一方……イオは、疲れたせいか、若干寝かかって、ウトウトしてるし、「あ、オレ……、料理経験ゼロだから、無理!」って、あっさり言われちゃったから、結局テーブルで休憩することになった。
たくさん食料貰ったけど、ボクらでは、そんなに食べきれないので、保存できるように、ある程度干したりする事になった。
――――それから約30分後……。
「イオ、できたよ。 起きて!」
料理をテーブルに置いた時には、イオは案の定、突っ伏して寝落ちしていた。
「ふぁ……?
ぁ、もうできたのか……。
うん、あー、オレ…いつの間に…」
ボクの方が身体弱いはずなのに、そんなに疲れやすいなんて……。
「さぁ、熱いうちに食べましょう!」
「旨そー!!」
「今度は、オメェもキッチリ、手伝ってもらうからな!」
「ゎ、わかったよ……。
そんなに、怒んなくてもいいじゃん……、ドゥルゲ」
「――まぁまぁ、さぁ、頂きましょ」
「うん」
みんな座り終えたところで、一斉に手を合わせて――。
「「「「いっただきまーす!!」」」」
イオはものすごく、ガツガツ食べだす。
「あの〜、お行儀が悪いので、もうちょっと、普通に……――」
「だって、すっげー、うめーだもん!」
ボクは思わず笑ってしまうと、みんなつられて笑い出す。
この雰囲気は、まるで……、ひとつの家族のようで、楽しかった。
でも、明日になれば、次の中間地点である、集落エイレまで、歩いていかなきゃいけないし、そこまでの道中も、魔物はけっこう出るらしいし……。
――それでも、アルトと一緒に旅するには、この試験を突破しなきゃいけないから、頑張らないと……!――
ボクは……、そう思った。




