95.赤い目の魔獣1
宿に帰ると宿屋の主人が心配そうな顔で俺たちを迎えてくれた。何でも今日、役所から連絡があって、ここコルンナ市近郊の村で赤い目の魔獣が出たそうである。
この魔獣は、村の牧場を襲って、飼われている牛や馬を何頭も殺したそうである。それで、騎士団が出動したのだが、騎士団が駆けつけた時には、もうその魔獣はいなくて、見つからなかったそうである。
村人の話ではその魔獣は暗くなった時に出てきて、牧場の柵を軽く飛び越えて、牛や馬を襲った。そして、明るくなるとどこかへ消えていったとのことである。
襲われた牛や馬はまるで干物のように干からびていたとのことである。
その魔獣がまた襲ってくるといけないので、コリンナ市から出るときは十分注意するように、特に暗くなってからの外出は厳禁とのことである。
魔獣の行方が知れないことから、このコリンナ市でも、暗くなってからの外出はしないようにとのことである。
俺たちが随分早く帰って来たのでほっとしたとのことであった。
これを聞いて俺が
「俺の体力のなさも、たまにはいいこともあるものだな」
と言うと、妻たちは複雑な顔をしていた。
その日は部屋に戻って、妖精とダンゴムシから赤い目の魔獣の詳しい実態を聞いた。
赤い目の魔獣が森に現れたのは今からおよそ1か月前。最初は何が森に現れたのか分からなかった。朝になると、森の木々や花が、枯れて干からびているのが発見された。それが次々と起こるので、夜に何者かが森の植物や動物の命を吸っているのだろうということになった。
そこで、手分けして張り込んでその正体を突き止めることになった。でもそれが間違いだった。奴は張り込んだ私たちの仲間に襲いかかった。
奴のやり方は、私たちに分からないように近付いて、私たちに一撃を加えると、私たちの魔力を吸っていくのだ。妖精は魔力をエネルギーにして生きている。だから魔力を吸われると動けなくなる。
そして、動けなくなった私たちを極限まで、そう干からびるまで魔力を吸いつくしたのだ。そして残ったのは私たちの干からびた抜け殻だけ。
そして奴は私たちの魔力を吸うたびに力が強くなった。奴は私たちの能力まで吸っていたのだ。奴は肉体を持っていない。だから物理攻撃は効かない。私たちが魔法攻撃を加えても、獣たちが物理攻撃しても奴はほとんどダメージを受けていなかった。そして、奴が活動するのは決まって夜。特に月明かりのない新月は奴が最も活動する日だ。
ここからは推測になるが奴は光に弱い。だから強力な光を当てれば奴は逃げると思う。
それとたぶん奴は幽体だと思う。だから物理攻撃が効かなかったのだと思う。若し完全に肉体と分離しているのならあんなに長くあの森いるはずがない。たぶんどこかに依り代があって、昼間はその依り代に戻っていたのだと思う。だからその依り代を見つけて破壊すれば奴を倒せると思う。
「ええっと、話をまとめると、赤い目の魔獣は、幽体でどこかに依り代がある。そして夜はその依り代から幽体だけが離れて動物や植物の魔力を吸っている。奴を撃退するには強力な光が必要、倒すには依り代を見つけて破壊する。これでいいのだな」
「そうです」
「それで、その依り代はどうやって見つけるのだ」
「わかりません」
「まさか、『奴が帰っていくのを密かに追いかける』とか言わないよな」
「言っていません。しかし、その方法は有効ですね」
「そんな危ない仕事、誰がするのだ」
するとみんなの目線がダンゴムシに向いた。
「何で、みんな私を見るのですか。私はか弱い羽虫ですよ。出来るわけないじゃないですか」
「この中で空を飛べるのは、妖精とダンゴムシだけだ。そして、妖精は暗い夜でも輝くからすぐわかるよな。その点お前はダンゴムシ、暗闇に紛れてしまえばもうわからない。それに昼行燈全開ならだれもお前を認識できないだろう」
「いやですよ、見つかればまた干物になってしまうじゃないですか」
「大丈夫、干物になったらまた俺が元に戻してやる」
「いやですよ、元に戻らないかもしれないじゃないですか」
このダンゴムシ中々「うん」と言わない。その日は結論保留で寝ることになった。そうなのである。魔獣退治は騎士団の仕事、それに幽体なら対応は教会である。そう聖女の出番である。
それにその幽体がこのコルンナ市に現れた訳ではないのである。予備として明かりの魔道具は俺達だけでなく護衛やメイドにも渡しておくことになった。そして赤い目の魔獣が現れたらこれで撃退することになった。




