92.妖精の干物
俺は帰りの馬車の中でアーダが抱えて戻ってきた妖精の干物をまじまじと見ていた。
「さすが、妖精、干物になっても超絶美少女じゃん」
いけない、心の声が漏れた。
するとすぐにアライダが反応した。
「ツェーザル様、今の言葉、聞き捨てなりませんね。少なくとも新婚の妻の前で言う言葉ではありません」
「ごめんなさい。アライダ達もこの妖精に負けず劣らず美人だよ」
「そんなあー。私が美人だなんて。ツェーザル様もいい男ですよ、この世で一番のいい男ですよ」
そうして、俺たちは手を取り合って互いを見つめた。するとお邪魔虫が
「そういうことは子供の前ですることではないです」
「おい、アライダ、なんかそこで虫が叫んでいるが無視だな。”ムシ”だから”ムシ”だ」
「そうですね。夫婦の神聖な会話に口をはさむのですからアーダは”羽虫”ではなくて”お邪魔虫”ですわ」
「何、夫婦で語呂合わせしているのですか。早く私の同朋を何とかしてくださいよ」
おっといけない。この妖精の干物を何とかしないといけないのだ。
「おい、ナーダ」
「ツェーザル様、私の名前はナーダじゃなくてアーダです。アーダ、コーダのアーダです。お忘れなく」
「わかった、むきになるな。ちょっと間違えただけだ」
「ツェーザル様、こんな羽虫に謝る必要なんかありません。どうせ虫なのですから」
ちょっと名前を間違えただけなのに、なんかだんだん話がややこしくなってくる。
「それで、アーダ。この干物、何とかなるのか」
「そうですね、魔力を吸い取られただけなので、魔力を戻してやれば元に戻るかもしれません」
「どうやって、戻すのだ」
「ツェーザル様が、ツェーザル様の口をこの妖精の干物の口に当てて、そこから魔力を注ぎ込んでやれば、ひょっとしたら元に戻るかもしれません」
するとアライダ達が
「たとえ干物といえど、ツェーザル様が口をつけるわけにはいきません」
「でも、この中で一番魔力量が多いのはツェーザル様だし、たぶんアライダさんたちの魔力量ではちゃぽんとも言わないと思います。それに口移しでないと効率が悪いのでうまく魔力を注ぎ込めないと思います」
「やってみないとわかりません」
そう言うとアライダはアーダから1枚の干物を奪い取ると、口をつけて魔力を注ぎ込もうとしたが、しばらくして、
「無理。もう魔力がない」
と言ってへばってしまった。
そして
「ツェーザル様が魔力を注ぎ込むことを許可します」
あっさり白旗を上げてしまった。
俺は1枚の妖精の干物をアーダから受けとると、妖精の口に唇を合わせた。そして、口に体の魔力を集めて、そのまま放出する形で魔力を注ぎ込み始めた。最初はうまくいかなかったが、何回かやるうちに、魔力が干物に入っていくような感じを覚えた。
しばらくすると、その干物の眼が開いた。そして、びっくりするような顔になった。そうしたら今度は魔力が吸い取られ始めた。
慌てて、その妖精の干物を引き離そうとしたが、無理だった。俺の魔力がどんどん吸い取られていく。俺が干物になるのではと思った時に、唇を放してくれた。目の前を見ると、先ほどまでは干物だったものが今は立派な妖精に成っていた。そして、
「愛しの人、魔力を分けてくれて、ありがとうございます。あなた様は私の命の恩人です。どうか旦那様になってください」
「ああ、これは俺のスキルに魅せられた」と思ったが後の祭りだった。その妖精は俺に抱き着いてきた。そして再び唇を奪おうとした。
しかし、これはアライダによって阻止された。
「こら羽虫、人の夫を取るな」
「私は羽虫ではない。妖精だ。私の恋路をじゃますると、天罰が下るぞ」
「人の夫を誘惑しておいて、何が天罰ですか」
アライダが無理やりその妖精を引きはがしてくれた。俺は一息つくと
「この干物は魔力を注ぐと元に戻るようだ」
するとアライダも
「そうですね。しかし、問題ですね。ツェーザル様が妖精に口づけしなければならないというのは問題があります。何とかならないのですか」
すると今しがた干物から妖精に戻った妖精が
「最初に少し魔力を注いで、命を回復させれば後は魔石でも大丈夫です」
と言い出した。
そこで、次からは最初に少し魔力を注いで、相手が目覚めと、すかさず口を放して、相手の口に魔石を押し当てた。すると、妖精はその魔石の魔力を吸って、元の妖精の姿に戻っていった。
その後は機械的な作業で順次干物を妖精に戻していった。そして、馬車が宿に着くまでにはすべての干物を妖精に戻すことに成功した。




