91.妖精の森
アーダの話によると妖精の森がピンチとのことである。放っておくわけにもいかず、次の日妖精の森の現状の調査に向かった。妖精の森と聞くと何となく心が浮き浮きとする。なお、メイドたちは宿に置いてきた。向かったのは俺とアライダ達9人と護衛12人である。馬車は2台にした。
護衛には「コルンナ市の東の森で赤い目の魔獣が出たというので調査に行く」とだけ言ってある。「妖精の森」とは言っていない。そんなことを言えば、もしこれがほかの人に伝わった時大変なことになる。
「アーダ、森にいるのは本当に人間の姿をした妖精なんだよな、お前みたいなダンゴムシに羽の生えたような虫じゃないよな」
「ひどい、ツェーザル様は私のことをダンゴムシと言うのですか」
「いや、ダンゴムシとは言っていないぞ、ダンゴムシに羽の生えた虫と言っただけだ」
「似たようなものじゃないですか、唇を重ねた仲だというのに」
「ちょっと、アーダさん、誤解を招くような言い方はしないでください」
「すいません」
どうもアーダは俺には強気に出るようだが、アライダには弱いようだ。
「森にいるのは正真正銘の妖精です。容姿はアライダさんのように美しく可憐です」
「まあ、アーダは私のことを『美しく可憐』と言ってくれるのですか。中々見る目があるじゃないですか」
これを聞いて俺は「このダンゴムシ、中々に腹黒だ」と思った。それに「アライダもダンゴムシのこんな言葉にころっといってどうするのだ」と思った。
馬車はコルンナ市の中心部を離れ、川を渡り、郊外に向かって走っている。両側には冬枯れの景色が広がっている。しばらく走ると小高い丘陵とその間を流れる小川が見える。そこを道はまっすぐ東に向かって走っている。主要街道でもないし、行き交う人や馬車もない。そして、昼前にはアーダのいた森に到着した。
森は街道の横から小高い丘陵にかけて広がっていた。そんなに深い森でもないし強力な魔獣もいなさそうだ。俺たちは馬車を下りて、先に昼食をとることにした。
護衛達が、薪を集めに行こうとするので、それを制して、マジックバッグから出した魔石を使うように指示した。昼食をとって、さあ調査開始である。
先頭は公爵家から派遣された護衛2人、たぶんこの中では一番強い。次がアライダ達が実家から連れて来た護衛5人、その後ろにアライダ達と俺、俺はこの列の中央で、みんなに守ってもらっている。その後ろを、アライダ達が実家から連れて来た護衛5人である。
アーダの入った虫かごは俺が持っている。
「アーダ、この森でいいのだよな、本当にこの森に妖精がいるのか」
「あの魔物にみんな食われていなければいるはずです」
「でも妖精って、人間の前に姿を表すかな」
「あっ、そうですね、こんなに厳つい人間がたくさんいると多分隠れますよね」
「ですよね。それじゃ、しばらく探していなかったら帰りますか」
「そんなあ、同朋を見捨てろと」
「でもお前、仲間に入れてもらえなかったのだろ、『引っ付いて回っていただけ』と言ったじゃないか」
「それはそうですけど、前世の私の同朋です」
俺はアーダの「前世」と言う言葉に惹かれたので、もう少し探してみることにした。
しばらくすると一行は少し開けた場所に出た。するとアライダが
「同朋の匂いがする」
と言い出した。
さすがダンゴムシ、匂いには敏感なようだ。アーダを虫かごから出してやると付近を飛び回って妖精を探し始めた。それを見た護衛の騎士たちが
「ツェーザル様、今虫かごから出した虫は何ですか。羽があると逃げて行かないのですか」
「あれは俺がティムした新種のダンゴムシだ。羽があるので飛び回れる」
「さすが、ツェーザル様。虫もティム出来るのですね」
「そうだ、俺は力はないが頭はいい。虫を手名付けるくらいお茶の子さいさいだ」
「えっ、お茶の子さいさい、なんですかその言葉は」
いかん、これは前世の言葉だ。この国にこんな言葉はない。
「簡単にできるという意味だ。学院で勉強した本に書いてあった」
「そうですか。坊ちゃんは博識ですね」
なんとなくアライダがジト目で見ているような気がしたが振り返らないことにした。
それからしばらくするとアーダが妖精の干物を何枚も抱えて戻って来た。その妖精の干物を見た時「さすが妖精、干物になっても超絶美少女じゃん」と思った。
今日は泊まる準備もしてきていない。というか、こんな真冬に森の中、まして魔獣もいるかもしれないとなると、これ以上ここに留まるのは危険である。
公爵家から派遣された護衛が
「坊ちゃん、もうそろそろ帰らないと、暗くなると危険です」
「そうだな、それじゃ帰るか」
ということで、俺たちはまた来る時と同じ順番で森の出口に向かった。そして馬車に乗り込んで宿に帰ることにした。




