90.アーダの事情
宿の部屋に戻ってアーダの事情を聴くことになった。アーダの話をかいつまんで言うと次のようである。
アーダは森の妖精。このコルンナ市の東側の森に棲んでいたのだが、森が赤い目の魔獣に襲われて、仲間たちが食われた。そこで、森を逃げ出して、このコルンナ市の宿の庭まで来て、魔力切れで倒れていたところをツェーザル様に救われたのとのことである。森の仲間がどうなったかは知らないとのことである。
アーダは森の妖精と言う割にはへんてこな姿をしている。
「おい、アーダ、妖精と言うと、大きさはお前ぐらいだが、姿は人間の女の子に似ているのじゃないのか」
俺がこう聞くとアーダは急に挙動不審になった。おかしい、こいつは何か隠している。
「おい、どうなのだ、もう一度聞く。妖精は人間に姿が似ているのじゃないか」
すると、アーダが観念したように、
「私は妖精じゃない。正確には妖精の記憶を持った虫だ。妖精に成れなかった虫だ。私の前世は森の妖精だった。それは、それは綺麗な妖精だった。毎日森の中を飛び交い、花や木々に憂いを与え、幸せな日々を送っていた。
しかし、ある時森が山火事で焼けた。そして私も死んだ。それから、私が目覚めたのはコルンナ市の東側の森だった。
そこには人間の姿をした妖精がたくさんいた。前世の記憶を思い出した私は彼女たちの仲間にしてほしくて、彼女たちに近寄ったのだが、彼女たちは、私の姿を見ると「羽虫、羽虫」と言って、私を仲間に入れてくれなかった。
それでも私は彼女たちの後をついて回った。嫌われても、嫌われてもついて回った。そのうち彼女たちも私がついてきても逃げなくなった。相変わらず仲間には入れてもらえないが、「どこかへ行け」とは言わなくなった。
私は幸せだった。妖精にはなれなくても妖精の側にいられる。それだけで満たされた日々だった。
でも、その幸せは長く続かなかった。先ほども言ったが、森に赤い目の魔獣がきて妖精を襲い始めた。正確に妖精の魔力を吸っていったというのが正解だ。魔力を吸われた妖精は干からびて死んでいった。私も魔力を吸われた。でもその時、妖精の1人が私を逃がしてくれた。それでこの都市まで逃げることができた。
これを聞いて、少し同情した。特に前世の記憶を持っているという点は俺と同じだと思った。
「なあ、アライダ、こいつ姿はへんてこだが、少なくとも悪い虫には見えないし」
「そうですね、少し眉唾的な話ではありますが、悪い虫には見えませんね」
「虫、虫って言わないで、アーダという名前があるのだから」
「その名前、誰がつけたのだ」
「前世の私の名前」
「そうだよな、虫は卵からかえるのだし」
「でも、こんな可愛い虫がいますか」
「確かにへんてこな姿だよな。お前もう一度ちゃんと立ってみろ」
アーダが前のテーブルの上で立ち上がった。小さい人形と言えば言えなくはないが、しかし、顔は卵型、体も寸胴、全然色っぽくない。その上脚が短い。短足である。手も短い。色は肌色だが、体系的にはダンゴムシに手と足と羽が生えたといった方がいいくらいだ。
俺がアーダをじっと見つめるのでアーダが
「ツェーザル様、そんなに見つめられると、私弱ってしまいます」
と言って、もじもじし始めた。
「何なら服も脱ぎましょうか」
「いらん、お前には色気を全く感じない」
「そんな冷たい。唇を重ねた間柄じゃありませんか」
「唇はお前が無理やり吸い付いてきたのじゃないか」
「そんな冷たいこと言わずに、何なら伽でもしましょうか」
これにアライダ達が切れた。
「アーダさん、私たちの夫に手を出すことは許しませんよ。そんなことをしたら、ひねりつぶしますよ」
「わかりました。でも私魔力がないと生きて生きないので、魔力は定期的にください。その代り私の出来ることは何でも、と………」
「それ以上言うとひねりつぶしますよ」
「わかった、ツェーザル様には手をださない」
「それでいいのです」
「それで魔力はどうしたら与えられるのだ」
「魔力は口移しが一番効率的だが、なければ魔石でもいい」
「わかった、俺の魔力の詰まった魔石なら、ここにある」
俺はそう言って、魔石をアーダに渡した。するとアーダは魔石を受け取って寂しそうな顔をしている、しかし、アライダに睨まれる魔石を吸いだした。
結局アーダは俺達か飼うことになった。
アーダは
「私は虫じゃない」
と言っていたが、
「ならどこかへ行け」
と言うと、すごすごと虫かごの中に入っていった。
これでアーダについては何とかなりそうである。後は妖精の森をどうするかである。




