89.羽虫アーダ
コルンナ市にはしばらく滞在して、観光することにした。宿を取ったが、さすがに29人となると金額が半端ない。29人で1日金貨6枚、それでも俺は裕福10日間とった。しめて金貨60枚である。俺の個人の金で払った。
次の日の朝、宿の庭を散策してみた。貴族が止まるような宿、さすがが庭も立派である。
「俺の男爵邸の庭は今は何もないが将来はこのような形にするのもいいかな」
そんなことを考えながら歩いていると変な物が見えた。
庭の木の根元に羽の生えた虫の様な物、大きさは10cmぐらい、とにかくへんてこな形、それも半分雪がかかっているので余計わかりづらい。
近寄ってみると、羽の生えたへんてこな人形?だった。拾い上げてみると人形の首が動いた。そして目が合った。
「まずい」
と思って昼行燈全開にしたが遅かった。
「愛しの旦那様」
そう言って俺に抱きついてきた。
無理やりそいつを引きはがすと
「俺は初対面の虫を妻にするほど心が広くない。他を当たれ」
「そんな冷たいことを言わないで、これは運命。私たちは赤い糸で結ばれている」
「それはそうと、お前なんでこんなところに倒れていたのだ」
「私の住んでいた森が赤い目の魔獣に襲われて命からがら逃げてきたのですが、魔力切れで動けなくなってしまったのです。この雪ですし、もう私は死んでしまうと思って諦めていたのです。そこを旦那様に拾われたのです」
「まだ、拾っていない。つまんだだけだ」
「そんな冷たいことを言わないで、魔力を分けてください」
「魔力を分けるぐらいはいいぞ。俺は魔力がいっぱいある」
「ありがとうございます。愛しの旦那様、それでは遠慮なく」
そう言って、その虫?は俺にキスしてきた。はがそうとしたが無駄だった。
「魔力切れで動けない」
という割にはそいつの吸引する力はすごかった。非力な俺では引きはがせない。
そして口から魔力を吸い始めた。俺の魔力が減っていくのが分かる。こんな感じは初めてだ。俺の魔力は無限と思っていたが、それは間違っていたようだ。
しばらくして満足したのか、そいつは口を放してくれた。
「ありがとうございます。旦那様は私の命の恩人、この御恩は一生かけて返させてもらいます」
「返さなくていい、俺はもう行く」
「そんな冷たい。私のファーストキスを奪っておきながら用が済んだらポイと捨てるのですか」
「おかしなことを言うな。キスしてきたのはお前だろう。俺は魔力を分けると言っただけだ」
「それはそうですが、貴方様の様な美味しい魔力は初めてなのでもう離れられません。どうか捨てないで、お側に置いてください。何でもします。唇だけと言わずに体でも払いましょうか」
「いらん、俺には妻が8人いる。もう十分だ」
「そんなこと言わずに、どうかわたしを9番目の妻にしてください」
羽虫とすったもんだしていたら、アライダ達がやって来た。
「どうかしたのですか、ツェーザル様、なかなか戻ってこないので、何かあったのかと思いました」
「そこの羽虫が魔力が欲しいというので、分けてあげたら『9番目の妻にしてほしい』と言い出した」
9番目の妻と言う言葉にアライダ達の眼が吊り上がった。
「ツェーザル様には、私たちという、れっきとした妻がいます。部外者は消えなさい」
「部外者じゃない。今キスをした。私のファーストキスだ。それから、私は羽虫じゃなくてアーダ」
「ツェーザル様、こいつはキスしたと言っていますがどういうことですか」
「その羽虫が、『魔力を分けてほしい』と言ったので許可したら、いきなり俺の口に吸い付いてきて魔力を吸った」
「そうですか、なら悪いのはこの羽虫ですね」
「そうだ」
「羽虫、羽虫というな。私にはアーダという名前がある」
「で、そのアーダさん、実際のところは」
「私から口に吸い付いて魔力を分けてもらった。しかし、こんな魅力的な魔力は初めてだ、もう旦那様の魔力なしでは生きていけない」
「まだ、旦那様ではありません。ツェーザル様と言いなさい」
「わかった」
「今後どうする。中に入って協議するか」
「そうですね、このまま放っておくと、この羽虫はツェーザル様に付きまとうでしょうから」
ということで宿の部屋に入って協議することになった。




