61.ジオラマ製作(再度挫折)と休日の過ごし方
あれからガラス板はいろいろな風景を王都の絵師に描いてもらって、工房に依頼した。その数100枚。何故100にこだわったかというと、前世の葛〇北〇の〇〇百景に合わせたかったからである。単なる俺の趣味である。金はある。今までほとんど使っていないのだからこれくらいは問題ない。
俺だけがこの馬車に乗っているとみじめになるので、投影機のスイッチは絶えず入れておいて、男爵邸に住むものはいつでも暇なときはこの馬車に乗ってもいいことにした。するとマリーの子供たちがよく乗るようになった。子供はこういうのが好きなようである。
アライダ達はあまり乗り気でないようである。俺の精神年齢は子供と同じか。おかしい、俺は前世の年齢も入れると相当年上のはずなのに。たぶん俺の精神年齢は体に引きずられている。俺はそう思うことにした。
1階を見渡すと、風景を映し出した壁とその前の馬車、後は作りかけのジオラマ、奥はガラス工房、玄関わきのガラスの陳列棚がひと際目立っている。あとは空きスペースである。まるで、前世の潰れかけのお店のようである。この空きスペースをなんとかせねばならない。
そこで、作りかけのジオラマに再度挑戦したが、すぐに飽きた。どうもこういうちまちました作業は苦手のようである。そこで、メイドの奴隷を連れてきて、手伝わせてみたが、彼女たちは俺に輪をかけて下手である。何かちぐはぐな物体が出来上がっている。スケールとか消点とか言ってもわからないようである。
この世界には絵を描くときの遠近法は存在しないのであろうか、前世の記憶を探るが、そこまでは憶えていない。役に立たないと判断したので、奴隷メイドには元の仕事に戻るように言ったが
「男爵邸は便利にできているので、メイドの仕事はすぐに終わる。面白そうだから、この仕事をもう少し続ける」
「しなくてもいいのに」
とも言えずに、
「わかった」
とだけ答えた。
ジオラマの完成がさらに遠のいたように思った。
ちょうど、アライダ達が来たのでお茶にした。1階の空きスペースに机と椅子を持ってきて、奴隷メイドが作業するのを見ながらお茶になった。
「あのメイドたちは何をしているのですか」
「あれはジオラマに設置する建物を作っている」
「建物?とても建物には見えませんね。何か他の物、箱のような。こんな建物があるのですか、それに形も何か歪んでいるように見えるのですが」
「だよね、彼女たち下手なんだ」
「だったら、やめさせたら」
「でも、なんか作るのに生き生きとしているから、『やめろ』と言うのも悪いような気がして、それに所詮暇つぶしだから」
「そうなのですか、ツェーザル様がそれでいいならいいですが」
「それにしても、この空きスペースどうするのですか」
「そうだな、将来は盆栽でも並べるか」
「盆栽、それは何ですか」
「盆栽とは、木を小さな植木鉢に入れて、形を切り揃えて、小さな木のままにして、形を鑑賞する物なんだ」
「何か、よくわかりませんね」
「ほら、よく貴族が花を飾るだろう。それを小さな木にしたと言えばわかるかな」
「何となくわかりますね。でもツェーザル様は本当に運動が苦手なのですね。やることは、いつもちまちましたことばかり。時々老人と話をしているような気がするときがあります」
だろうな、俺は前世も入れるとかなりの年だったのだろう。盆栽を愛するということは前世は老人だったのかもしれない。
普通この世界の貴族は休日も鍛錬を怠らず、剣術や魔法の訓練に勤しむのであるが、ツェーザルの場合、ジオラマと盆栽作り、この世界の人間とは感覚が少しずれているようである。




