6.お茶会
学院生活に慣れてきたころ、父に呼ばれた。父の執務室に行くと姉のミヒャエラもいた。危機感を覚えて、退室しようとしたら、執事にドアを閉められた。仕方がないので
「父上のお呼びですか。要件は何ですか」
「そう身構えなくても、お前の学院生活のことが聞きたかったから呼んだのだ」
「学院生活といっても、それなりに過ごしています」
「難しいことや困ったことはないか」
「そうよ、困ったことがあったらいつでも言ってね、お姉ちゃんが何とかしてあげるから」
「今のところ、困ったことはありません。授業にもついていけてますし」
「そうだな、何でも新しい魔法陣を作ったそうじゃないか。さすが、ネルデンベルク公爵家の人間、わしも鼻が高い」
「おほめにあずかり恐縮です」
「そこでだ、今度の日曜日に寄子の貴族で学院に行っている者を集めてお茶会をしようと思う。お茶会の案内状はもう出してある。準備はメイド長に任せてある。お茶会の進行は姉のミヒャエラがする。お前はいるだけでいい。いいな、必ず出席するのだぞ」
「わかりました」
「不服そうだな」
「いえ、そのようなことは」
「ならよい」
その後、当日の服や段取りの話があって、やっと解放された。直前まで言わなかったのは言えば俺がごねると思ったようで、俺の性格をよく知っていると思った。さすが親と姉だと思った。
当日になった。招待客が多く集まってくる。俺は姉と一緒にお出迎えとのこと。こんな所にいたくない。クラスの子が俺を見るとびっくりしている。そうだよな俺は今まで家名を名乗っていない。
「ツェーザル様はネルデンベルク公爵家の令息だったのですか」
「そうよ、私のかわいい弟。三男、末っ子よ」
俺は何も言わなくても、姉が横から説明していく。俺は案山子になることにした。
それよりも挨拶して来るのが男子の場合はいいのだけれど、女子の場合は緊張する。昼行燈を全開にしても気が気じゃない。若し、甘美の香りに毒されたら、一生付きまとわれる。
招待客が全員入場してお茶会が始まった。まず、姉が歓迎の挨拶。その後俺に何か言えというので
「今日は皆さんお集まりいただいてありがとうございます。私はネルデンベルク公爵家の三男のツェーザルです。今は貴族ですが、将来は家を出て、諸国を回るつもりです。それで私のことはツェーザルと気楽に呼んでください。様付けは不要です。それから、自分はあまり目立ちたくないので、自分が公爵家の人間であるということは外では言わないようにお願いします」
こんなこと言っても、この話は広まるだろうだな。もうクラスで俺のスローライフはなくなるのかな。そんなことを考えていたら、姉が「姉と俺が一緒に出席者のテーブルを順番に回る」と言い出した。「俺は何もしなくていいという話だったはず」と抗議したら、「そんなのお茶会の常識だ」と返された。
けんかするわけにもいかないので、不貞腐れて姉の言葉に従った。せめてもの抵抗である。先ずは姉の友達のところから
「ミヒャエラ様にこんな弟がいたなんて、一度もお茶会に連れてきたことなかったわよね」
「そうなのよ、出不精で、お茶会に行くというと、急にいなくなって、それで今回は父から言ってもらったの」
「そうなの、だいぶ苦労しているみたいね、さっきの挨拶もそうだったけど。ツェーザル様でしたっけ。よく見るとかわいい顔しているわね。どう。私のところに婿に来ない」
「ちょっと待ってよ、ツェーザルの婿の話は父を通してもらわないと」
「自分は婿に行く気はありません。将来は商人になって諸国をめぐるのが夢でございます」
「そうなの、もったいないわね」
なんかテーブルを回るたびにこんな話が出てくる。また、学院の入学試験の話も出てくる。
「私の弟Aクラスにいるのだけ、ツェーザル様って、試験は平民枠で受けたと言っていたけどそうなの」
「はい、試験の願書には家名は書きませんでした」
「そうなのよ、願書出すときずいぶん父ともめたのよ。それと家庭教師もいらないって、私の古いテキストで勉強したのよ。試験、本当に合格したか信じられなくて、合格発表は私も付いて行ったのよ。掲示板にツェーザルの名前を見つけた時はうれしかったわ」
「独学で勉強してAクラスはすごいわね」
「入学してからも優秀って聞いたけど」
「そうよ、何でも新しい魔法陣を作って登録されたのよ。父も喜んでいたわ」
なんか弟をだしにした自慢話のようである。何んとなく頬がむず痒い。
そんな感じで俺の初めてのお茶会は終わった。これで学院での隠遁スローライフはなくなったと思うと悲しかった。




