56.危うい均衡
アンゼルム様とアポロニア様と俺は早々に伯爵邸を立って王都へ帰還した。今回の成果を国王に早急に報告するそうである。帰りの馬車の中で
「そんなにデンランド王国がきな臭いのですか」
「うーむ。あまり公にしてもらっては困るが、ツェーザル君も魔道エンジンの開発者として、ある意味当事者だから知っておくのもよかろう。
デンランド王国は最近海峡に砦を築いて、そこを通過る船に税を課すようになった。それで、北の国々からの毛皮や木材が値上がりしているのだ。それで、北の海を利用する商人は国王に何とかしてくれと言ってきているようだが、デンランド王国は強大でライラント王国ではとても太刀打ちできない。だから国王としては静観する構えなのだが、もし、デンランド王国がうちの港を急襲した時のために防御だけでも固めておこうということになっているのだよ。
今回の視察で、魔道エンジンを搭載した艦隊が整備できればデンランド王国の艦隊に対抗できるのではと思ったのだが、現状はそう簡単にはいきそうにないことが分かった。
魔道エンジンを搭載した軍艦は優秀だが、その整備には少なくとも1年間は必要ということが分かった。その1年はじっと耐えるしかないということだ。あまり騒いで、デンランド王国に睨まれるとライラント王国が滅びる」
何ともきな臭い話である。将来の俺のスローライフがどうのこうのと言う前に国がなくってしまうとその前提が崩れてしまう。
帰りの馬車では無言になってしまった。すると、
「そんなに落ち込む必要はないよ。デンランド王国と敵対しなければいいのだから。国王もそれは分かっている。一部貴族と商人の暴走を止めればいいだけのことだよ。今のところ、デンランド王国のことで騒ぎを起こしそうな貴族は監視をつけているし、もし暴走しそうなら実力で排除する」
「そうなのですか。私たちが平和でいられるのは、危うい均衡の上にあるということですね」
「危うい均衡か、そうだな、確かに一歩間違うとどうなるかわからない状態だ。しかし、その一歩を間違わないようにするのは国を導く者の務めだよ」
「わかりました。とりあえず小型艦の魔道エンジンは、この学年末休暇の間に作って、ブルヘンジュ伯爵のところへ送ります。また魔道エンジンの工場も職人を追加で募集して、製造能力を増やしま。私にできることはこれくらいかな」
「そうしてもらえるとありがたい」
その後、王都に帰った。国王への報告はしておくというので、王都の公爵邸で馬車を下ろしてもらった。公爵邸の玄関を入って、すぐに父上の執務室に向かった。
「ただいま戻りました」
「ブルヘンジュ伯爵のところはどうだった。魔道エンジンはうまく機能していたか」
「それが、魔道エンジンは優秀なのですが、軍艦の強度を上げる必要があるみたいで、今はどれくらいの強度が必要かを見極めている状況でした。そのため、魔道エンジンを搭載した新型軍艦による艦隊が整備されるには少なくともあと1年は必要とのことでした。
その間のつなぎとして、小型艦に魔道エンジンを搭載してゲリラ戦のような戦い方をしてはどうかということになりました。これについては今年の冬までには準備が整うようです」
「そうか、魔道エンジンの艦隊整備には時間がかかるか」
「はい、それから、艦隊整備のため、魔道エンジンも増産をする必要があるので、工場の職人を追加したいのですが、お願いできますか」
「職人の追加募集は執事に話をしておく」
「それから、お前も聞いたのだろう。デンランド王国のことを」
「はい、帰りの馬車の中で、アンゼルム様から聞きました。今は耐えるしかないと」
「そうだな。ライラント王国ではデンランド王国に勝てない」
「すべての貴族や商人はこのことが分かっているのでしょうか」
「理屈ではわかっていると思う。しかし、感情が付いて行かないと思う。海峡を通る際に関税をかけられて、商品の値段が2倍になってみろ。昨日までは金貨1枚で買えたものが2枚になれば、怒りもわく。それに商品の売れ行きも落ちる」
「そうですか、わかってはいるのですか」
「そうだが、多分晩秋ぐらいから、物の値段が上がるぞ。そうなると貴族だけでなく、平民も騒ぎ出すかもしれない。お前も注意するのだぞ。お前はお金を持っていると思われているから、狙われるかもしれない。とりあえず男爵邸の護衛は2人追加する。それから外へ出るときは護衛を随伴するように」
「わかりました。気をつけます」
こうして父上への報告は終わった。




