19.ブルヘンジュ市観光(1日目午後)
昼食後、俺は「もう動きたくない」とごねた。俺は仮にも公爵令息、この中では一番偉い。ごね得である。
「なあ、マルテ。ここから一番近い観光名所はどこだ。とにかくあまり歩かなくて行けるところ、内容はどうでもいい」
「内容はどうでもいいなんて言うなよ」
「ごめん。とにかくここから一番近いところ」
「わかった。ここからだと美術館が一番近いかな」
マルテに連れられて美術館を見に行くことになった。ほかの人の意見は無視である。俺は公爵令息、この中では一番偉い。こんな時だけ貴族風を吹かすツェーザルであった。
しかし、マルテと妹のアンネリースは狭い路地をどんどん歩いて行く。こんな狭い路地に有名な美術館があるはずない。
「なあ、マルテ、ほんとにこんな狭い路地に有名な美術館があるのか。俺が、『内容はどうでもいい』と言ったので、ちんちゃな美術館に行くわけではないよな」
「そんなことはないよ。少し近道しただけだよ」
「そうか、それならいいけど」
狭い路地をくねくねと「もうどこへ行ったのか分からない」と思った時に、やっとお目当ての美術館に着いたようである。マルテの歩みが止まった。
「学院のご学友御一行様、ようこそ、グルテリング美術館へ」
マルテが、芝居がかった仕草で、入り口の扉を開けて恭しく一同を迎え入れた。
それに答えて俺は
「道案内ご苦労。其方の人生に幸あらんことを」
すると、周りの友達が
「あなたち、何やっているの」
そして、アンネリースが
「兄上も、学院に行って変わったみたいね」
するとマルテが急に慌てて
「アンネリース、今のことは父上や母上には内緒だぞ」
「どうしようかな」
「こら、兄をゆする妹があるか」
「わかったわ。やさしいアンネリースは黙っていてあげる」
受付を済ませて中に入ると、これも伯爵家ということで、館長が説明してくれた。この美術館は主にライラント王国の南部地方の絵画を集めて展示しているとのこと。伯爵家からも多大な寄付を受けているとのことであった。そう言われても俺には美術品の良し悪しなど分からない。鑑定を用いれば美術品の価値は分かるが、しかし、そこまでである。心で感じるとか、感動するとかはない。
裸婦像でもあれば興味もわくのであるが、そんなものはない。あるのは主に宗教画である。そのうち眠くなってくる。あくびをしていると館長に睨まれた。館長もこちらが貴族の令息と知っているので、声には出さないが顔には出ている。
美術館を出て「次はどこへ行くか」という話になったが、俺が相変わらず「歩かなくていいところ」と言っているので、ボートに乗って運河めぐりをすることになった。ここブルヘンジュ市は川から引き入れた運河が市内を巡っており、ボートに乗って市内めぐりが出来るそうである。
「それを早くいってくれれば、俺がグダグダ言うこともなかったのに」
「そんなこと言って、最初に尖塔、尖塔と叫んでいたのはツェーザルだろ」
「………」
返す言葉もない。
受付をしてボートに乗ったのはいいのだが、ボートが小さい。その小さいボートに、学生12人とアンネリースと護衛5人が乗ると狭い。それに、女子学生はわざと俺の隣を狙ってくる。俺の昼行燈が効きそうもない。それに船が揺れるたび抱き着いてこようとする。結局これなら、歩いたほうがよかった。「もう歩けないとは言わないことにしよう」と思うツェーザルであった。
その後、近くのカフェで休憩した。
「ほかにも、ブルヘンジュ市にはいいところがいっぱいあるんだぞ」
「はい分かりました」
もう俺は昼行燈の掛け過ぎと船酔いで言い返す気力がない。素直にマルテの言うことを聞くだけである。その後は通りを歩きながら、適当な店があると、店に入って、適当に土産を買ってから伯爵邸に帰った。




