135.英雄の恋の跡
結局、2軒の隣り会った宿に分かれて泊まることになった。何拍するかでもめたが、「せっかく来たのだし」ということで3泊することにした。これは亭主の威厳である。というか1泊だと明日また宿探しをしなければならない。それが嫌だっただけである。
1つの宿にメイド8人と護衛6人、もう1つの宿に俺とアライダ達8人と護衛6人とした。メイドはうるさいので別にしたかった。護衛もアーダの異空間に入るなら少ない方がいい。
メイドがガタガタ言っていたので、アライダ達に「今度行くときはメイドを連れて来るな」と明言した。すると、アライダ達がメイドに何か言ったようでメイドもガタガタ言わなくなった。
宿も決まったし。俺たちは市内観光に出かけた。と言っても、これといった目的があるわけではないが、俺としてはやはり〇ーテの軌跡をたどってみたい。そこで、川にかかる橋のところに行った。ここで、将来〇ーテが恋を語るのだと思うと感慨深いものがある。
そして、お城が立つだろう丘を眺めた。これは道もない山に分け入る根性がないので、山を眺めただけで終わった。
そして、将来〇ーテが恋を語るだろう居酒屋がないか探したが、将来できる居酒屋など見つかるはずもなく、と言うかこの町に居酒屋があるのか疑わしい。
そこで道行く人に「この町に居酒屋はあるか」と聞いたら「1軒だけある」と言われた。そこで場所を聞いてその居酒屋にやって来た。
あれだけ文句を言っていたアライダ達がえらくおとなしいので
「どうしたのだ、えらくおとなしいが」
「だって、ツェーザル様が『次はメイドを連れて来るな』と言われたから、かなり怒っているのかと思って」
「そうだな、メイドの態度には怒っている。メイドはお前たちのメイドであって、俺のメイドではない。そのメイドが主人を飛び越えて俺に文句を言うというか俺に聞こえるように言うのは間違っている。文句があるなら主人に言うべきであって、俺に言うものではない。
それに俺はメイドを連れてきていない。俺は自分の身の回りのことは自分でしている。だからお前たちも自分の身の回りのことは自分でできるはずだ。だからこの次の旅ではメイドは連れてこないでほしいと思った。それだけだ」
「わかりました、メイドには言っておきます。次の旅ではメイドは連れて行きません」
「そうしてくれ」
しんみりした気持ちになったが、頃合いと思ったようで居酒屋の女給が注文を取りに来た。なんせ客は29人である。それも貴族、お金をたくさん使ってくれそうと思ったみたいだ。
その女給の顔を見た時、俺の心に稲妻が走った。すごい美人。ドストライクと思った。しかし横には新婚の妻たちがいる。ここは悟られてはいけない。ここは平静を装って
「この店のお勧めは何だ」
ほんとは「お勧めは私です」と言ってほしかったが、そんな妄想はやはり妄想だった。
「マ〇ラです。豚の胃袋にいろいろなものを詰めて………」
ああだめだ。「豚の胃袋」と聞いただけで俺の顔から血の気が引いた。後の説明は聞こえていない。それでも、ここは亭主の威厳を保つ必要がある。ここで気絶する訳にはいかない。
「それじゃその名物料理を29人前」
俺は見栄を張ってそう答えた。
しばらくして料理が運ばれてきたが、やはり「豚の胃袋」と言う言葉が脳裏から離れない。しばらく料理をつついているが、つつくたびに俺の心に稲妻が走る。やっぱり我慢できずに
「他の料理を頼む。出来たら野菜だけの料理を頼む」
するとその女給はさみしそうな顔をして
「お気に召しませんでしたか」
「いや、俺は菜食主義者なので」
「そうですか、それでは野菜の炒め物を持ってきます」
その女給の後姿を見て俺の恋も終わったと思った。すると急に何か心にこみ上げてくるものがあった。そして涙が止まらなくなった。以前英雄の殺された場所で感じた感情と同じである。
そこで、俺は悟った。英雄もここで恋をして、その恋は叶わなかったのだ。失恋する英雄、こんなのが英雄叙事詩に書かれるはずがない。
英雄はヒーロー、失恋などしないのだ。そうでないと物語が憧れでなくなってしまう。しかし、俺がここで、英雄の涙を感じるということは英雄もここで失恋したのかもしれない。しかしそれは記録にないので、かもしれないで終わってしまうのだ。
また1つ、英雄の軌跡をたどったツェーザルであった。




