133.英雄の軌跡
宿に帰ってから次の日どうするか妻達と相談した。その結果、もう一度市内を散策することになった。市内観光が1日では物足らないとのことであった。俺もまだ見ぬ英雄の軌跡に巡り合えるかもしれないという期待もあり了承した。
次の日、朝から俺たちは徒歩で宿を出た。英雄はこの町で過ごしたのだから、市内各所に英雄が立ち寄ったところがあってもおかしくない。しかし、俺の頭には、何も響いてこない。時々、ちょっとした痛みを感じることがあるが、それが何なのかわからない。
今も胸に小さくチクッとした痛みを感じた。この痛みが何のか、分からない。英雄叙事詩では英雄は妻一筋である。俺のように妻8人にダンゴムシやゼロ歳児まで妻にしようとは考えていないはずである。
もし、英雄が浮気性なら今感じた痛みはそこに綺麗な女性がいたのかもしれないのだが、英雄叙事詩には英雄は複数の妻を持っていたとは書かれていない。前世の〇〇ベル〇ゲンの歌でも、ジー〇〇リートの妻は1人だけだったと思う。あっ、でもたしか、寝室でブ〇〇ンヒルトを押さえ付けたのはたしか英雄ジー〇〇リートのはず、すると、英雄は女性にもてたのかもしれない。
「おいアライダ、英雄は女性にもてると思うか」
「当たり前じゃないですか」
「じゃ、英雄が1人の女性で満足すると思うか」
「ほんとは私だけと言ってほしいのですが、そんな事はないでしょうね。ツェーザル様のように複数の妻を持つでしょうね」
「俺、英雄じゃないぞ」
「私たちにとっては英雄です」
「そうか、ありがというな」
「感謝しているなら、これ以上妻を増やさないようにしてください」
単なる会話のつもりが、浮気厳禁と言われたような気がした。
英雄叙事詩で英雄の妻が1人しか書かれていないのは、その方が読む人にとって英雄を美化しやすいからだと思った。しかし英雄色を好むとも言うし、よくわからない。
別に俺はどちらでもいいのだが、女性はどうなのか聞いてみた。
「なあ、アライダ、複数の妻を持つ英雄と、1人の妻しか持たない英雄とどちらがいい」
「そうですね、むずかしいところですね。英雄が優秀だから複数の妻を持てるのか、それとも潔白だから1人しか妻を持たないのか、よくわかりませんね。若し、能力がないから1人しか妻を持てないのなら、そんな英雄は要りませんね」
どうも英雄は一般人では務まらないようだ。何事にも優れた能力のある人でないといけないようだ。俺の場合、複数の妻がいるのは俺のスキル甘美の香りのせいだし、難しいところだ。
アライダたちが買い物をするというので付いて行った。女の買い物は長い。俺は店の椅子に座ってゆっくりしている。もう長時間覚悟である。だから店に入った時、真っ先に椅子を用意してもらった。
店では英雄の妻が着ていた服と同じ物とか、同じ工房で作った服とか、眉唾物ばかり売っている。「こんな眉唾物に引っかからなくても」と思うのだが、英雄と聞いただけで妻達は飛びついてしまう。英雄ブランドは女性には人気のようだ。
金はあるし、いいかと思って、鑑定をかけることもせずにほおっておいた。買った物は買った尻からマジックバッグに入れていく。これもいけないのかもしれない。買った物が見えない。しかし、大きな手提げを抱え右往左往するメイドも見たくないので好きにさせておいた。
次に入った店は酒屋だった。ここで、俺は心の中にちょっとした喜びを覚えた。見ると樽に入ったワインが目に入った。俺は酒を飲まない。それなのに、このワイン樽を見て喜ぶということは英雄は酒が好きだったのかもしれない。
そこで、俺はそのワインを樽ごと買った。すると、
「ツェーザル様は酒を飲みませんよね。何故ワインを樽ごと買ったのですか」
そうだ。俺は酒を飲まないのだ。買ってから気が付いた。
「いつも世話になっている護衛への土産だ」
苦しい言い訳をした。
するとヤンスが
「坊っちゃんはいつも俺たちのこと気に掛けていてくれたのですね」
と感謝された。
別にヤンスのことを思って買ったわけではないが、気をよくしてくれたのならそれいいかと思った。
そうやって、夕方まで市内観光をした。時々胸に感じる痛みや喜びは、やはりこの町が英雄の過ごした町だということだろうか。しかし、あの英雄が殺された場所で感じた思い以上の強烈な思いは感じなかった。




