129.市内観光
さすが市内で最高級の宿屋だけある。宿に入ると部屋が違う。清潔で広くそして明るい。とりあえず俺たちは一旦部屋に入った。さすが、宿の名前を英雄叙事詩から取ったというだけある。壁にも英雄ジー〇〇リートの絵画が飾れている。部屋にはドラゴンのぬいぐるみもある。
その後、食堂に向かった。出てきた料理はこの国特有のジャガイモ料理であったが、味付けが工夫してある。普段食べている料理のはずが、なぜか違った料理に感じる。これが一流の宿一流のシェフの腕なのかもしれない。昨日泊まった安宿とは雲泥の差である。
妻たちの機嫌がいい。清潔な宿と美味しい料理、ほっとする瞬間である。朝フルトランツの宿を追い出された時はどうなるかと思ったが、終わってみればそれもいい思い出である。
それから俺たちは部屋に戻った。一応、護衛の部屋とメイドの部屋それに俺たちの部屋には結界を張った。とにかく昨日の幽霊騒ぎが頭から離れない。それに俺たちがこの宿に泊まることによって、泣いている人がいるかもしれない。
部屋に入ると早速カルラを呼び出した。そして、何か感じるか聞いてみた。
「難しいところですね。感じると言えば感じるけれど、感じないと言えば感じない。微妙なところです」
「やはり、そうか。俺もそうだ。なんか靄っとしていてよくわからない」
するとアーダまでが呼びもしないのに出てきて
「私も、同じです。こう何というか。奥歯に物が挟まったというか、そんな感じです」
すると、これらの会話を聞いていたアライダ達が
「ダンゴムシに奥歯なんてあるのですか」
するとアーダは意地になって、口を開いたが、ダンゴムシに奥歯は無かった。
「やっぱり、奥歯は無いじゃないですか。所詮虫は虫、人間と同じものがあるはずがないじゃないですか」
すると、傷ついたダンゴムシは虫かごに帰っていった。
その日はアーダが意地になったので、アーダの異空間に入れなかった。仕方なく、宿の部屋で寝た。しかし、さすが高級宿、布団も肌触りがよくベッドも柔らかい。その日は気持ちよく寝られた。
次の日から市内観光である。英雄の軌跡を探したかったが、町全体がぼんやり靄がかかったような状態なので、これといって行きたい場所もない。他の観光客と同じ場所を巡ることにした。
宿が市の中心部にあるということで、宿を出るとすぐ目の前に大きな聖堂があった。中に入ると落ち着いた橙色の室内と高い天井が目に飛び込んでくる。
一番驚いたのはステンドグラスを通して差し込んで込んでくる光であった。この光が室内に飾られた色々なポーズをした英雄の像に当たって、英雄の像が眩しく輝く。まるで英雄の像が生きているように感じられる。しかし、そこまでだ、やはり、英雄が殺された場所で感じたような心を打つような感情は湧いてこない。
多分ここへはかの英雄も幾度となく訪れただろうが、ここでの感情は他の場所と同様一般的なものであったようだ。アーダにも聞いているが、俺と同じようであるらしい。ただ、昨日アライダ達に言い負かされたので、まだ拗ねているようで、異空間からは出ようとしない。
なお、カルラはお昼寝中みたいで呼んでも返事はない。
次に俺たちは、市役所の前の広場にやって来た。ここにはかの英雄の像があった。さすが英雄、筋骨隆々としている。たくましいの一言に尽きる。
アライダ達がその銅像に見とれている。以前俺が美女妖精ハニーレライの裸婦像に見とれた時は文句を言ったくせに自分たちは英雄の像に見とれている。文句を言ってやりたかったがここは我慢した。
その後も市内を見て回るつもりだったが、アライダたちが買い物をすると言い出した。英雄の記念品を買うのだそうだ。どうせ眉唾物しか売っていなと思っているのだが、妻たちの意志は固い。
仕方なく付き合ことにした。俺が鑑定をかけると、大抵観光客用に作られた物ばかりである。こんな所に有史以前の英雄の一品が売っているはずがない。
英雄ジー〇〇リートが愛用した腕輪とか、ひどいものになると英雄ジー〇〇リートが使っていた剣を作った工房で作られた剣とか言っている。そんな歴史のある工房が存在すれば、こんな所でちんちゃに土産物品などを作っているはずがない。
その日はそれから市内で色々な店を見て回ったが、収穫はなかった。




