128.宿の幽霊
宿に帰ると、宿の主人が
「今日は教会の神父を2人にしてもらった。これならあの忌々しい幽霊も退治してくれるだろう。こう毎晩出てくると、夜眠れない」
と言っている。
俺には関係ないことなので、俺は何も言わずに宿へ入った。ここで何か言うと倍になって返ってくる気がした。その日も食堂で夕食を食べて、昨日までと同様、メイドの部屋、護衛の部屋、それに自分たちの部屋に結界を張った。そしてアーダの異空間の屋敷で寝た。
「ギャー」その夜、宿に悲鳴がとどろき渡った。
こう毎日だと慣れてくる。それに他人事である。俺は寝返りを打っただけでまた寝た。
次の日の朝、食堂に行くと宿の主人が昨日にもましてやつれた顔をしている。そばの2人の神父さんもこの世の終わりのような顔をしている。
触らぬ神に祟りなし。俺は宿の親父から距離を取った。すると親父がこちらにやって来る。
「申し訳ないのだが、貴方たちには、今日この宿を引き払ってもらえないだろうか。泊まっていない分のお金は返す。今日からここは平民専用の宿にした。貴族が泊まっていると幽霊が出る。あの幽霊はかなり強力で教会の神父が二人掛でも退治できなかった」
あのやつれようでは何を言っても無理と判断した俺は素直に
「わかった。今日出て行く。4泊したから金貨16枚、最初の日に40枚払ったから、24枚返してくれるということでいいのだな」
「そうだ。貴族の割には文句は言わないのか」
「言ってもいいのか。でもそのやつれた様子を見るとかわいそうになってくる。だから文句は言わない」
「ありがたい」
物語のヒーローならここで幽霊退治に乗り出すのだろうが、俺はヒーローに憧れて挫折した男。無駄なことはしない。所詮他人である。
俺は金貨24枚を返してもらって宿を後にした。さてこれからどこへ行くか。差し当たって今日の宿を探さないといけないが、この町は無理だと思う。多分この町では宿はすべて平民専用になったと思う。
俺があまりにも素直に平民の言うことを聞くので、護衛とメイドが「もう少し言い返したら」と言っているが無視した。そこまでしたら高慢ちきな貴族になってしまう。
宿を追い出されたツェーザル一行であったが、さてこれから何処へ行くかを決めなければならない。とにかく夕方までに次の町に行って宿を取らないと野宿である。
「なあアライダ、俺たちこれからどこへ行く?」
「どこへ行くと言われても、王都へ帰るにはまだ早いように思いますし、もう少し南へ行ってみますか」
「なら、この南に英雄叙事詩の舞台になった町があるのでそこへ行って英雄の軌跡をたどってみないか」
英雄と聞いて、アライダ達女性陣がうっとりとした表情を浮かべた。ダンゴムシまでが虫かごから出てきて
「英雄、英雄」
と言っている。
それから俺たちはまた馬車に揺られて南へ向かった。走る街道はあえてこの国を南北に流れる川の右岸側の街道を走った。そして夕方までには〇〇ベル〇ゲンの歌の舞台となった。○○ルムスに着くことが出来た。
今俺たちは川にかかる橋を渡っている。橋の上には大きな門がありこの門は〇〇ベル〇ゲンの歌の塔と言うらしいがよくわからない。この塔を抜けると中世都市である。
まず最初にすることは、今日の宿を決めることである。決めないと野宿である。そこで、今回は権力を使うことにした。先ず商業ギルドへ行って。公爵家と関係ある商会を紹介してもらい、そこから宿屋に圧力をかけてもらうことにした。
商業ギルドへ行って、ネルデンベルク公爵家の名前を出した。ちなみに、ツェーザルの名前も有効であった。俺の開発した商品を扱っている商会もあった。
そして、その商会から市内の最高級の宿屋を紹介してもらった。貴族とはすごいものである。その気になれば平民を顎で使える。
これには一緒にいるメイドや護衛が驚いている。先ほどまで俺に文句を言っていたメイドが急に静かになった。アンナやリズも商会の娘だが、これほどの力はないと感心している。
紹介してもらった宿屋は市内の中心部にある○○亭と言う名前の宿屋である。宿の名前は英雄叙事詩から取ったと言っているが、○○亭と英雄叙事詩とどう関係しているのか分からない。少なくとも俺の記憶にある〇〇ベル〇ゲンの歌には〇〇亭は出てこなかったと思う。
俺たちはそこにVIP待遇で迎えられた。商会長の紹介である。そこに無理やりねじ込んだようだ。そこで29人で1日金貨7枚、5泊することにしたので金貨35枚払った。宿の料金としてはこれまでの最高額である。明日からは市内の英雄の軌跡巡りである。




