125.英雄の殺された場所
次の日の朝、食堂に行くと宿屋の親父がげっそりした顔をしている。昨日は宿屋の親父の部屋に幽霊が出たそうである。おれたちの部屋に出たのでなければ俺たちは関係ない。
元々俺たちはアリーセだったか、殺された娘となんの関係もないのである。無関係の人に恨まれてもいい迷惑である。恨むなら、そんな娘を見殺しにしたこの町の住民こそ恨まれるべきである。
宿屋の親父が俺達を恨めしそうな目で見ている。俺は面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なので、あえて知らん顔をしている。向こうは平民、こちらは貴族、それも公爵家の三男である。こちらから話しかけなければ向こうから話かけてくることはない。
宿に居ても気が滅入るので、今日も出かけることにした。今日は少し遠出をしてみることにした。この町の近郊の南の山岳地帯の森は英雄叙事詩の舞台となったところである。
以前英雄が竜を倒し、その返り血を浴びて鋼鉄の体になったという所を訪ねたが、ダンゴムシと妖精は何も感じなかった。今回は、竜殺しの英雄が、騙されて殺された場所である。
もっとも、この場所が本当に殺された場所かどうかははっきりしない。前世の〇〇ベル〇ゲンの歌でもあまりはっきりした場所の記載はなかったように記憶している。今世の英雄叙事詩はもっといい加減である。
領主が、英雄をだまし討ちにして殺した場所というような不名誉な場所の宣伝をするわけがない。この領では英雄叙事詩の話はご法度だそうだ。町で聞いても「知らない」とそっぽを向かれた。
とにかく、ここが英雄叙事詩の舞台となった所であればそれでよし。なければそれまでのこと。とにかく、ここでダンゴムシと妖精を放つことにした。
アライダ達には、最近アーダや妖精を遊ばせていなので、久しぶりに森に行って、遊ばせたい」
と言うと、
「こんな羽虫の機嫌を取らなくてもいいのに」
と言われた。
するとこれを聞いていたダンゴムシが出てきて
「人の異空間でゆったりしておいて、そんな事を言うと、もう入れてあげないよ」
なんか一触即発の状況である。
「喧嘩はせずに仲良くするように」
無理やり言い聞かせた。
中々妻たちの機嫌を取るのは大変である。
げっそりした宿屋の親父は無視して、俺たちは馬車で宿を出た。今日は町にはいかずに、そのまま南の森を目指した。郊外に出ると森はすぐだった。
そのまま森を進んで、昼前まで進んで、そこで進むのをやめた。ここで昼食にすることにした。護衛やメイドが昼食の準備をしている間に、虫かごからダンゴムシと妖精を出した。なお妖精は昼行燈全開で護衛やメイドに見つからないようにしてもらった。
昼食を取りながら、ダンゴムシや妖精が帰ってくるのを待つことにした。
昼食を取ってゆったりしていたら、ダンゴムシが戻ってきた。
「この先の大きな木のところで、急に涙が出てきた。何かわからないが、残滓の様な物が漂っている」
そこで、俺はダンゴムシに導かれて、その場所に行った。すると急に涙が出てきた。ダンゴムシも泣いている。この世界に転生して初めてのことである。俺も神から何か使命の様なものを帯びているのだろうか。しかし、その使命がダンゴムシと同じとは。この世界の神も物好きである。
しばらくするとアライダ達がやってきて
「どうしたのですか。急に羽虫と一緒に居なくなって、何かあったのですか」
「ダンゴムシがこの場所に何かあると言ってきたので、来てみたのだ。この場所はとても悲しい場所みたいだ」
「そうなのですか、私は何も感じませんが」
他の妻たちに聞いてみたが、やはり何も感じないようだ。すると、ここで何か感じるのは転生者だけか。それを確かめるため、カルラを呼び出した。頭の中でカルラを呼んでみたが、お昼寝中なのか反応はなかった。
そこで、後日もう一度ここへきてカルラに確かめてもらうことにした。場所が分かなくなるといけないので、何か目印になる物を設置することにした。
近くにあった大きな石に、「我ここに来たり。そして涙した。この記憶をここに刻む。ツェーザル・ネルデンベルク」と刻んだ。そして周りを整地して、周りを小さな石で囲って、記念碑のようにした。たぶん公爵家の名前を出しておけば、この石を壊す人はいないだろう。
こうして、ツェーザルはこの世界に転生して初めて、転生の意味を知るきっかけの様なものを掴んだのである。




