123.文豪はまだ生まれていなかった
俺たちは川を渡ってフルトランツ市内に入った。城門を越えるとそこは中世都市である。すぐに広場が目に飛び込んできた。
ここに市が立つそうである。広場の中央には聖人の像があり、両側には5階から6階建ての建物が並んでいる。建物の外観は赤い色の柱に白い壁、三角の屋根は黒い色で統一されている。
広場は石畳だが、かなり凸凹がある。馬車の轍もあり、下をよく見ていないと転びそうだ。今日は市の立つ日ではないので、広場は閑散としているが、それでも俺達みたいな観光客も何人か歩いている。
ふと俺の頭に前世の記憶がよみがえった。そうだ、フルトランツ市というと、文豪〇ーテの生まれた町だ。広場で野菜を売っている親父に
「この町の〇ーテの生まれた家を見に行きたい」
と聞いたら、
「〇ーテ、知らん」
冷たく返された。
そこで俺は親父の売っている野菜を抱えきれないくらい買って、もう一度聞いた。
「文豪〇ーテだ、若き〇〇〇テルの悩み、読んだことがあるだろう」
と聞いたら、
「俺は字が読めない」
と返された。
そのとき俺は悟った。この時代にまだ〇ーテは生まれていなかったのだ。あれは近世の話だ。俺の買った野菜が無駄になった瞬間だった。
俺は買った野菜をマジックバッグに入れて呆然とした。もうこの町に興味はない。するとアライダ達が教会を見行こうと言ってきた。
そのまま流されるように教会に入った。小さな教会だったが小さくて人が少ない分だけ静かでゆっくりすることが出来た。
なぜか心が洗われるようで冷静さを取り戻すことが出来た。もう前世は遠い過去なのだ。俺はこの世界に転生してきたのだ。
それと今は前世の中世の世界なのだ。前世で読んだような物語はまだこの世界には存在しないのだ。文豪〇ーテや〇ラーもまだ生まれていないのだ。
それにこの時代の識字率はたぶん都市でも2割もないであろう。それに印刷術が発明されていないこの時代に本を買えるのは貴族くらいである。広場で野菜を売っているおっさんに物語の話を聞いても無駄な話である。
その後は、なぜか狭い路地に入って行った。中世都市は無秩序に発展してきた経緯がある。そう思っていたのだが、なぜかよくわからない。アライダたちも辺りを見回して不安そうな顔をしている。
道端に深くベールをかぶった老婆がいたので聞いてみた。
「広場に戻るにはどこへ行けばいい」
すると老婆は
「人にただで物を聞こうとするのか」
と言ってきた。がめつい老婆だ。
「幾らだ」
すると老婆は
「私は占い師だ。客になるなら教えてやる」
がめつい老婆だ。
道を聞く金と占い料の2重取りをするつもりだ。そこで俺は
「広場へ出る道を占ってくれ」
これなら金の2重取りは出来ない。
すると老婆は
「ちぇ」と舌打ちして、占いもせずに
「道はあっちだ、その左の道を真っ直ぐ行けば広場に出る。料金は銀貨5枚だ」
しまった。先に単価を決めてから依頼するのだった。2重取りはなかったが、単価が2倍になった。仕方なく銀貨5枚を払った。
すると老婆は
「お宅さんもまだまだだね。でも楽しかったよ。楽しませてくれたお礼にいいことを教えてやるよ。あまり大きな声では言えないけど、平民の娘が貴族の息子に殺された。
平民の娘は好きな人があって、貴族の息子に言い寄られたとき断ったらしいんだ。それを逆恨みされて殺されたと聞いた。
それ以来その娘がこの町にやってくる貴族に化けて出るという話を聞いた。あんたらも宿に泊まるときは気を付けた方がいいよ」
これを聞いて、セリーナが急に老婆のところに駆け寄って
「その話、もっと詳しく教えて」
と言い出した。
あかん。こんなこと言ったらこの老婆の思うつぼだ。この老婆はただでは教えてくれないだろう。その証拠に俺に向けて手を出している。お俺は仕方なく銀貨5枚を払った。そして追加でその老婆の話を聞くのだった。




