110.露天風呂
町自体小さいのでランベルグ市の観光は1日で終わってしまった。急に訪れたこともあり、あまり、イルメラの実家に迷惑をかけてもいけないという建前の下、途中に素通りした温泉に行くことにした。イルメラは「もう少し居たい」と言っていたが、俺が「実家にあまり迷惑をかけてもいけない」と強引に押し切った。
そして、勇んでランベルグ市を立って、温泉のあるボール・エムスへ行こうとしたら、男爵に
「急に行っても有名な宿は部屋が取れませんよ。特にツェーザル様は29人もの大所帯、部屋が空いているはずがない」
と言われてしまった。それで、先に使いをやって、部屋を取ってもらうことにした。
「宿は高級でなくても、裏通りでもいい。とにかく早く行きたい」
と言った。
その間暇になった。このあたりは田舎、丘陵と川と森と畑それがモザイク模様のように連なっている。季節がよければ郊外のピクニックなどもいいかもしれないが、今は冬、ダンゴムシや妖精を外に出してみたが、「寒い」と言ってまた虫かごに戻ってきてしまった。
このダンゴムシ根性がない。「虫なのだから少々寒くても外で遊べば」と思うのが
「ダンゴムシは冬は活動休止しています」
と何とも情けない回答が返ってくる。
どこかへ行く当てもないし、外は寒い。そこで俺は男爵邸の庭に露天風呂を作ることにした。男爵に許可をもらって、庭の一角を掘り返した。俺の土魔法で、魔力をこれでもかと突っ込んで掘り返した。
掘り返した土は表面を固めて岩に擬態した。それを適当に並べて、さらに土でタイルを作ってそれを床に並べていく、最後は町で買ってきた木材で周囲を囲って出来上がり。朝から始めたが夕方までかかった。
しかし、考えたら脱衣所と体を洗う場所がない。さらに水道の配管もいる。燃料はすべて魔石にした。俺は魔力が余っている。それで俺の魔力を空魔石に注入して、その露天風呂の燃料にした。また夜でも使えるように明かりの魔道具も設置した。これらの作業をしていたら3日ほどかかった。
その間にボール・エムスに行った使いが戻ってきた。取れた宿は裏通りで10日後とのことであった。仕方がないので、その間はこの露天風呂(疑似温泉)で過ごすことにした。
俺は今露天風呂にいる。湯船につかり満天の星を眺めている。前世だと、星はこんなに多くはなかった。星の数は変わらないのだろうが、夜でも周りが明るいので星があまり見えなかったのである。
この世界では夜は、多くの人がすぐに寝る。夜起きていられるのは貴族ぐらいである。とにかく夜活動しようとすると、薪がいる。薪がない場合は明かりの魔道具を起動させる必要がある。すると魔石が必要になる。そんなことが出来るのは貴族ぐらいである。平民はそんなことできない。だから夜は暗い。暗いから多くの星が見える。
俺が、感慨に浸っていると、アライダ達がやって来た。男女の混浴、夫婦なのだからOKである。
「ツェーザル様は風呂が好きなのですね。男爵邸でもよく1人で入っていましたね。あんまり長く入っているので死んでいなかとよく見に行ったものです」
「そうだな、俺は風呂が好きだ。寒い日に暖かい湯につかって何も考えずにボーとする。最高の贅沢だ」
「そうですね。ツェーザル様の場合、お金はありますし、美味しいものを食べて、私たちがお世話する。この世の楽園ですね」
「そうだな、至福の時間だ」
するとダンゴムシや妖精が出てきた。
「おい、ダンゴムシ、お前たちは冬は活動休止中だろう」
「それは寒い場合ですよ、ここは温かいし、私もお背中流しましょうか」
「いや、いい、お前の場合小さいから無理だろう」
「ツェーザル様がキスしてくだされば、超絶美少女に変身しますが」
「それは遠慮する。そんなことしたら俺が干からびる」
「ちょっと、ダンゴムシ、ツェーザル様のお背中を流すのは私たちの役目、お前は虫かごでじっとしていなさい」
そのようにして、疑似温泉の夜は更けていった。唯途中から妖精が「お背中流します」「お背中流します」と言って、周りを飛び交うので、うるさくて仕方がなかった。




