108.男爵邸の訪問
ランベルグ市に着いて、男爵邸に行った。玄関でイルメラが挨拶すると、すぐに家族が出てきた。男爵夫妻と兄夫婦である。
結婚したら旅に出るとは言ってあったが、行先は言っていなかった。今日来たのも事前連絡なしである。行き当たりばったりである。
何か言われるかなと思ったが、そこは公爵家三男、向こうは言葉を飲み込んだようである。
「ようこそいらっしゃいました。歓迎します」
「こちらこそ、急に押しかけてすいません。何せ、行先は王都を出てから馬車の中で決めたもので、また、ここへ来る途中も観光地巡りをしていたので、連絡もせずにすいません」
一応謝っておく。
その後客間に通された。イルメラは家族と嬉しそうに話しをしている。まず、男爵家に対して行っている支援策について聞いておく
「それで、お義父様、マジックバックの貸し出しはどうですか」
「ずいぶん役に立っています。これまでは王都まで重い農作物を運ぶ必要がありましたが、マジックバッグで運べるので輸送費が浮いて、その分が男爵家の利益になっています。本当に賃貸料は要らないのですか」
「あれは公爵家で余っていたのもを貸し出したので要らない」
「それから、農地の4分割農法はどうですか」
「それはまだわかりませんが、今年の収量は多かったように思います。それに、農地を遊ばせていないので、全体でみると収量は増えています。それからテンサイなのですが、馬のエサをあんな高額で買い取ってもらっていいのですか」
「それは問題ない。テンサイから男爵邸に設置した工房で砂糖を生産している。砂糖は高額で取り引きされる。だからあの値段でも問題ない」
「そうなのですか、色々と助けてもらっています。イルメラがツェーザル様と結婚して本当によかったと思っています」
「そう言ってもらえると私もうれしく思います」
すると、男爵夫人が
「ここへ来るときにもいろいろ巡ってきたと聞いたけど、どこへ行ったの」
するとイルメラが
「コルンナ市でツェーザル様がダンゴムシをティムしたの、そして、そのダンゴムシの案内で森を散策したのだけど、そこで倒れている侯爵令嬢とその子供を見つけたの」
一応アーダは俺がティムしたダンゴムシということになっている。そうしないとあのダンゴムシおとなしく虫かごの中でじっとしているような玉じゃない。暇だと、所かまわず出てくるので、口裏を合わせている。
「残念ながら、侯爵令嬢は死んでいたのだけど、赤ん坊は息があったので、保護して侯爵様のところへ連れて行ったの。侯爵様には随分感謝されて、侯爵家の紋の入った短剣を頂いたのよ」
「それはよかった。あの侯爵令嬢、名前は確かマリーアさんだったと思うけど、結婚を反対されて駆け落ちしたって聞いたわ。その後侯爵様が随分探したけど見付からなかったらしい。アリーアさんは1人娘だったから侯爵様も後でずいぶん後悔しているって話を聞いたことがあるわ」
さすが夫人。こう言いう話はよく知っている。俺は全く知らん。恋とか貴族の浮ついた話など俺には無縁の世界だった。というか、俺の場合、そういう話は避けていた。
すると俺の頭の中に
「お久しぶりツェーザル様、私今元気にしています。乳母も決まって、毎日おっぱいをもらっています。もうずいぶん元気です。
大きくなったら絶対、ツェーザル様のところへ行くからね。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも私の結婚相手は自由にさせてもらえるみたい。私のベッドの横に来ては『もう私が誰と結婚したいと言っても反対しない』と言っているから」
なんか心臓に悪いことを言っている。ゼロ歳児との結婚、こんなことが教会に知れたら俺はそれこそまた『獄門、はりつけ、火あぶり』である。
俺は頭の中で
「その話はするな。俺が教会から破門される。俺は静かな人生を送りたい。それから、なぜ、こんな遠くまで話を伝えられるのだ」
「わからない。ツェーザル様のことは遠く離れていても、手に取るようにわかる。愛の力かしら。キャー。でもよかったね、あのダンゴムシ、『ツェーザル様を苦しめるようなら、私がひねりつぶしてやろうか』と思っていたのだけれど、異空間でおとなしくなったみたいで」
「そんな事言うなよ、あのダンゴムシがいなかったら、お前はいまだにあの森1人でいたのだぞ」
「そうね、あのダンゴムシが見つけてくれて、ツェーザル様たちを連れて来てくれたのだものね。そういう意味では感謝しているわ。またね」
しばらく、カルラと頭の中で会話をしていたら、夫人の話は終わっていたようである。その後も、男爵家の家族との会話は続いた。




