21 蜜月の恋人たち
◇◇◇
「明日の宴のことで相談がありますの。陛下にお目通りを願えるかしら」
急に王宮に乗り込んできた姉姫たちに、侍従は小さくため息を吐いた。到着以来、散々わがままに振り回されているが、ここまで無礼とは。先触れもなく王への謁見を迫るとは、ルミエル王国はどんな礼儀を教えているのだ。
「恐れ入りますが陛下はただいま取り込み中でして。明日の宴には必ず出席致しますので、それまでお待ち下さい。何か御用がございましたら、私のほうで対応いたします」
「無礼なっ!使用人ごときが陛下への取り次ぎもせずに私たちの訪問を断る気なの!?」
セラフィラは、ピシリと持っていた扇で侍従の頬を打ち付ける。
「……大変申し訳ございません。今後は事前にご連絡いただければ、予定を確認いたします」
「まだ言うか!この痴れ者がっ!」
再び扇を振り上げたセラフィラだったが、
「良い。通せ」
執務室の中から静かな声が響いた。
「──ですが陛下、ピアラ様が……」
「問題ない」
侍従は大きく溜め息を吐いたあと、仕方ないと言うように扉に手を掛ける。そして、ちらりとセラフィラを見ると小さな声でこう呟いた。
「後悔なさいませんように」
フンッと侍従を睨みつけてから部屋に入るセラフィラと、いつになく余裕のない姉の姿を見て、くすくすと笑いながら後を追う姉姫たち。
しかし、室内を見た瞬間、一様に口をあんぐり開けて、立ち尽くした。
「ピアラ……あなた、なんて恰好なの?」
「お、お姉さま!?ちょっ!カイ!離してってば!」
「嫌だ」
執務室のソファーの上で、ピアラを横抱きにしたまましっかりと抱き締めるカイ。
ピアラはカイの腕から何とか逃れようと、魚のようにジタバタしている。
「ぷっ……」
「うふふふ……」
「これは、ごめんなさい。確かにお取り込み中のようね」
声を上げて笑い出す姉姫たちに、ピアラは体中から湯気が出そうなくらい真っ赤になった。
「カイの馬鹿っ!もう嫌い!」
その言葉に声もなくショックを受けるカイ。
「ほら、だから言ったでしょう。いい加減にしないと嫌われますよって。いくら初恋の君と両想いになれたからって、はしゃぎ過ぎです。子どもじゃないんですから」
「君に嫌われたら生きていけない……」
「お、大げさなのよ!」
「本気だ」
「も、もう〜!知らないっ!」
ピアラに怒られてしゅんとするカイの姿と、プリプリ怒りながらもカイの腕の中でまんざらでも無い様子のピアラ。
恋人同士のじゃれ合いにしか見えないその姿に、姉姫達は呆れて肩をすくめた。
「明日の宴。お誘いありがとうございます。楽しみにしてますわ」
「ピアラ、ほどほどにね?」
二人の様子に毒気を抜かれ、次々と部屋を後にする姉姫達。
けれど、セラフィラだけが、忌々しげに黙ってピアラを睨みつけてから、その場を後にした。
(……セラフィラお姉さま?)
いつもと違うセラフィラの様子に、首を傾げるピアラ。けれど、邪魔者が消えたとばかりに、再びぎゅうぎゅうとピアラを抱きしめてくるカイの対応のため、あまり深く考えることはなかった。
「冷たい……こんなに愛してるのに」
「も、もう〜!人前ではやめてって言ったでしょう!」
「では、二人きりのときならいいのか?」
「し、知らないっ!」
侍従もまた、溜息を吐くとそっと扉を閉めた。帰ってきてからと言うもの、カイはピアラを片時も離そうとはしない。
まるで、ようやく手に入れた宝物のように。
「全く……よかったですね。陛下」
ポツリと呟いた侍従の顔は喜びに満ちていた。




