20 婚約破棄の代償
◇◇◇
翌日の朝。
「歓迎の宴?」
「はい。陛下は今宵、ルミエル王国の姫君たちの歓迎の宴を催すとのことです。ドレスでも宝飾品でも、足りないものがあれば、なんなりとお申し付け下さい」
小宮殿にやってきた侍従の言葉に、姫たちは鷹揚に頷いた。
「ふ〜ん。宴ね。何を着ていこうかしら」
「これだけ待たされたのだもの。精々私たちに相応しく、華やかな宴にして頂きたいわね」
「そうね。でも、宝飾品を下さるというなら、自分で選びたいわ。ねぇ、カイ陛下は今王宮にいらっしゃるのよね。せっかくだから今から会いに行ってみない?」
自身の美を誇る姫たちは、ルミエル王国から持ってきた豪奢な衣装に身を包むと、髪を高く結い上げて紅を差し、数多の宝飾品によっていつもより華やかに飾り立てた。
末の姫を娶った男。けれど、なお美しい自分たちを見て目を奪われるに違いない。その様子を見て、内心ほくそ笑んでやろうと思っていたのだ。
男から浴びる称賛と熱望の視線ほど、心地よいものはない。それが、人のものならなおのこと。
服の裾に付けられた小さな金の飾りが、歩くたびしゃらりしゃらりと音を立てた。その音に引かれて足元に目を向けると、大きく開いたスリットからちらりと見える美しい脚に、思わず目が奪われる。
姉君達がいつも好んで身につけるのは、こうした男達を惑わすためにあるかのようなドレスだった。誰かさんには、決して着ることのできないものだから。
非の打ち所もないほど、どこまでも美しい姫君たち。
日頃の傲慢な態度に辟易し、姉姫たちを良く思わない者たちすら、その外見の美しさは認めざるをえなかった。
「本当に待たされたわ。もう時間も無いっていうのに」
自身に注がれる周囲の視線を無視しながら、セラフィラはイライラと手のひらに扇を何度も打ち付ける。
「あら、私たちは別にゆっくりでいいのだけれど」
「そうねぇ。ここのお料理はとても美味しいし」
「セラフィラお姉さまはずいぶん焦ってらっしゃるのね」
セラフィラは、くすくすと笑う妹姫たちを、忌々しげに睨みつける。
「うるさいわね!」
「あらいやだ。姉さまが怒ってしまわれたわ。怖い怖い」
茶化す妹姫たちを無視して、セラフィラは足を速めた。
アルデバーンとの婚約を勝手に破棄したことが父王の知れるところとなり、烈火のごとく怒った父王から、直ちに帰城するようにと親書が届いた。謹慎の上、姫の身分を剥奪したうえで武功を挙げた臣下に払い下げられるという。
これまで数多いる姉妹の中でも、父の寵愛を最も受けて育ってきたセラフィラにとって、これほど父が怒るのは想定外だった。どんなにわがままを言っても、結局は許してくれると思っていたのだ。
それほど、アルデバーンとの関係性は重要だと言うこと。そして、自分の価値は、その美しさを持って国益に貢献することなのだ。
若く美しいうちに、なるべくいい縁談を結ぶこと。それは、ルミエル王国の姫として、生まれた瞬間から課せられた義務。──けれど。
(女などつまらない。どうせ、年を経て美しさを失えば、価値もなくなるのだから)
どんなに愛してると言われようが、美しさを讃えられようが、しょせん面の皮一枚のこと。
ならば、こちらも見た目で選んで何が悪いというのか。だってそれ以外の価値を、誰も教えてはくれなかった。
(臣下に払い下げられるなんて、真っ平よ……それも、無骨な武人などにっ!)
セラフィラは扇をぎゅっと握りしめた。
思いがけず豊かで美しかったトルティア王国。
(誰よりも美しい私こそ、この国の王妃に相応しいわっ!)




