18 伝説の海
◇◇◇
カイとピアラは一旦砂浜に戻ると、ポツリ、ポツリと、お互いのことを話始めた。
初めて海亀に変化したとき、調子に乗って三日間帰らなかったことや、誘われるように隣国まで流れ着き、ピアラと出会ったときのこと。優しくしてもらって、すぐに恋におちたことなど。
カイが話すその内容は、まるで絵本の物語のようで、ピアラはくすくす笑いながら聞いていた。
亀に変化して海に入ったまま中々城に帰ってこないカイを見かねて、城の者たちが巨大な海亀を抱えて城に連れて帰ったら全く別の海亀だった話などは、海から帰ってきてみたら変な亀が自分の執務室で我が物顔で寛いでいて腹が立ったと言っていて、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
「ほら、ほらね?見分けるのは結構難しいのよ」
「話し掛けたら分かるはずだ」
「だってみんな、話し掛けると黙っておとなしく頷いてくれるもの」
「それはそうかもしれないが……待て。もしかして、俺以外の海亀にも話しかけてたのか?」
「う、うーん。そう言われると、今まで話し掛けていた海亀が、全部陛下だったのかどうか自信がないわね」
「……分かった。これからは大切な話は絶対に、人の姿のときに話し掛けてくれ」
「分かったわ」
くすくす笑いながら頷くピアラ。
早朝の柔らかな日差しが、二人を優しく包む。あともう少し、もう少しだけ、二人きりで過ごしたい。名残惜しさに思わず問い掛けた。
「ねえ、私が人魚って、ほんとう?」
「ああ。間違いない」
「じゃあ、あなたみたいに、私も海の中では人魚の姿になれるのかしら」
「やってみるか?」
ピアラはこくりと頷いた。
「でも私、前回海に入ったときは溺れてしまったわ。どうしたら、変身できるの?」
「言葉にすると難しいが……初めて海亀に変化したときは、海の中でぼんやりしていて、気が付いたら海亀になっていたな。自分が海の一部になったような、溶けたような感覚と言えばいいか」
「……それって、溺れていた訳じゃなくて?」
「苦しくは無かったからな。海の中でどれくらい息を止められるか数えてみようと思って潜ってみて、息を吐き出した後におかしいぞ、と気が付いたら海亀になっていた」
「ふふっ、カイ陛下らしいわね」
「カイと、呼んでくれないか?」
「カイ」
なんかだか照れくさくて、口の中で小さく呟くピアラ。しかし、
「それでいい」
と満足そうに頷くカイに、思わず頬が赤くなる。
「溺れないかしら」
「大丈夫だ。俺がついてる。手を繋いでて、危ないと思ったらすぐに引き揚げるから」
「それなら、安心ね」
無邪気な顔でにっこりと微笑むピアラ。笑顔の不意打ちに、カイの心臓が高鳴る。
「君は……」
「ピアラ。ピアラって呼んで」
「ピアラ」
「ふふ、なんだかあらためて呼び合うと照れるわね」
照れくさそうに肩をすくめるピアラを、カイは思わず抱きしめた。びっくりして目を白黒させるピアラ。
「あーもう!どうしてそんなに可愛いんだ!愛してる!」
カイの腕のなかにすっぽりと埋もれたピアラは、カイの言葉と、激しく高鳴るその鼓動に、初めて愛されていると素直に感じることができた。
「じゃあ、私を、あなたの本当のお嫁さんにしてくれる?」
胸の中でポツリと呟いたその言葉に、カイは答えるかわりにキスをした。
最初は軽く。徐々に激しく。
「君だけを愛してる」
熱を帯びて熱くなる体と口付けに、ピアラは身を委ねた。




