17 亀と人魚
◇◇◇
「えっ……」
のそのそと、決して早くないスピードで、ピアラの側まで歩いてくると、どうだとばかりに顔を見上げてくる巨大な海亀。
ピアラは死ぬほど混乱していた。
「え?ちょっと待って。あなた、私の友達の海亀よね?小さい頃一緒に遊んだ……でも、さっきカイ陛下が海に入って、あなたが現れて……ええっ!?もしかして……」
ピアラは海亀の真っ黒な瞳を覗き込むと、真剣に尋ねた。
「……もしかして、あなた、カイ陛下なの?」
ピアラの問いかけに大きくこくりと頷く海亀。
ピアラは海亀の姿のカイをまじまじと見つめたあと、頭を抱えた。
「陛下が海亀?いえ、海亀が陛下なの?その場合、どっちが本物の陛下なのかしら?そもそも、海亀と結婚したら子どもも海亀になるってこと?いえ、そもそも海亀との間に子どもはできるの???」
色んな疑問を思い浮かべては自問自答を繰り返すピアラ。カイはその様子をのんびり眺めていた。しかし、
「待って!!!私、あなたに色々な相談をしたわよね!?じゃあ、鱗のことも、知って……」
静かにじーっと見つめてくる海亀。ピアラはふいっとカイから目を逸らした。
「知ってたのね。全部……なんだ……」
そのまま、スタスタと海岸に向かって歩き出すピアラ。慌てて、のそのそと、海亀の姿で追いかけるカイ。
「来ないでよ!」
ピアラは振り返ると叫んだ。
「私が悩んでたのが、そんなに面白かった?どうしてもっと早く、教えてくれなかったのよ!私、バカみたい……」
カイもピタリと立ち止まる。
そして、おもむろに人間の姿に変化すると、真面目な顔で答えた。
「あー、例えば脚に鱗があったとして、人間が海亀に変わるより、驚くと思うか?」
「……」
「君は、俺のことを化け物だと思うか?気持ち悪い。側にいたくないと、そう、思う?」
カイの問い掛けに、ピアラは言葉を失った。
海亀に変わる人間。確かに、そんな人は見たことがない。妖かしだと言われれば、そうなのかもしれない。けれど……
「おも、わないわ……」
「どうして?」
「だって、あなたは、私の大切な友達で……」
「それだけ?」
「私たちは、夫婦なのだもの……」
「俺が、醜い亀の化け物でも?」
「醜くなんてないわっ!どうしてそんな事言うのよ!亀は海の生き物で一番可愛いわ!」
「俺も、人魚は海の中で一番美しいと思う」
カイの言葉にピアラは言葉を失う。
「……人魚?」
「そうだ。君は、海の女神の末裔。その印を持って生まれた、人魚だ」
「私が、人魚……嘘、でしょう……」




