16 明け方の海
◇◇◇
明け方近く、ピアラがふと目を覚ますと、ソファーに座ってじっとこっちを見つめているカイと目が合った。
結局カイは、ピアラに触れることもできず、かと言って眠ることもできずに、まんじりと朝が来るのを待っていたのだ。
黙ったまま見つめ合う二人。
最初に口を開いたのはピアラだった。
「どこに行ってたんですか?ずっと、待ってたのに」
プイっと横を向いて頬を膨らませ、拗ねたように言うその仕草が可愛くて、カイは思わず胸を押さえる。
「……」
しかし、カイは一瞬口を開きかけて、しばらく逡巡した後、結局はそのまま黙り込んでしまう。何だか落ち着かない様子のカイを、じっとりとした目で見つめるピアラ。
「私には、言えないことをしてたんですか?」
ムッとした様子が伝わったのか、カイは慌てて口を開いた。
「いや、言えないと言うことでは無いのだが……その、できれば見つけてから報告しようと……」
「見つけるって何を?」
鋭く聞き返してくるピアラに、たじたじのカイ。
「いや、その……」
「……私以外の花嫁を探してたんですか?」
思いもかけないその言葉に、カイは首を傾げる。
「何のことだ?」
「……何でもありません」
ふいっと顔を逸らしたピアラの様子が何だかおかしくて。カイはピアラが流した涙の意味を知りたくなった。
「その、寂しい想いをさせていたのなら、すまなかった」
「っ!?……そういうとこ」
「そういうとこ?」
「もう、良いです。一人でヤキモキして、馬鹿みたい」
ピアラがベットから起き上がると、ベットが僅かにきしんだ音を立てた。夜着のまま、ムッとした顔でカイのベッドに座るピアラ。
割と理性の限界に達していたカイは、天を仰いだ。
「今から、海に行かないか?」
◇◇◇
明け方の海はしんとして、肌に心地よい風が吹いていた。
(誘われたから付いてきたけど、どうして海なのかしら)
海に来るのは、溺れて以来初めてのことだ。もしかしたら苦手になるかも、と思ったけれど、少しも恐怖を感じない。
美しくて。懐かしくて。
雄大な海を見ていると、くよくよと悩んでいたことの、何もかもが些細なことに思えてしまう。
「綺麗ですね」
ピアラがポツリと呟いた。
それきり、二人でぼんやりと海を眺める。
潮騒の音。朝の光に照らされて、踊るようにキラキラと光る波飛沫。
「この海のどこかに、君に、見せたいものがあったんだ。ずっと探してるんだが、見つからなくて」
「それって、海の中ですか?」
「そうだ」
「そんなの、探せっこないわ。だって、そんなに長い間潜れないでしょう?」
「人の身ではな……君にまだ、伝えて無かったことがある」
そう言うと、カイはヒョイッとピアラを抱きかかえた。
「えっ!?ちょっ、急に、何を……」
急にお姫様抱っこをされて、戸惑うピアラ。しかしカイは、ピアラを抱きかかえたまま、ズンズン海へと入ってしまう。このまま一緒に海に入る気なのかと、焦るピアラ。
しかしカイは、太腿がつかる程度の浅瀬でピアラをとんっと下ろし、一人で海の中へと入っていく。
「そこで、見ていてくれ」
よく分からないまま、カイの姿を追い続けるピアラ。カイはそのままトプンと海の中に潜ってしまう。人の息がどれほど続くのか。よく分からないままに、自分も思わず息を止めていたピアラは、僅かな息苦しさを覚え、息を吸うと同時に小さく叫んだ。
「カイ……っ!」
ゆらりと揺れる海面。
そこから現れたのは、巨大な一匹の海亀だった。




