15 誘惑の夜
◇◇◇
その日の夜も、深夜まで海に潜っていたカイは、シャワーを済ませてすぐに寝室に向かった。
伝承に残る場所を片っ端から探しているものの、海はあまりに広く、今だ手掛かりも掴めないまま。
(明日こそは、必ず……)
部屋に入ると、ふと、嗅ぎ慣れない香りが鼻についた。
──甘い、花の香り。
(花でも飾ったのか?)
ピアラには毎日花を贈っているが、普段自分の寝室に花が飾られたことはない。
しんと静まり返った寝室に、微かに感じる違和感。
カイの身体に僅かに緊張が走る。
(──侵入者……)
衛兵を呼ぼうとしたそのとき、くしゅんと小さなくしゃみの音がした。
(……???まさか……)
ツカツカとベッドに歩み寄るカイ。
思い切って上掛けをめくると、そこにいたのは……
「嘘だろ……」
カイのベッドで、すやすやと眠るピアラの姿を、呆然と見つめるカイ。
「勘弁してくれ……」
◇◇◇
「私の夫に手を出さないで!」
と、勢いよく宣言したものの、実際はキスはおろか手を握ったこともない。よく考えれば、白い結婚とは言え、あまりにもスキンシップがなさすぎるのでは?
そうは思っても、いまさら引っ込みもつかない。
元々勝ち気なピアラのこと。
おめおめと、姉姫たちに言われっぱなしでいられる訳もない。
気が付いたら、カイの寝室の扉の前に立っていた。ピアラが与えられた王妃の間は、カイの寝室と扉1枚で繋がっている。
この扉を開けたら、後戻りはできない。
そう言い聞かせて、そっと扉を開けるピアラ。
けれど、そこにカイの姿はなかった。
ホッとしたような、拍子抜けしたような。
ピアラはぽすりと、カイのベッドに腰掛ける。ついでにゴロンと寝転んでみた。
ほのかに香るカイの香り。どこか懐かしいその香りに包まれながら、ピアラの目に涙が浮かぶ。
「どこに行ってるのよ……ばか……」
◇◇◇
すやすやと眠るピアラを前にすっかり固まっていたカイは、今度はそわそわと部屋中を動き始めた。
(どうする?どうしたらいい?)
完全に想定外の出来事だった。確かに寝室は繋がっており、鍵などもついていない。
彼女が入ろうと思えば、いつでも入れる状態だ。
が、しかし!
まさか、彼女の方から寝室に訪ねてくるとは考えてもいなかった。
おまけにベッドの中にいるのだ。(寝ているが)
これは、もしかして、もしかするのでは?
恐る恐る、ピアラに近づくカイ。
手を伸ばし掛け、ぐっと我慢して止める。
(これは、何の拷問なんだ。この俺を、試してるのか……)
しかし、ピアラの目元に、涙の跡を発見して、再びピシリと固まってしまう。
(な、泣いてる……)
「ん、んんん……カイの、ばか……」
寝言でまで!
「……っ」
どうしたらいいのかわからずに、カイはただ、立ち尽くすのだった。




