14 海神の宮殿
◇◇◇
「クソっ、多分この辺りにあるはずなんだが……」
忙しい公務の合間を縫って、カイは海に潜り続けていた。
──いつか私を海の宮殿に連れて行ってね
幼い頃交わした、あの約束を守るために。
海の宮殿は、南海の深部にあり、海神と人魚のみ見つけることができると言われているけれど、伝説の息づくトリティア王国においても、遠い、遠い昔に忘れ去られてしまった場所だ。
海神を始祖に持つと言われるトリティア王国で、数世紀ぶりに誕生した現人神。それが、カイだ。人と神、両方の姿を持つカイは、海の中では巨大な海亀の姿となって自由に泳ぐことができる。
かつて、人と神が交わって国を作り、人々を導いたと言われているが、本当の所は分からない。トリティア王国に置いても、このことを知るものはごく一部の人間だけだ。ただ、カイはトリティア王国で王であると同時に、神として信仰を捧げられる存在であることは確かだ。
──余すことなく、全ての海を統べる者。
海は、カイにとって陸地よりよほど心地良い場所だ。長くいると、人であることを忘れてしまうほどに。
けれど今、カイの胸を占めるのは小さな姫への想いだけ。
気ままに海を散歩中、まるで何かに導かれるように立ち寄った浜辺で。思いもよらず出会った、魂の伴侶。
一目見て分かった。同じ存在だと。
海の女神。人魚の末裔。彼女もまた、神の現し身。
どうして同じ時代に、二人の神が現れたのか。それはまるで運命のように感じられた。
知れば知るほど、触れれば触れるほど。
愛しさが止まらなくなる。
運命なのか、必然なのか。
それとも、ただの思い込みに過ぎないのか。
それすらどうでもいいほどに、愛しくて堪らない。
彼女の願いを叶えたい。
そして、この想いを伝えたい。
ただ一言、愛していると。
熱い想いを胸に、カイは海中をさすらい続けた。
ときには昼夜を忘れて。
「待っててくれ。絶対に君を、連れて行くから。俺の女神」
ピアラが、不安に駆られていることも知らずに。




