絶対絶命を救う光
エミリーはそのまま家の中へと無言で入って行った。
そして俺は兵士達に取り囲まれた。
それから程なく俺が気絶させた兵士がバツが悪そうに合流して来た。
この兵士は俺に気絶させられたという醜態を隠したいらしく、小競り合いで剣が右足に触れる事故は有ったが戦闘と呼ぶべき事案は無かったと事実を認めなかったので俺は兵士を襲った罪には問われず、その日は家に帰される事になった。
ちなみに兵士が俺の足を刺した事は隊長を含めてどの兵士も問題にしなかった。
しかし罪に問われ様が無かろうが、本音言えばもう全てがどうでもよかった。
◯▲△
「クリス!」
ボロボロになってようやく帰った俺を婆ちゃんだけは変わらぬ優しさで迎えてくれた。その優しさに泣きそうになるがそこは奥歯を噛み締めて我慢だ。
「婆ちゃん、エミリーは…」
「クリス、何も言わなくて良いんだよ」
「婆ちゃん、俺…」
その後の言葉が続かない。
婆ちゃんはポンと俺の頭にしわだらけの手を軽く乗せた。温かさを感じる手だ。
「クリス、私はお前を神様からの賜物だと思っているよ。私とお爺さんの所に来てくれて、ありがとうね」
何だよそれ、全てお見通しかよ。俺の方こそ感謝しか無いのに。
◯▲△
「ごめん、婆ちゃん。折角のご馳走が」
婆ちゃんに事情を説明したが婆ちゃんは黙って聞いているだけだった。婆ちゃんが腕によりをかけたお祝い用のご馳走をテーブル狭しと並べてくれていたけどそれも虚しいだけになってしまって申し訳無い気分になる。
「何を言っているんだい。気にしなくていいんだよ。それよりも早く怪我の手当てをしなくちゃね」
婆ちゃんはお湯を沸かす為、井戸に水を汲みに出て行った。
1人になってしみじみ思う。家族のありがたさを。
バシャッ!
その時、静寂を引き裂く桶をひっくり返した様な大きな水の音がした。婆ちゃんに何か?
俺は婆ちゃんが心配になって痛む足を引き攣って井戸に向かうとそこには数人の人集りがある。婆ちゃんが男達に囲まれていた。
「おい、婆ちゃんに何をしている!」
「よお、また会えて嬉しいぜ」
さっきの兵士達だった。もう悪い予感しかしない。
「用事が有るのは俺だろう。婆ちゃんは関係無い!」
「いや、さっきみたいな事故がまた有るかも知れんしな」
やはり報復か。
「このババアに手を出して欲しく無ければ大人しくしろ!」
兵士は3人か。その内の1人が婆ちゃんの喉元に短剣を突き付けて今にも刺しそうだ。目がヤバい。
「分かった。煮るなり焼くなりしてくれ。だから頼む、婆ちゃんは解放してくれ!」
「そう焦るな。まずは目上に対して敬語も使えんその生意気な口から躾けてやる!」
言い終わると同時に俺の口は真正面から兵士の拳を入れられる。
「!」
口内が裂けたのが分かるがアドレナリンのせいかそこまで痛い訳じゃない。
それが気に食わないのか兵士は拳で数発殴った後は痛む右足に蹴りを入れる。すると余りの激痛に意識が飛びそうになる。
もはや右足からはどれだけの血が出て行ったのか想像も出来ない。
「まだ倒れんじゃないぞ!」
何とか倒れず前屈みになった俺の背中や後頭部に今度は肘鉄が下される!
「オラ、こんなんで済むと思うなよ!」
「!」
もう1人加わり、そいつに昼間に剣で刺された太腿を後ろから集中的に蹴られると余りの激痛に悲鳴も出せない。
もはや立っている事は不可能だった。
「寝てんじゃねぇぞ、このヤロー!」
「…………!」
何も出来ないし言えない。コイツらの気が済んで居なくなるのを待つしかない。全身を2人掛かりで蹴られながらも必死に耐えてそう思っていた時だった。
「おい、俺も入れてくれよ!」
婆ちゃんに短剣を突き付けている兵士だ。
「お前もやればいいだろ」
「でもこのババアが邪魔で」
「チッ、手間を掛けさせるな」
「なっ、何を?」
ようやく声が出たが悪い予感しかしない。頼む、俺のこの予感、外れてくれ!
「どうせ老い先短いババアだ」
俺を蹴飛ばしていた兵士が剣を抜いて婆ちゃんに近付いて行った。
「やっ、やめてくれ! 約束した筈だ!」
「その約束を守るって約束を交わした覚えはねぇな」
狂った様な視線の兵士が放ったその言葉は絶望するには充分だった。
「やっ、やめて下さい。お願いします……。どうか」
何とか婆ちゃんだけでも助けないと。その思いで絞り出した言葉だった。
「残念だが抜いた剣は血を吸わなきゃ収まらねぇんだよ」
「だったら俺で!」
「それも良いな! だが後でな。ハハハッ!」
その瞬間、今度は横腹に激痛が走った。横たわっている俺の横腹を上から剣で斬られた。腕や背中、その他の良く分からない所も切り刻まれている。
「悪いが、ババアが何か色々と言ってうるせぇから、殺っちまった」
「なっ、婆ちゃん!」
ハッとして見ると婆ちゃんは兵士の足元に崩れ落ちている。こんな虫の息の俺には聞こえなかったが、きっと俺の事で色々と抗議をしたのだろう。
俺の為に、婆ちゃん。
「安心しろ、すぐにお前も殺ってやるから!」
「おい、何とか言えよ。命乞いでもしてみろよ!」
コイツら、俺がもう声も涙も出ない事を知っているくせに。俺からまだ出るのは血だけだ。
もう全てを諦めた時だった。
「神聖なる光の矢!」
この場に相応しくない美しい女性の声だ。
「ぐうぁぁ!」
それとは反対に兵士達は全員が蛙の様なうめき声を上げ、もがき苦しんでいる。
苦しむ兵士達には光る矢が刺さっている。この矢は何なんだ?
「もう大丈夫ですよ」
その声の主である、ウェーブの掛かった長いシルバーブロンドの髪の女性がゆっくりと近付いて来た。




