聖女アリー
「あっ、あの、あなたは?」
光の矢が刺さっている兵士達は悶え苦しむ。こんな事が出来る人って一体何者なんだ?
「私はアリーと申します。怪しい者では決してありません。詳しくは後程ご説明致しますので、どうか、どうか食べ物をお分け下さい」
「えっ? 食べ物?」
怪しくないって言い張っているがこの人、怪しさの塊だ。
助けてくれて本当にありがたいのだが、こんな美人が食べ物をくれって必死な形相だし。兵士達に光る矢が刺さっているのに平然としているし、怪し過ぎる。
「実は、山中を彷徨い3日ほど何も食べておりません。僅かに漂った香りを頼りにここまで参りました。お願いします、どうか食べ物を!」
香りって婆ちゃんの作ったご馳走の匂いか。俺の家は狩りに出る都合で村外れですぐ裏は山だから風向きによっては山まで匂いが届く事も有る。
それを頼りに来たってこの人、動物並みの嗅覚?
「そりゃ構わないが、見ての通りだ。動けやしない」
「それでしたら!」
アリーと名乗る女性は俺に近く付くと掌をかざした。そこから発せられる光が眩しい!
たけどこの光、何だか妙に温かく傷口に優しく染み入る様だ。
「えっ?」
何が起こった?
理解が出来ない。傷が塞がった? いや、最初から無かったかの様になっている!
「どうなっているんだ? 傷も痛みも綺麗サッパリ無くなってる!」
「はい、私はこういう事が出来る人間ですので」
彼女は得意げに微笑んでいる。だがそれも無理は無い。傷が無くなっただけじゃない! 身体が軽い!
正に神のなせる業と言っても過言ではない。
だが今の再優先事項は婆ちゃんだ。
「婆ちゃん!」
走れる様になった俺は慌てて婆ちゃんの所へと駆け付けた。悪いけどこの人の事は後だ!
「婆ちゃん!」
ダメだ。遅かった、既にぐったりしている。婆ちゃんはもう…。
「ではそちらも」
追いついて来た彼女は俺の時よりも更に眩しい光を出した!
「うっ、一体何が起こったんだい?」
「婆ちゃん!」
これは奇跡なのか? 婆ちゃんが生き返った!
「クリス!」
「婆ちゃん!」
こんなに嬉しい事は無い。唯一の家族である婆ちゃんが死なずに済んだなんて。
「あの、お取り込みの所を申し訳ありません。どうか、何か食べ物を恵んでは頂けないでしょうか?」
これを言い終わると彼女はふらついて倒れてしまった。
◯▲△
「アリーさん、遠慮しないでどんどん食べてくれ!」
「はい。ありがとうございます!」
アリーと名乗った彼女は本当に遠慮無くテーブルに並べられた婆ちゃんの特製料理を気持ち良いくらいの食べっぷりで片付けていく。
「誰も取りはしないからゆっくり、よく噛んでお食べなさい」
「はい。でも美味しくて」
気持ちは分かるけど、取り敢えず落ち着いて欲しい。口の中は空にしてから喋ろうな。
「ふぅ!」
2人前をぺろっと平らげてようやく落ち着いた様だ。
「なぁ、アリーさんは何であんな所に居たんだ?」
「クリス、命の恩人にあまり聞くんじゃないよ」
「いえ、いいんです。私は確かにお2人を助けましたけど、私もこうしてお2人に助けられたのですから」
謙虚な人だ。育ちが良いんだろうな。
「先程の私の能力、あれは聖女の能力なのです」
「聖女だって?」
エミリーがなった、あの聖女?
「私はその聖女の能力を持っていた事でトラブルに巻き込まれて結果的に偽聖女として国外追放になってしまいました」
アリーさんが淡々と語り出した。
「そして山中を彷徨っていました。着の身着のままで追放されましたので何も無くて」
そう言えば聞いた事が有る。隣国に現れた聖女が実は偽者だったって噂を。そしてこの山の向こうがその隣国だ。
「山中で野垂れ死ぬしかなかった所にこのご馳走の匂い、天からの一筋の光明の様でした」
久し振りの温かい食事を口にしたからか、アリーさんの目は涙ぐんでいる。
「国外追放で山の中を彷徨っていたって事は行く所はないんだろ?」
婆ちゃんが身を乗り出した。
「ええ。頼れる知り合いもいませんし」
「なら暫くはここでゆっくりしていくと良いよ」
「ちょっと待ってよ、若い女性が一緒なんて」
村で変な噂が立つと色々と困るな。彼女だって嫌だろう。
「はい! お世話になります!」
いいのかよ!




