最も残酷な言葉
エミリーの所へ急がなければ!
俺は痛む足を引き摺りながらエミリーの家へと急いだ。
痛みを紛らわせる為に色んな事が頭を巡らせる。エミリーを聖女にさせない方法とか、これまでの思い出とか。そうするとエミリーをやはり失いたくない思いがより一層強くなる。
すると呼吸は荒くなるが痛みはさほど感じなくなっていた。
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「やっと…着いた」
血と汗にまみれた俺がエミリーの家に着いた頃にはすっかり日も暮れ、夜の帳が下りていた。
片足を引き摺っていたせいか歩いていただけなのに肺が痛む程に呼吸が激しくなっていたがそんな事はどうでもいい。
「エミリー!」
エミリーの家のドアを叩こうとしたその時、
「何故お前が来た?」
丘の上からエミリーを追い掛けて行った兵士がそこに居た。
「何故お前は生きている? あいつはどうした?」
「…あの…兵士は自分に勝てば…エミリーを好きにして良いみたいな事を言っていた。…だから勝って来たぞ!」
呼吸が整わずにまともに話せない。
「何だと!」
俺が来た事がそんなに意外だったとはな。最初から聖女になる者の恋人は逆らえば殺すつもりだったんだと悟った。奴らの悪意を感じたからか、口調も自然と挑発的になる。
「騒がしいぞ!」
エミリーの家の中から中年の男が出て来た。兵士達とは少しだけ違う格好をしている。隊長の様だ。
「申し訳ありません。隊長。コイツが」
「言い訳はするな。聖女様はご両親と別れを惜しまれているのだ。静かにしろ」
まだドアは閉まり切っていない。チャンスだと思った俺は出せるだけの声でエミリーを呼ぶ。
「エミリー!」
「お前は黙れ!」
だが直ぐに兵士に取り押さえられた。すると今の俺の足ではもう立ってなんかいられなかった。
「クリス!」
エミリーの声だ。
地面に無様に取り押さえられた俺は首を押さえつけられてエミリーを見られなかった。しかしその声が涙声なのが分かる。
「エミリー、聖女になんかなるな! 利用されるだけだぞ!」
「クリス」
「エミリー、ここで、この先も一緒に…」
「嫌よ!」
急にエミリーの声が冷たくて低くなった事に一気に凍り付く感じがした。
こんなエミリーの声は聞いた事が無い。
本当にエミリーなのかと疑いたくなる程に俺の愛したエミリーとは雰囲気が変わってしまっている。
「この村で一生を終えるなんて冗談じゃないわ!」
まるで別人の様だ。本当にエミリーなのか?
「この村は私には狭すぎのよ。今まで私の周りに居た同世代の男ではまだマシだからクリスに結婚とか言っていたけど、もう忘れてね」
「そんな、嘘だろ…」
「そもそも、聖女である私に釣り合うとでも思っているの? 何処の馬の骨とも分からないくせに。どうせ噂通りに隣国から脱走した奴隷なんでしょ!」
「エミリー? それを言うのか?」
どう見ても異民族である俺が村で虐められる時は必ず投げ付けられる言葉だ。根拠のない噂に基づいた暴言。
俺自身にはどうする事も出来ない事。
でもエミリーだけは一度も言わなかったのに。
「いい夢を見せてあげたじゃない。私と結婚出来るかもって思えて。感謝してよ。でもそれも終わりね」
「エミリー、お前もそう思っていたのか?」
衝撃のあまり言葉が中々出なかったが、何とか喉から絞り出した声は自然と震えていた。
「心の中では俺の事を蔑んでいたのか?」
「当然でしょ」
一番聞きたくない言葉を一番言われたくない最愛の想い人に残酷な程にアッサリと言われてしまった。




