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聖女認定

 翌日、村に緊張が走った。

 こんな世界の果ての様な山村にわざわざ王都から高位の神官が来て10代の村娘たちを教会に集合させていたそうだ。当然その中にはエミリーも含まれていた。

 爺ちゃんが亡くなってからの俺は婆ちゃんと2人暮らしだったから家に知らせは来なかったけど、村は騒然としていた。



◯▲△


 

「婆ちゃん、行ってくるよ」


 この後、エミリーのお気に入りの場所であるあの丘の上、それも夕焼けの中でエミリーにプロポーズをする。

 俺の気持ちをエミリーに見抜かれた時にエミリーの18歳の誕生日にプロポーズする約束をしていた。

 それが今日だ。考えただけでも緊張する。胃は痛くなるし口から心臓が出て来そうだ。


「エミリーがクリスのお嫁さんに来てくれたら私はもう思い残す事無くお爺さんの所に逝けるよ」


「婆ちゃん、縁起でも無い事言うなよ」


 婆ちゃんの冗談で少しは和めた。

 エミリーは当然ながら婆ちゃんともそれなりの付き合いがあり、エミリーとその家族のお陰で村に馴染めた事もあって婆ちゃんもエミリーを気に入っている。

 そしてもはや村中の人間にとって俺とエミリーの結婚は既定路線となっていた。


「とにかく頑張っておいで」


 婆ちゃんはいつも通り優しく俺を送り出してくれた。爺ちゃんと婆ちゃんには感謝してもしきれない。

 山の中で立ち尽くしていた俺を農業の傍ら猟師をしていた爺ちゃんに拾われ、そして俺はそのまま爺ちゃんの跡継ぎになった。爺ちゃんは2年前に亡くなったけど、婆ちゃんはまだまだ元気だ。


 この先、婆ちゃんとエミリーと俺の3人で幸せな家庭を築いていけると思っていた。この時までは。



◯▲△



 すっかり空は茜色だ。もうすぐ夕焼けが終わってしまう時間だ。だがエミリーが来ない。正直焦る。

 まさか心変わり?

 いや、エミリーに限ってそんな事は無い。


「クリス!」


「エミリー!」


 ようやく姿を見せたエミリー。この山道を走って来たのか息を切らせている。

 そしてその顔はいつものきらめく様な笑顔ではなく、オドオドして神妙な面持ちで周囲を伺っている。明らかに様子が変だ。


「どうかしたのか?」


「クリス、今すぐ私と一緒に逃げて!」


 泣き出したエミリーが俺の胸に飛び込んだかと思えば、急に突拍子も無い事を言い出した。


「えっ、何を言っているんだ?」


「私をお嫁さんにするんでしょ! だったらすぐにこの村から2人で逃げないと!」


 エミリーの言う事の意味が理解出来ないでいた。この村で畑を耕し、時には猟に出てエミリーと細やかながらも幸せな生活を送る事しか考えて無かった。

 それが駆け落ちしろと?


「親父さんか? それとも他の家族の誰かに俺の事を反対されたのか?」


「違うの」


 エミリーはブンブンと顔を横に振る。


「私がっ、私が…」


 エミリーが目に涙を浮かべて何かを言い掛けた時だった。


「聖女様! こちらでしたか。急に走り出さないで下さい。探しましたよ」


 威圧的な声を上げて神官と数人の兵士が駆け寄って来た。


「ちょっと待って下さい!」


 エミリーは向き直って近付こうとする兵士達を制した。


「クリス、あのね、私…」


 涙声になったエミリーは必死に言葉を絞り出そうとしていた。


「あのね、私が、私が聖女に認定されたの」


「えっ?」


「すぐに王都に行って聖女として勇者様の世界を救う旅に同行しないといけないの…」


 俺はエミリーが何を言っているのかすぐには理解出来なかった。


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