聞きたがりな使用人見習い
「えっ、本当は魔物は皆さんが倒してるんですか?」
「そうよ! 魔物は全部私たちが倒してるのよ!」
酒が入ってご機嫌な姐さんが答える。
領主の館を出た俺達はそのまま町に繰り出していた。正確には酒場だな。
領主の館が魔王軍に攻められたが意外にも魔族は人間の経済活動を認めていて、町の雰囲気も普段とそう変わらない。
酒場も賑わっている。ここに何故か領主の館に居た見習い使用人まで連れているのはニーナの提案だ。
名前はトーマスと言ったな。俺達の話をやけに食い入る様に聞いている。
「皆さん本当に強いんですね」
「まあな。表沙汰には出来ねぇけどな!」
やはりご機嫌になったケインが大ジョッキ片手に使用人見習いの肩をバンバンと叩きながら言う。
誰にも知られる訳にはいかないのに声が大きい。酒場の喧騒に紛れて周りの客が聞いていない事を願うしかないな。
「どうか内緒で頼むよ」
ここで俺もようやく会話に加わる。
「皆さんはそんなに強いのに何故、勇者様御一行の露払いなんてしているのですか?」
「そんなの決まってるだろ?」
酔っ払いモードのケインが再び絡む。
「本当の強敵と会った時の勇者の間抜け面を楽しむ為よ!」
本当の事を言うなよ!
「皆さんそんなに勇者様がお嫌いなんですか?」
ハッキリ聞くなよ。
「そうね。私たちは皆、何かしらの因縁を勇者パーティに持っているからね」
「どんな因縁なんですか?」
「簡単に言うと、私は過去にあの自称勇者が余計な事を言ったから禁固10年の後に国外追放になって死にかけたし、ケインは勇者一行の残念な剣聖に腕を切られたし」
「えっ、腕を? でもちゃんと」
「それは、私のおかげ」
すっかり上機嫌の姐さんがふふーんと答える。それにしても話し過ぎじゃないのか?
「それに、リーダーなんて勇者一行の聖女に婚約直前だったのに振られたのよ!」
「それを言うなよ!」
思わず大声が出た。一気に酒場の注目を集めてしまった。
「それ、詳しく聞かせて下さいよ」
面白がって聞いて来るな。でも、まあ過去の事だからいいけどさ。
「話しても良いけど、面白い話じゃないぞ」
「是非、お願いします」
俺は村でのあの日の事を思い出していた。
◯▲△
「クリス、早く!」
「そんなに慌てるなって、エミリー!」
待ち切れないと言わんばかりに走り出すミリーを俺は苦笑いしながら追い掛けた。村を見下ろすこの丘はエミリーのお気に入りの場所で、それこそ何かにつけ何度も行っている。
エミリーとは村で俺に唯一人優しくしてくれた同世代の女性だ。
実は当時の俺には村に来る前の記憶が無かった。それよりも前の事は全く思い出せないでいた。
山の中を彷徨っていた所を猟師をしていた爺ちゃんに拾われてからの記憶しか無い。
クリスという名前だけは言えたらしい。
民族が違う様で髪の色や顔立ちも違う。小さな山村では最初は気持ち悪がられた。
しかしエミリーは周囲の目などお構い無しにそんな俺の側にいてくれた。最初は同世代の親切な女の子という認識だった。だが10代ではその思いはやがて恋心へと変わった。
俺はエミリーに恋をしている。それを自覚した時は身悶えしてエミリーにどう接すれば良いのか分からなかった。
だがエミリーは俺の気持ちなんてお見通しだった。
エミリーが俺の何を気に入ってくれたのかは知らない。それでも俺とエミリーはやがて恋仲になった。
「ねぇクリス、前にした約束覚えてる?」
「ここでした約束?」
「そう。クリスが私を好きなのを私が見抜いた時に言ったよね? 回答期限は明日なんだけど」
「わっ、分かってるよ」
明日はエミリーの18歳の誕生日。別に法律で決まっている訳じゃないけど風習っていうか男女問わず10代後半から20歳頃までに結婚するのが一般的だ。
「明日だ、明日の夕方ここで言う。いいか、覚悟しとけよ!」
「何よ覚悟って。クリスの方こそちゃんと覚悟を決めなさい!」
エミリーははち切れんばかりの笑顔で応えた。俺はその笑顔を照れ臭くてまともに見られなかった。
それが俺が見たエミリーの最後の笑顔になるとも知らずに。




