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トーマスとは

「あれ、肝心のトーマスが居ねぇな。折角リーダーが俺達、虹色の悪夢の結成秘話を語っていたのによ」


「いつの間に消えたんだ? 黙って消えたって、トイレでも行ってるんじゃないのか?」


「まったく呑気で良いわね」


 俺とケインを呆れた様に一瞥して、姐さんがボソッと呟く。

 それに反応した時には半分に減ったグラスを覗き込んで黙り込む。この人はこんな仕草に一々色気が漂う。


「なんだよそれ?」


「まぁ、知らない内に事が終わってるって幸せよね」


 そう言ってクイッと残りが少なかったグラスを空にした。



◯▲△ 

トーマス視点


 これでハッキリ分かった。ニーナ=ブライトンの現状が。


「お帰りですか?」


「うっ、ニーナさん…」


 そんなバカな! 


「悟られない様に退出した筈なのに、って顔に出ていますよ」


 不敵な笑みって奴か。やめろ、そんな顔で俺を見るな。


「リーダーとケインさんは兎も角、私と姐さんは誤魔化せませんよ」


「なっ、何の事ですか?」


「あなたが魔族だと言う事です。何を探りに来ましたか?」


 この俺が動揺している?

 さっきからこの小娘から尋常ではない圧力を感じる。魔王様の耳目である魔王軍諜報員であるこの俺が。

 これが200年前の真なる大賢者、魔王様がその実力を認めた数少ない人間、ニーナ=ブライトン!


「嫌だなぁ、僕が魔族だなんて。そんな冗談、ニーナさんも酔いましたか?」


「生憎ですがジンジャーエールでは酔えません」


 そうだった。まだ子供だと思われて酒を出してもらえなかったんだ。コイツは。


「夜も更けました。今日はもう帰りませんか?」


「そうですね。あなたもお帰りなさい。そこで精々伝えると良いでしょう」


「伝えるって、誰に何を?」


 背中をタラリと汗の雫が伝え落ちる。俺はこの小娘に怯えている?


「私達の事ですよ。魔王に」


 この真なる大賢者は全て分かっていたのか?

 分かってて昔話なんかしていたのか?


「伝える情報は正確でなければ意味が有りません。そして出来るだけ簡潔に」


 今の俺はどんな顔をしている?

 諜報員とは思えない程、動揺を隠せていないのだろう。その自覚は有るが、さっきから小刻みに俺の身体を揺らすこの震えが止まらない。


「この私は200年前よりも更に技に磨きが掛かった自覚が有りますし、200年前の聖女であるキャロルさんは3つの能力を持つ300年に1人の聖女でした。それに対して姐さんは千年に1人の完璧聖女、更にケインさんは初代剣聖のエセルさんに勝るとも劣らない才能を持っています。これで分かるかと思いますが『虹色の悪夢』は200年前の勇者パーティを凌駕しています!」


「……」


「何も言葉が出ませんか?」


「あの、リーダーのクリスさんについては?」


「えっ?」


 メンバーが凄い事は分かった。しかしリーダーが出ていない事を指摘すると大賢者と言えども一瞬だけ考えたのか隙が出来た。

 この機会を逃す程の間抜けではないつもりだ。


「如何にも俺は魔族だ。情報をありがとよ!」


 本性を現す時だ。俺の背には黒い翼が露わになった。


「やっと本性を現しましたか」


「おっと、大賢者と遣り合うなんて冗談じゃねぇ! アバヨ!」


 俺が捨て台詞を吐いて空に舞い上がった時だった。


「忠告します。折角の情報ですが誰にも言わない方が良いですよ!」


 大賢者ともあろう者が負け惜しみか。流石にもう俺の事は追撃出来ない様だ。



◯▲△



 着いた。早く魔王様へご報告しなくては。真なる大賢者ニーナとその仲間の事を。


「おお、戻ったか」


「魔王様へご報告が」


 魔王様の居城に戻った俺は速やかに御前に通された。しかし魔王様は御簾に隠されその御尊顔を拝む事は叶わない。


「苦しうない。申してみよ」


「はっ、近頃勇者パーティにより多くの同胞が落命している件ですが、実は⋯っ!」


「どうした?」


「……」

 

 声が出ない。息が出来ない。それでいて心臓の鼓動があり得ない位に激しい!

 全身から脂汗が噴き出す!

 段々と気が遠くなっていく。

 そして意識を手放した瞬間、全身の力が抜けて楽になれた気がした。

 

「おい!」


 うるさいな。もう楽になりたいんだ。


「お前、大賢者ニーナに暗示の魔法を掛けられたな!」


 そうか、誰にも言うなと忠告したのはこの事だったのか。誰かに言おうとする行為が魔法の発動する条件(トリガー)に設定したのか。

 全身に力が入らないのに魔力だけが高まっている。これはもうどうにも止まらない!


「流石は大賢者ニーナ。人の身でありながら余に苦汁を舐めさせた大賢者ニーナの魔法だ。この者は自らの高められた魔力により爆発する。勇者パーティに居るであろう大賢者ニーナを油断させておきたかったのに。下手を打ちおって」


 魔王様の苦々しいお言葉を聞いたのが最後だった。

 違います魔王様、勇者パーティではなく露払いに…

 小娘のくせに大賢者とは残酷な事をするな。

 


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