剣聖って⋯
「クリス君、大丈夫?」
「姉さん、急いで下さい! じゃないと私がクリスさんを殺した事になっちゃいます!」
「分かってるわよ!」
姉さんがようやく俺の左手の再生に取り掛かってくれた。
薄れ行く意識の中で左手がゴニョゴニョしているのが我ながら気持ち悪い。
◯▲△
「今日は大変だったわ。クリス君の腕は左右両方再生させるし、それで切られた腕をケイン君に付け替えるとか初めての事までさせられて」
本当に祝福が無くて治癒だけなら拒否反応とか、血液型が違った場合の凝固作用でケインは戦えなかったかも知れない。流石は完璧聖女だ。
ニーナにしてもあの鮮やかなウインドカッターの切れ味が無ければ俺の腕はケインに付かなかったかも知れない。
そして腕の供給元が俺だと考えれば、皆で掴んだ勝利と言える。もっとも俺は腕を切られただけなんだけど、それは考えない事にしよう!
「どうだ、見たか?」
まだ興奮冷めやらぬケインが荒い呼吸をしながら寄って来た。
「見たわよ。もっと早く決めなさいよ」
「お陰でクリスさんが死ぬ所でした」
いや、2人がケインと剣聖の戦いを固唾を呑んで見守っていたからだろ。
兎に角、勝って何よりだ。
「でもまだ終わりではありません。剣聖は貴族ですので正式な決闘でもない限り怪我でもさせたら罪に問われます」
「そうなのか?」
ニーナの言葉をケインが意外そうに聞くが俺もそれは知らなかった。
「200年の間、爵位が変わらなければ剣聖は侯爵の筈です。私にも魔王を倒せば侯爵だと説明が有りました」
「200年前?」
事情を知らないケインは首を傾げている。話がややこしくなるからニーナには黙っていて欲しい。
「姉さんにはもう少し頑張ってもらって剣聖の傷を治してもらわないと」
不本意ではあるが仕方ない。お尋ね者になもる訳にもいかない。
「もう、仕方ないわね! でも誰も見てないから取り締まれないんじゃないの?」
確かにそうだ。この世界には防犯カメラとかも無いのだから。
だったら良い事を思い付いた。
「ケイン、手伝え。剣聖の身包み剥ぐぞ」
「なに?」
「こんな鎧を着た奴にまた来られては厄介だ。国宝級らしいが知った事じゃない」
「それにこの鎧のままでは私が暗示で記憶の改ざんをしようにも出来ません。1番波風立てない方向なら剣聖は大人しくしててもらいましょう」
ニーナも鎧を剥ぎ取る事に賛成の様だ。
「それじゃ鎧を取るぞ!」
ケインが鎧を剥ぎ取っていく。
「何か追い剥ぎみたいだな」
深夜で誰も居ないとは言え、王都の往来で鎧まで着用して、腕の無いかつての弟弟子に斬り掛かかり、返り討ちに遭って身包み剥がされる。これを剣聖と言えるのか?




