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勝負は一瞬

「姉さん、俺の腕の再生よりもケインに俺の腕を付けてくれ!」


「えっ、クリス君も出血が酷いけど」


「これから剣聖相手に戦うケインの出血を少しでも抑えたいんだ。俺の腕の再生はケインが戦っている間に頼むよ」


「そんな、俺のために…」


 クリスは俺を見つめてそれだけを口にしたが後が続かない。

 一呼吸ほどの沈黙の後、照れ隠しの様にぶっきら棒に言った言葉がこれだった。


「けっ、そんな暇なく一瞬で終わらせるぜ!」


「よく言った! 姉さん頼むよ」


「はいはい。それじゃあんたが剣聖に勝つのと、私がクリス君の腕を再生させるの、どっちが早いか競争よ!」


 そう言ってケインの患部に向けた両手の平を姉さんは光らせた。

 そして左手もグーパーと動かし始めた。


「もう大丈夫ね」


「おう。さっきの競争の件だが俺が勝ったら聞いて欲しい事が有るんだ」


「いいわよ。負けないから。それよりも肝心の剣はどうするのよ?」


「この短剣で十分だ!」


 それはリリーの胸に刺された短剣だ。短剣で立ち向かうのか。


「地獄を見た男の底力、奴に見せ付けてやる!」


 ケインは力強く言って飛び出して行った。



◯▲△



 結界の外では剣聖が何度も結界に剣を当てるがその度に跳ね返されていた。


「ケイン、ようやく死ぬ覚悟が出来て来たか。中で何をしていた?」


「……」


 対してケインは無駄口を叩かない。集中している様だ。


「ん?」


 今のケインを見て剣聖がようやく気付いた様だ。


「なっ、なっ、何故お前に手が有る!」


 予想外過ぎたのか取り乱している。


「俺に再び剣士としての道をくれた仲間の為にも、俺は貴様に勝つ!」


「フッ、まぁいい。だが悲しいなケインよ。そんな短剣で何が出来る。心意気だけで強くなれるほど現実は甘くないぞ」


 癪だが剣聖の言う通りだ。だがさっきのケインの動きを見るからに勝機は充分に有ると思うのだが。


「参る」


 先に動き出したのは剣聖だった。リーチの有る長剣はケインを圧倒し、ケインは防戦一方だ。

 姉さんもニーナもケインの戦いを見守っている。

 あのー、俺の腕の再生が疎かになっている事に気が付いているのだろうか。俺が声を掛けるのも変な感じだし。


「そうだ。最初から腕なんか切らずに殺せば良かったんだ。親父が落ち込む姿を見たかったんだがな」


 さっきのは本気じゃなかったのか? 剣聖の動きはどんどんと冴えていってケインは次第に劣勢になっていった。

 そんな状況で剣聖が口を開いた。


「お師匠様がだと」


「親父はお前の才能を買っていたからな。お前の腕が無くなったと聞いた時も落ち込んだ後に「偽聖女として収監されているという隣国の聖女なら治せるかも知れん。彼女こそ本物の聖女だ」なんて言い出して探す様に言い出しやがった。昔会った事が有るらしい」


「お師匠が」


「バカな事を言うよな。偽聖女なのに」


 その偽聖女として国外追放になった完璧聖女が目の前のケインの腕を付けたんだがな。


「それを聞いたらますます負けられなくなったぜ!」


 ケインが短剣を下にプランと下げた。


「今度は苦しまずに逝かせてやる」


「それなら俺も一撃で決める」


 勝負は一瞬! ケインと剣聖がぶつかった!


「………」


 静寂の中2人を見ると、鎧の首の部分の繋目に短剣が刺さっている。

 更によく見れば短剣には剣聖の血が伝わり滴り始めている。

 ケインの勝ちだ!


「やったわね、クリス君! あれ?」


 喜びも束の間、放置されていた出血量が多かったのか俺は気が遠くなっていった。


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