俺の腕
「来たかケイン」
「狙いは俺1人の筈だ! リリーやこの人達は関係無い!」
対峙する2人、しかし剣聖は鎧まで着込んでいるのに対してケインは至って軽装、って言うか普段着。しかも丸腰。もっと言えばハンデキャッパーだ。
普通に考えれば勝てる要素は一つも無い。
「死ね!」
「させるかよ!」
しかしケインは強かった。
これが覚悟を決めた男の強さか。
鎧を着ていないので身軽なケインは剣聖の剣を巧みに躱して懐に潜り込んでは顔面に肘鉄を食らわす。
「うグッ!」
防具で守られていない顔面を攻撃されるなんて思ってもいなかった筈だ。
勝てるかも! そう思ったのも束の間だった。
「小癪な」
あの肘鉄では決定打にはならなかった。
剣聖だって国有数の剣の使い手、ケインの動きを警戒した剣聖は隙を見せる事が無くなりケインは懐に入れなくなってしまった。
それどころか手の内を知り尽くしている2人の戦いではやはり剣の有無が大きい。ケインの身体に何度か剣聖の剣がかすり、徐々に劣勢に立たされる。
「せめて剣でも持っておればあるいは勝てたかも知れんが、悲しいなケイン、その手ではさっきの攻撃が精一杯であろう」
「……」
ケインの手がマトモなら。それが悔やまれる。
「クリス君、今の内にクリス君の手を治すわよ」
そうだ、姉さんの言う通りだ。今の俺に出来る事は姉さんに腕を治してもらう事だけだ。
「スバッと肘から切られたわね。あっちのケイン君は肘の先だったのに。ねぇ、関節って着けるより再生させる方が簡単なんだけど、再生でいい?」
「いいけど何で?」
「再生は生命力をかなり使うから後でどっと疲れるわよ」
「この状況で助かるなら」
「それじゃ、いくわよ!」
姉さんは切られた俺の腕に両手の平を向けるとそこから眩い光を出した。
切られた腕がうずく!
「うぉぉ!」
叫ばずにはいられない!
痛いような、痒いような、それでいて気持ち良いような何とも言えない気持ちだ。
再生される腕は俺の右腕の肘から先がウゴウゴと肉が生えてくる様な感触で、やがて手の形になって落ち着いた。
「クリスさんの元の腕はどうします?」
ニーナが聞いてきた。普通なら気味悪いと思うだろうが、そこは200年前に修羅場を乗り越えて来た大賢者。至って普通に対応している。
「それはもう要らないわ!」
何か人の腕に対して冷たい言い方だな。事実はそうでも少しは考えてよ!
「そんな事よりケインが流石にもうマズい!」
ケインの太腿にも剣聖の剣が入った。こうなると動けないぞ!
「ニーナ、また目眩ましだ!」
「承知しました」
何とかケインを結界の内側へと運ばなければ。
「同じ手を喰らうか、剣聖を舐めるな!」
剣聖は兜の庇で光を遮ると、ケインを連れに行った俺の肩にすかさず突きを入れて来た。
「グワァー!」
今度は左肩だ。しかも突きだから傷も深い。だが戦闘で興奮してアドレナリンが出ているのか、生きる為に痛がるよりも行動しなければならないからなのか、痛みはあまり感じなかった。
それよりも急がなければ!
「俺の為に、大丈夫か?」
「そんな事より早く姉さんの所へ行くぞ!」
幸か不幸か俺が剣聖に刺された所から瞬間的に血が吹き出して剣聖の視界を奪う事になった。
この隙に俺とケインは姉さんの結界の中へと入る事が出来た。これで体勢を整えられる。
「姉さん、ケインと俺の傷を頼む」
「分かってる!」
隣国では騎士団とも行動を共にしていたという姉さんはこういう場に慣れているのだろう。戸惑う事なくテキパキと俺とケインの傷を治してくれた。
「どうやったらこの場を切り抜けられる?」
「俺達で盾になって3人を逃がすしかねぇな」
俺達って、俺も一緒に剣聖に立ち向かうのか。だよね、やっぱり。
でも俺が剣聖相手に戦力になれるとは、どうしても思えないんだけど!
「えっ、腕が元通りになってる! それにこの腕は何なんだ?」
「それは俺の腕だった物だ。全ての事情はここを乗り切ったら話す」
ケインが切られた俺の腕を見て素朴な疑問を口にした。よく気味悪がなかったな。
ケインからしてみればこんな腕でも生えてて欲しかっただろう。
ん?
「そうだ姉さん、この俺の腕、ケインに付けられないか?」
「何を言っているの?」
確かにこの世界では移植なんて考えられないだろう。だが異世界である日本出身者として提案したい!
ケインの腕を再生出来ないのなら、俺のこの腕を移植出来ないかと!




