襲撃
「あれ、また会ったな」
背後から声を掛けられるとそこにはケインとリリーが居た。
「ここしか店を知らなくてな」
「まぁ、ここは安くて美味い。間違いはねぇよ」
ケインは愛想良く笑った。するとリリーが「お邪魔でなければ」なんて言うので同じテーブルで飲む事になった。
「もう剣を握れねえって分かったから、これからどうするか考えててな。いつまでもこのままじゃ⋯、なんてな」
「そうか、実は俺も女を連れ戻しに来たんだがそれは無理だと分かって、これからどうするか考えてたんだ」
これは本当だ。婆ちゃんの所へ手ぶらで帰れないって思いは有る。婆ちゃんを悲しませたくない。
「それを言うなら私もね。勢いでクリス君に付いて来たけど」
「私も行く当ては有りません。知り合いは一人残らず死んでいますし」
事情を知らないケインとリリーはニーナの言葉に意外な表情となるが、説明をする訳にもいかない。
こうして建設的な話が無いまま時だけが過ぎ去って行く。
◯▲△
気が付けば酒場の客は俺達だけになっていた。
「お客さん、もう看板なんで」
店主も店を閉めたいそうだ。今日もケインらは奢りだ。外の空気を吸いたいと言うリリーを先に店から出して、払いを済まして店を出ると酔いが一気に冷める光景が広がっていた。
「リリー!」
仰向けに倒れたリリーの胸に短剣が刺さっていた!
「いけない!」
姉さんが酒が入っているとは思えない身のこなしでリリーに駆け寄ると短剣が刺さった箇所を凝視している。
「抜いた瞬間に血が噴き出るわ! 私が合図をしたら短剣を抜いて!」
「抜いたら血が噴き出るんだろ?」
「だからそう言っているでしょ! 私が治癒するから抜きなさい!」
「俺とニーナは犯人を探す! ケイン、言われた通りにしろ!」
「ああ、クソッ! 抜くぞ!」
「いつでもいいわよ、早くなさい!」
ケインが僅かに残った左手の指3本で剣の柄を掴むとリリーの胸に向けられた姉さんの手が光出した。
「えやっ!」
そして剣が引き抜かれると姉さんの光は更に強くなり、そして収まった。
姉さんの本気の治癒で血は殆んど出なかったようだ。
「彼女は助かったわ。治癒には患者本人の生命力も必要だから気は失っているけど」
姉さんが少し安心したかの様に言うが、問題はその後だ。
「アンタ何者なんだ?」
そりゃそう思うよな。
「説明は後よ。それよりも犯人を探すわよ。アンタは彼女を守って」
「探す必要は有りません。索敵魔法を使います!」
流石は真の大賢者!
ニーナは何かに集中している様だった。しかし次にニーナの口から出た言葉は意外な内容だった。
「おかしいです。私の索敵魔法で敵を見付けられません!」
「そんな事が有るのか?」
「200年前の魔王との戦いでも魔王軍幹部クラスになると魔法の効かない相手は居ました。そんな相手には剣聖のエセルさんと勇者のニコラスさんに当たってもらって私はバックアップでした。でも王都に魔王軍幹部なんて居ない筈ですが」
「兎に角気を付けろ。魔法が効かない相手ならニーナは無理するな。姉さんの側に居て自分の身を守れ!」
「分かりました。クリスさんもお気を付けて」
魔法が効かない相手だとニーナは分が悪い。只の少女でしかなくなってしまう。それなら俺が1人で探した方がいいだろう。
俺は愛用のナイフを取り出し臨戦態勢を整えた。するとすぐに如何にも怪しい影を見つけた。
「止まれ! お前だな!」
月明かりに照らされたその影は全身を鎧で覆っていた。見るからに怪しい。
「どういうつもりだ、女相手に短剣を刺すなんて。返答次第では…ッ!」
言い終わらない内に斬り掛かって来やがった。
俺は1歩下がって躱した後にカウンターでナイフで斬り掛かかろうとした。
「!」
だが奴に向かって行く1歩目で何かを蹴飛ばした。本来ならばそんな物に気を取られている場合では無い筈だが、何故か今はそれが無性に気になって仕方がない。
俺はそれが何か蹴飛ばした物をよく見るとそれは人間の手だ。
そしてその手には俺の愛用のナイフが握られていた。




