ニーナの思い
「そうか、俺の手は聖女でも治らないんだな」
「そんなに落ち込まないの! あなたにはそれでも務まる用心棒の仕事があるでしょ!」
姉さんが肩をポンポン叩きながら努めて明るい声でケインを励ます。
「ああ。元々ダメ元のつもりだったしな」
そう言って俯くケイン。だがその顔には生気が感じられない。
それにしてもニーナは何の為にケインをエミリーの所へ連れて来たのか。
こんな時こそ陰魔法の暗示の出番じゃないの?
「あっ、そろそろ来たみたいですよ」
そのニーナが廊下の先を指差す。その先には大勢の人がぞろぞろと歩いて来る。身なりからして一般人の様だが。
「さっきの衛兵に体調の悪い市民を聖女が診てくれるって言い広めさせました。勇者パーティのイメージも有りますから困るでしょうね」
クックックと笑いを殺しながらニーナが言った。
「私はケインさんには腕が再生するなんて夢見事は捨てて、将来を見据えて地に足を着けた生活を送って欲しいと思いました。だから聖女でも治せない現実を見せる為にご足労願いました」
そうだったのか。
◯▲△
ケインと別れた俺達はニーナのお祖父さんの墓を探す事を目的として王都を歩き回った。
途中で美味そうな物を食べたり、珍しい物を見たりしながら。
すっかり観光客の様だが王都に来た目的であるエミリーを連れ戻す事は無くなったので仕方ない。
ニーナの墓参りと王都散策くらいしか次の目的が思い付かないし、やる事が無い。
ニーナの両親はニーナが幼い頃に事故で亡くなっていて、お祖父さんの身内はニーナしか居なかったそうだ。
だが大賢者とされているカールの師匠だ、きっと立派な墓に違いない。
「アンドリュー=ブライトンという200年前の魔法使いの墓は在りますか? 当時は大魔道とも呼ばれていました」
王都の墓地を片っ端から当たり、墓守りに聞くがニーナのお祖父さんの墓を知っている者は居なかった。
そうなると嫌な予感しかしない。
そして悪い予感に限ってよく当たる。
「あのカール、そこまで恩知らずとは思いませんでした」
ようやく分かった事は、ニーナのお祖父さんは無縁仏として費用が最も安い合同葬とされていた。最早ニーナのお祖父さんの遺骨を特定する術は無い。
「うっ、おじい様…」
そこでニーナは初めて泣いた。
ここに来る前に旧宅が在った場所にも行ったがニーナの知っている光景は跡形も無くなっていた。200年の時の流れの無情さを痛感した直後にこの仕打ちだ。
今まで寂しかったろう。心細かったろう。
それでも気丈に振る舞っていた15歳の少女は唯一の肉親である祖父の受けた仕打ちに涙した。




