ニーナの魔法を姉さんが解く
「ねえ、クリス君」
ケインを背負ったままの俺に姉さんが話し掛けて来た。ようやく落ち着いた姉さんだ。こう言う時は大体何か提案をするんだよな。
「なに?」
「いい加減に重いでしょ? ニーナちゃんの魔法だけど私が解こうか?」
ありがたい!
ケインはニーナの魔法で眠らされてもう数分が経つ。正直キツいからこれは拒否する理由は無い。
「出来るの?」
「あれって寝かせただけでしょ? なら簡単に出来るわ。陰魔法でも簡単な方ね。厄介な魔法じゃないからニーナちゃんも出来るんじゃない?」
「ええ。あれは陰魔法の一種です。姉さんの浄化か、私の光魔法で、姉さんの言う通り解くのは簡単です」
「ふーん、この魔法は解くのが簡単なのか。それじゃ厄介な陰魔法って有るの?」
完璧聖女と賢者が厄介って言う魔法って有るのか気になる。
「そうですね、暗示でしょうか」
「暗示? そんなに難しいの?」
ニーナから返ってきた答えが意外だった。もっと複雑そうな魔法だと勝手に思っていたから。
「そうねぇ、暗示は解くのは簡単なんだけど」
「暗示は元の人格に違う人格を上塗りされている状態異常です。これも姉さんの浄化か私の光魔法でその上塗りされた人格の除去は出来ます」
「なら何が厄介なの?」
「問題はその後よ。暗示が掛かっていた時の記憶は残るのよ。人によっては解くのが残酷な時も有るわ。上塗りされた人格に操られていたとは言え、自分のした事の酷さに自己嫌悪に陥る人も珍しくないわ」
「一応は陰魔法で記憶の操作も出来ます。もっともこれも暗示の1種なんですけどね。だから常に魔法が掛かっている状態なので精神的に好ましくはありません。解けた時にフォローする環境が整っていれば良いのですが」
「ふーん、そうなんだ」
確かに厄介だな。
「なるほどな。それはそうと今のケインは寝ているだけなんだろう?」
「ええ。これも姉さんの浄化か私の光魔法で解けます」
それなら答えは決まっている。早く解いて欲しいがこの際だから聞いておこう。
「なぁニーナ、そもそも光魔法って何に使うんだ?」
「そうですね。一見すると姉さんの聖女の能力に似ていますが、似て非なるものと言いますか」
「そうね。私の能力の内、破邪と浄化がニーナちゃんの光魔法と近いかしら」
「治癒とか結界は出来ないの?」
「結界は似た物は有りますが治癒は残念ながら」
イメージだと光魔法は治癒とかも出来そうだけど、実際には無理らしい。
治癒は聖女の専売特許って訳か。だからこそ聖女の存在は価値が有るんだな。
「よし、それじゃケインに掛けた魔法の解除をお願いしようかな。流石に重い」
「分かったわ」
「ちょっと待って下さい。私にやらせて下さい!」
「それはいいけど、どうかした?」
どっちでもいいから早くして。段々と足が震えて来た。もうすぐふらつく。
「実は先程の自称賢者ですが、私に近付いた際に暗示を掛けようとしました。暗示の魔法を開発したのは私の祖父なんです。祖父はこの暗示は悪い方へ思い込んでる人を救う為の魔法として開発したんですよ。だから悪用は許せません!」
ニーナからの鋭い眼光はダニエルが戻って行った部屋を捉えていた。
ニーナとしては本来ネガティブ思考の人をポジティブに変える為の魔法を開発者である祖父の意図しない使用方法をされて、かつて無い真剣な表情だ。
「待ってニーナちゃん、気持ちは分かるけど私の浄化の方が良いわ。あんな事が有った直後だから…ね」
姉さんがニーナを止めた。念には念を入れる事も大事だよな。
「分かりました」
そう答えニーナは渋々引き下がった。
「浄化!」
姉さんの全身が光り輝くと辺りが急に明るくなった気がした。
「うっ、うぅ…」
俺がさっきから背負っているケインが目を覚ました。
それと同時に遠くから「いやぁー」とエミリーの悲鳴が聞こえた気がするが、それはもうどうでもいい。
「姉さんの浄化は状態異常の原因も取り払いますから、この近くで状態異常の人が居たら全員が直ったと思います。流石は完璧聖女ですね」
「俺はどうしたんだ?」
「聞く前に自分の足で立ってくれ」
自分よりも大柄なケインを結構長い時間背負っているんだ。俺の足は産まれたての子鹿みたいにプルプルと小刻みに震えていた。




