ニーナと賢者
「待て小娘、この賢者であるこのダニエルの目は節穴ではないぞ!」
部屋を出た所で賢者ダニエルと名乗るインテリ風の男が俺達を追い掛けて来た。この言葉はニーナに向けられた物に間違い無い。
それにしてもニーナを小娘呼ばわりって、正体を知らないから言えるんだろうな。
「小娘とは私の事でしょうか?」
「他におらんだろう。そっちの年増女に用は無い!」
そこの自称賢者、火種を無駄にばら撒くなよ。今度は見るからに不機嫌な姉さんを落ち着かせないと!
「小娘ではありません。私にはニーナ=ブライトンという名前が有ります」
「ブライトン?」
ニーナの苗字を聞いてダニエルとか言う賢者は考え込んでしまった。この賢者が200年前にニーナをマジックバックに閉じ込めたインチキ大賢者カールの流れを組むのなら知っていても不思議は無いのだが。
「確か200年前に魔王を封印した我が先祖である大賢者カールが修行時代に師事した魔法使いがそんな名前であったな」
やはり知っていたんだ。
「奇遇ですね。その魔法使いはどんな方かご存じですか?」
俯いたニーナが声を震わせて尋ねた。その表情は俺達の誰からも見えない。
「ウーム、確か記録によれば大賢者カールに頼み込んで孫娘を付き人にさせたが、その孫娘は魔王との戦いで迂闊な事をして焼け死んだそうだ。それ以降は一切の交わりを断ち塞ぎ込み孤独に死んだらしい」
「そ…、そうですか…」
「そんな事より答えろ。お前は碌な詠唱もせずにあの魔法を発動させたな?」
確かにニーナと居るとこれが普通になってしまっているが、普通は詠唱が必要なんだよな。
「どうやった?」
賢者ダニエルと名乗った男がグイッとニーナに迫った! 今にも顎クイってやりそうな感じで。
「……」
「まぁいい。お前は筋が良さそうだ。私の弟子にしてやろう」
「生憎ですがお断りします。私はこのパーティの魔法使いとして忙しくしておりますし、そもそも師匠は1人で結構です」
「フン、愚かな事を。どうせ大した師でもあるまい」
「大した師です!」
ダニエルは大した師ではないと言ったのがまさか自分の先祖であるインチキ大賢者カールの師匠だとは夢にも思わないだろう。
ニーナと自分の関係性を知らないとは言えこう考えるとかなり恥ずかしい奴だな。
「まあいい。気が変わったら来るが良い」
ダニエルは吐き捨てる様に言うと踵を返して行ってしまった。
「ニーナの魔法の実力を欲しかったんだな。或いは手元に置いて自分を超える魔法使いの出現を阻もうとしたか」
俺はダニエルの背中を睨み付けながら素直に思った事を口にした。
「そんな事はどうでもいいのよ。あいつら、只じゃおかない!」
姉さんからは聖女とは思えない殺気がみなぎっている。
「クリスさん、ここを出たら…」
「ニーナ?」
「祖父のお墓参りに行っていいですか?」
「もちろん。元気に帰って来た姿を見せてやれ!」
声を絞り出したニーナに俺は敢えて笑顔で応えた。




