こっちから願い下げだ
「何だ騒がしい」
俺のエミリーへの想いが急速に冷めた所に男が3人入って来た。
「目障りだな。消えろ」
先頭で入って来たアラサーと思われる男だ。この態度は人を不快にさせるな。
「ここは勇者パーティの聖女殿の部屋だ。早々に立ち去るがよい」
なんかインテリっぽい奴が冷たい声で言った。20代半ばくらいか。
「なっ、ケイン、何故お前がここに居る? 答えろ!」
初っ端からを見下す3人組、誰だか知らんが最後の奴はケインの知り合いか。コイツも20代半ばくらいに見える。
「恐れながら申し上げます。私達は聖女様に診て頂きたいこちらの患者を連れて参りました。剣聖様とも旧知の仲と伺っております。是非とも剣聖様の御口添えにて聖女様の御慈悲を賜りたく存じます」
姉さんが深々と頭を下げて挨拶をする。それに倣って俺達もするが、ケインだけは下げなかった。
ケインは最後に入って来た男を睨みつけるだけだった。
「聖女は平民の為に呼んだのではない。我ら勇者パーティによる魔王討伐為に呼んだのだ。平民はそんな事も知らんのか」
3人の真ん中に位置する男が言い放つ。この男がリーダーなのか?
という事は我ら勇者パーティって言っていたからコイツが勇者、つまりロバート王子なのか?
「そうよ、殿下の仰られた通り聖女の力は勇者パーティの為、王侯貴族の為よ。平民に使う義理も義務も無いわ!」
「それがお前の目指す聖女か!」
「そうよ! 分かったら出て行って! そして2度と私の視界に入らないで!」
それは願ったり叶ったりだ。俺としてもあの最悪な母親を思い出させるこの女に関わるつもりは無い。
こんな金切り声、二度と聞きたくない!
だが怒りなのか悲しみなのか、身体が震えて身動き取れない。
「…行こう」
何とか絞り出した声に力が入らない。それでもここから早く去りたかった。
「ちょっと待て。俺の手はどうなる?」
ケインにとっては最後の希望だったのだから理解は出来る。
だが俺達は聖女の治癒能力では治せない事を知っている。彼には残酷な事をした。申し訳ない。
「何だケイン、聖女殿に手を治してもらうつもりだったのか? 聞いた通りだ。残念だったな!」
ケインの知り合いらしい男が嫌味たっぷりに言い放った。そして更に続ける。
「浮かれて酔っ払ってその様か、調子に乗っているからだ。自業自得だな」
「何だと!」
ケインが今にも噛みつきそうな勢いでその男に立ち向った。気持ちは分かるが落ち着け!
俺は背後からケインの胴に抱き着きその突進を何とか止めた。
「見苦しい。本来ならば無礼討ちにする所だが今回は殿下の御前である、特別に見逃してやる」
「この野郎!」
「落ち着け!」
ここは何としてもケインを黙らせないと、ケイン自身も俺達も非常にマズい。
「でもよ…」
と言いかけてケインは意識を失ってしまった。お陰で今度はバランスを崩したケインを支えなければ。
「魔法で寝てもらいました。この方が良いでしょうから」
ニーナがこっそりと教えてくれた。流石に頼りになる。
「大変申し訳ございませんでした。平民ゆえの数々の無礼、平にご容赦下さい」
ここは頭を下げてさっさと退出しよう。
「ウム。勇者として旅を始めれば似たような事も有るであろう。許すぞ、俺は心が広いからな」
何でもいい、さっさとここから立ち去ろう。
思い出すと腹が立つ。視界に入るなだぁ?
こっちから願い下げだ!




