再会はしたものの
コンコン
「失礼します聖女様」
ドアをノックして姉さんが先陣を切る。そのままドアノブに手をかけたと思えば瞬時にその手を引っ込める。
「ドアに簡単な結界が張ってあるわ。でも私には無意味だけどね」
姉さんはほんの数秒だけ手を翳すと何も無かったかの様にドアを開けた。
「エミリー!」
「クリス!」
部屋の中には白い法衣姿のエミリーが居た。着ている服以外は何も変わらないエミリーが。
「ちょっと、こんな所まで何しに来たのよ?」
「エミリーの本音が聞きたくてここまで来た」
「何の事よ、私の本音って?」
「この前のエミリーは明らかに変だった。俺はエミリーが本当に思う事を知りたいんだよ!」
「何を言っているの? この前あなたに言った事が全てよ。それ以上でも以下でもないわ!」
エミリーが語気を強めた。こんなエミリーは聖女に認定される前はあり得ない。
「うーん、厄介ね」
姉さんが首を傾げて考え込んでしまった。エミリーに会う様に言ってたのは姉さんだろうが。想定外とでも言いたいのか知らんが、もう無責任だな。
「そもそもどうやってここに入って来たのよ?」
ニーナの魔法なんて言えない。どうするか。
「親切な人に案内して頂きました」
衛兵に暗示を掛けた当の本人であるニーナがしれっと言う。
「貴女誰よ? それに貴女も!」
エミリーはここでニーナと姉さんにようやく気が付いたかの様に聞く。
「私はクリスの姉のアリー、こっちは妹のニーナ。私達3人は腹違いの姉弟で父の仇討ちの為に旅を…」
「姉さん、それはもう要らないと思います」
「えっ、そう?」
「はい。今まで誰一人本気で信じた人はいませんから」
ニーナは実に冷静に姉さんの考えた設定を否定してくれた。
ありがたい。もうこの設定は使われないだろう。
「兎に角、私達はクリス君のお供と言いたい所だけど今日は聖女様に相応しい怪我人を連れて来ているの」
ここで姉さんがケインを前に押し出す。
「聖女様ならこんな怪我人でも何とかなる筈よね?」
「こっ、これは…」
エミリーの顔が一気に引き攣った。完璧聖女の姉さんでも治せないケインの腕だ。聖女になったばかりのエミリーに治せる訳が無い。
「エミリーは聖女になってから何をやった?」
「何よ、いきなり」
「困っている人を助ける事が聖女の本来の姿じゃないのか。だから聖堂に居るんだろ。彼は腕を切られて剣士の夢を諦めざるを得ないんだ。何とか出来るなら何とかしてくれ!」
「頼みます。聖女様」
出来ない事は百も承知だ。
エミリーは顔を引き攣らせながら何か言葉を絞り出そうとしている。
「こんなの私がやる義理も義務も無いわよ!」
やっと出た言葉は余りにもお粗末な答えだった。
「聖女様には難しそうですね。でしたらどの程度の傷なら治せますか?」
「聖女様、いくら聖女様でも出来る事と出来ない事が有ります。ハッキリ言うと魔王を倒す為の勇者パーティの聖女様、貴女に勤まりますか?」
ニーナと姉さんが畳み掛ける。エミリーにはもう余裕など無いだろう。
「何を言い出すのよ。聖女は私以外にいないでしょ。魔王の所だって行くわよ!」
エミリーが声を張り上げる。その様はヒステリーで醜い。俺が1番嫌いな人間である母親の様だ。
この女を俺は本当に愛していたのか?




