陰魔法の暗示
「新たに来た聖女に会わせて下さい」
ニーナが大聖堂の正面入口に立つ衛兵にいきなり声を掛けた。そしてニーナはさも普通の事であるかの様に、お隣さんにお裾分けを持って行った時の様に軽い感じで言い終わるとニッコリ微笑んだ。
「何を馬鹿な事を言っている。聖女様はお会いになどならん。早く帰れ!」
衛兵からは予想通りの返答だ。考え無しに突っ込めばこうなるのは明らかなのにニーナは何を考えているんだ。
「怪我人が居ます。お願いしてもダメですか?」
「当たり前だ!」
苛立っているのか衛兵の声は大きい。対してニーナは相変わらず涼しい顔だ。だが口は微妙に何かモゴモゴ動いている。
「それではお願いではなく命令します。聖女の所へ案内しなさい」
「何を言うか…、かっ、かっ、かしこまりました」
衛兵がニーナの言う事を聞いた?
「ニーナちゃん、今のは暗示?」
「はい。陰魔法の一種で、弱目の暗示を掛けました」
驚く姉さんの問いにニーナが会心の笑顔応えた。
「ちょっと待て、魔法って言ったよな? 詠唱も無しに?」
ケインは狐につままれた様な表情をしている。俄には信じられないだろうな。
「暗示は人の心を操る陰魔法です。本来の人格に術者に都合良く上塗りする。私が強く暗示を掛けるとあの衛兵は自我が破壊されて廃人になりますから大袈裟な詠唱は出来ません。魔力を抑える匙加減って難しいのですよ」
「凄えな! その若さでそんな事まで出来るのか」
「いえいえ、私など」
照れて謙遜しているけど実際に凄いと思う。これでかつて魔王を追い詰めたって聞いたらケインはどんな驚き方をするんだろう?
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「この先に聖女様はいらっしゃいます」
「ありがとうございます。持ち場にお戻りなさい。その暗示は明日の朝に解けます。それまでは私の言う事を聞きなさい」
去って行く衛兵にニーナが声を掛けた。明日の朝に解けるって、暗示ってタイマー機能が有るのか?
「そんな事まで出来るのか?」
「まぁ、一晩寝て起きたら解ける程度の強さですから。魔族相手だともっと強いのを掛けて自害させた事も有りますよ。魔力を高めさせて自爆させて」
魔法の実力は知っていたが、やはり恐ろしい奴だな。
そんな事をしている内にエミリーが居るという部屋まで来た。
「いよいよね。心の準備はいい?」
「ああ。もう出たとこ勝負だ」
姉さんに聞かれても実際に何をエミリーに言えばいいか分からない。会えば自然に何か出るのだろうか?




