勝者の特権
すっかり緊張感の無い戦闘になったが、俺達の紹介はまだ終わらない。
「我ら、勇者様御一行の露払いを仰せつかった」
勇者様なんて誰一人として心にも思ってないが、勇者一行の露払いとして活動している事は本当だ。
雑魚の魔物を相手にして勇者一行による魔王討伐が遅れる事を嫌った国王の命により、露払いとして勇者一行の行く先の弱い魔物を予め駆除してスムーズで快適な旅を勇者一行に提供する、そんな冒険者パーティが募集された。
そして予選を勝ち抜き採用されたパーティが俺達。
しかし俺達はハッキリ言って誰も勇者様なんて思っていない。さっき勇者の事を言ったのも万が一このリザードマンを取り逃がした時に、逆恨みは勇者一行に向く様にしているだけ。
その理由については今度飲みながらでも語りたい。
さぁ、気を取り直して戦闘に戻ろう!
「リーダーは勇者一行の従者と次の目的地について打ち合わせしていましたよね。日程やルートとか面倒な調整についても全部」
戻ってねぇ!
「宿屋の手配とか酒場の払いをしてパーティの資金管理もしているわよね」
「旅に必要な日用品や消耗品の調達もリーダーがしているな!」
うん。改めて言われると悲しいけど、全部俺がやってる。1人で。
「それ、リーダーじゃなくて雑よ…うっ!」
皆まで言うな。
何を言いたかったのかは分かるが、リザードマンは言い終わる前に絶命した。ニーナが条件反射的に放った炎の矢で心臓を焼き尽くされ強制的に現世から退場となったのだ。
「雑用なんて失礼ですね。リーダーにしか出来ないパーティの根幹を支える実にクリエイティブな必要不可欠な仕事です!」
「ホントよ。リーダーの仕事の重要性を理解出来ないなんて、やっぱりトカゲね」
「クソ! ニーナに先越されたか! リーダーの事をとやかく言う奴は俺がニワトリの一口サイズにまで切り刻んでやりたかったぜ!」
「すみませんケインさん。兎に角これで勝ちました」
まぁアレだ。一応リーダーとして勝利宣言はさせてもらう。リーダーとしてな。
「よし、特に興奮もしない戦いだったがひとまず終わった。それじゃ他に魔物がいないか建物内を隈なく探すぞ!」
「了解したわ!」
「合点承知の助!」
「承知しました!」
さぁ戦後のルーティンである捜索開始だ。
◯▲△
このリザードマンが居座っていた所、それはかつての領主の屋敷だ。
「さてと、家宝の剣とか有るかな?」
「私は気の利いたアクセサリーでいいわ。奥方の部屋は何処かしら?」
「質の良い魔石とか有ると助かるのですけど」
戦闘後の恒例行事、それは残った魔物がいないか調査する事なのだが、そんな事は形だけ。ニーナの索敵魔法を使えば一発で終わる。
つまり実際には調査の名を借りた家捜しをし、勇者一行が来る前にお宝を頂く!
敵を倒したのは俺達なんだから権利は俺達に有る筈だ!
ここは魔物の到来を知り誰よりも先に逃げ出した領主の館だ。それなりには何か有るだろう。
いつもケインは良い武器、姐さんは宝石、ニーナは魔石など魔法関係の物をそれぞれ頂戴している。
「リーダー、奥の部屋に金庫が有ったから扉をぶった斬っておいたぜ!」
「流石だな」
そして俺の目的、それはズバリ現金。パーティの活動資金には現金が一番なのだが…。
「ハァ、書類ばかりで現金が無いか」
領主の奴、逃亡する時に現金を持ち出したやがったな。手っ取り早いから仕方ないか。
改めて断っておくが俺達は断じて火事場泥棒の類ではない。
領民を守るという領主としての最低限の役目を果たせない領主に代わって魔物を成敗したんだ。報酬は貰っても罰は当たらないだろう。
それに元は領主の物でも魔物に奪われている。その魔物は俺達に倒されたのだから、現在の所有権は俺達に有る筈だ。多分。
◯▲△
「みんな、そろそろ撤退するぞ!」
館内の調査開始から1時間程経っている。そろそろ切り上げていい頃だろう。
「ケイン、収穫は?」
「何とか使えそうなのが有ったかな」
ケインは自分のマジックバッグから剣を数振り出して見せた。ケインにとって剣は消耗品と言える。何せ岩の様な肌を持つ魔物を相手にしている。
さっきのリザードマンにしてもその身体を覆う鱗は鉄の様に硬い。それを平気な顔して、包丁で魚を捌く様に斬っているのだ。剣だって傷みもする。
剣士は戦闘中に剣が折れた時にスペアが無ければその時点で敗色濃厚となる。
そして言うまでもなく魔物相手の敗北は死を意味する。
ケインは自分と仲間を守る為に剣を収集しているのだ。




