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隣国の秘宝

 俺と姉さんは母親に教えられた通りに町の人々が集められている場所へと向かった。


「ちなみに聞くけど、クリス君の戦闘経験は?」


「狩人だから弓矢は得意だ。弓矢でなら大抵の獣は狩った事が有るかな。熊だってしっかりと急所を狙えば大丈夫だ!」


「魔物は?」


「ゴブリンなら経験有る」


 村の近くに来たゴブリンを頼まれて仕留めた事が何度か有る。


「他には?」


「名前は知らないけど兎とかタヌキみたいな魔物はナイフで仕留めた事が有るかな」


「そうなの」


 不安なのか姉さんはそれっきり黙ってしまった。

 ちょっとその沈黙は止めてくれ。これじゃ実績不足か。でも仕方ないよな。こちとら魔物ではない普通の獣を狩る只の田舎の狩人であって、魔物を追い求める本職の冒険者じゃなかったんだから!

 獣と魔物の違いは色々あるが一番分かり易く言えば、額に魔石と呼ばれる石が有るのが魔物で、無いのが普通の熊とか鹿といった獣だ。

 普通に考えて魔物の方が凶暴で圧倒的に強い。

 例えば鹿、狩人には絶好の獲物だ。しかし同じ様な鹿に見えても魔石が有る魔物となると話は別だ。

 普通の鹿の何倍ものパワーとスピードで人を襲う恐るべき存在である。

 実際に普通の獣は魔物に捕食されてその数は減り続けている。

 更にはドラゴンタイプやアンデッドなど生態系の枠を超えて獣には無い物までいるから厄介だ。

 そして人の様な見た目ながら魔物と獣の違いの様に額に魔石が有るのが魔族だ。獣と魔物の違いの様に、魔族の身体能力は人類のそれを遥かに凌駕する。おまけに知性も高く魔法も使える。と聞いていた。

 実際は、高い知性と言うのは疑わしい事が分かったが、短時間で街を制圧した事を考えると魔力と身体能力は本当らしい。

 その魔族や魔物に渡り合える人間は日頃から鍛えている冒険者くらいだろう。

 今の俺はそれに登録しようとしてはいるけど、基本的には只の田舎の狩人だから。


「それじゃ魔族には奇襲を仕掛けましょう。弓矢を用意して」


「俺の実績って今言った通りだよ。本当に大丈夫だと思ってる?」


「うん!」


 姉さんは頷くとニッコリ笑って見せた。


「大丈夫よ! 私も魔族とは会った事は無いけと文献によれば破邪は効くらしいから至近距離は私がやるわ。遠距離は弓矢でお願いね」


「よし、それじゃ準備をしよう」


 旅に必要な物を入れてあると言うマジックバックから弓を探し出す。


「よしこれだ!」


 爺ちゃんから貰った愛用の弓、これで熊も鹿もゴブリンも仕留めたんだ。

 次に手をマジックバックの中に入れて今度は矢筒を探す。


「あれ?」


 途端に不安が押し寄せる。

 おかしい。いくら探しても指先をかすめるのは衣類や保存食の類ばかり。考えたくは無いけどそれしか答えが浮かばない。

 もしかして?


「姉さん、必要な物は入れてあるって言ったよね? 矢が無いみたいだけど」


「あーっ!」


 姉さんは辺り一面に響き渡る大声で叫ぶと両手を頬に当てる。忘れた、どうしようと瞳が語っている。


「声が大きいって!」


 慌てて口を押さえる。何を言っても矢が出てくる訳じゃない。姉さんを責めても何も良い方向にへ向かわない。

 でもこの状況、どうしようも無いんだよな。


「無い物は仕方無い。何か違う作戦を考えよう」


「ごめんなさい」


 シュンとする姉さんに努めて明るく振る舞う。これから命懸けの戦いに臨むんだ、せめて雰囲気は良くしておきたい。

 気を取り直してマジックバックの中を漁ると愛用のナイフが出て来た。それを取り出し、最早何の役にも立たない弓は再びマジックバックに収納する。


「それにしてもこのマジックバック、便利な物だよね!」


 姉さんの気持ちが軽くなる様に話題を変えてみた。


「無限じゃないらしいけど、ある程度の物は入るから便利よ。それにこの中では時が止まるそうなの。だから食べ物を入れても腐らないのよ。氷を入れても溶けないし、温かい料理を入れても冷めないの!」


 それなら狩った獲物を入れれば楽に運べるし、肉も新鮮なままか。狩人にとっては夢のような代物だ。


「これ高いんでしょ?」


 錬金術士が作り出すこのマジックバック、かなり高価で王侯貴族か大商人がようやく手に入れられると聞いている。

 庶民には無縁の代物で存在を知らない人だっているくらいだ。


「…買えば……ね…」


 姉さんはまるで他人事の様に言葉を絞り出すと、バツが悪そうに目を逸らす。


「貰ったのよ。慰謝料代わりに」


「何だよそれ?」


「言ったでしょ。聖女は政争に巻き込まれるって。まぁ貰ったと言うより、頂いて来たって言った方が正確かな」


「何だよそれ?」


「これ実は、セグロット王国の王城に保管されていたの」


 隣国の王城に保管されていたのか。


「それを出て来る時にチャンスが有ったから、どさくさに紛れて頂戴したのよ。……無断で」


「何だよそれ!」


 それじゃ泥棒じゃないか!


「聖女としてほぼ無給で働いて働いて働いて働いて働いたのよ! 未払いの賃金と退職金、それに婚約破棄の慰謝料代わりよ!」


 姉さんの声がかなり大きい。魔族に聞かれて無きゃいいけど。

 でもこれが文字通り姉さんが声を大にして言いたかった事なんだろう。

 その辺は後で詳しく聞こう。今は魔族討伐の作戦会議だ。


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